第3話

 最後の週、内容は郊外での実戦だ。

 俺とランタはこの前とは別のランククスイス(六)イルチアさんの後ろをついていく。

「いいか?こういうところでは足元に注意しろ?何があるか分からないし、地面ってのは結構振動が来るもんだからな。魔物に注意する時も足音に一番気を使え。」

 イルチアさんは理論派のようで、噛み砕いて解りやすく教えてくれる。

「………あそこ、見てみろ。」

 イルチアさんが指差した先にいたのは一見普通のシカだが、実は魔物と呼ばれる人に攻撃的な動物だ。

 魔物の定義としては、光魔法に苦しむという共通点がある。それ以外はあまり分かっていないみたい。

「あれはディランディア。水を操るシカで、特徴としては体毛が常に濡れていて、角が半透明なことだな。」

 なるほど、とても分かりやすい……が、シカの違いは分かりにくい…………魔物と普通の動物の見分け方も覚えないといけないのは大変だ…………


「今日から三日間、ここを拠点として生活してもらう。アドバイスはするが、基本は二人で考えてくれ。」

 イルチアさんがそう言うとその場で跳躍し、木の上に寝転がった。

「マジか……ま、仕方ねぇ。よろしくなグレンツェン。」

「問題だけは起こすなよ、ランタ。」

「ふ、任せろって!」

 不安だなぁ………





一日目



「とりあえず、天幕は完成だな。」

「あぁ、携帯してはいるが、食料と水の確保もしたい。俺は川を探すから、ランタは食料を任せる。狩れそうなら肉でもいいぞ。」

「ふふん、俺の腕にとくと驚け!」

 ま、飯はなくてもいいし、あいつがなにもすることがなくてやらかすよりはこっちのが良い。

「オレオン」

 魔術語で燃えろと唱え、手頃な木の枝に火を付ける。

「エツァコヨス」

風魔法で炎が消えないように、風を送る。


「君は魔法得意なのかい?」

「あ、イルチアさん。………いつも退屈な時は最下級の魔法を出して遊んでいました。最下級なら、お小言を言ってくる人も気付かなかったので。

 だから得意かどうかは………」

「なるほど。ありがとう、続けて良いよ。」

「はい。」


 俺はナイフの切れ味を確認し、耳に感覚を集中させながら、森を進む。

 木に切り傷をつけて目印にしていく。

「地図には東側って書いてあったから…………っ」

 目の前には草葉を食む兎。

「爪は長くない、目の色も赤い、体毛も黒くない………ただの兎か…………せい!」

 ナイフを構えて、投げる。

「キュ………」

 ナイフは綺麗に兎の首に吸い込まれ、一発で仕留めることに成功した。

「水汲みがてら、血抜きもしておこうか。」

 目を背けたくなるような見た目と匂いを我慢しながら、見つけた川の前に座り込んだ。



 よし、この葉っぱは腐敗を遅らせるって書いてあったから、兎肉にくるむか。



「肉の処理終わり、水は節約すれば五日分はある。早いが戻るとするか。」








「よぉ、帰ったぞー。」

 夕刻になると、ランタが帰ってきた。

「どうだ?」

「食える木の実がそれなりにあったぞ。肉は兎を三羽獲った。この火で焼いて食おうぜ。」

「そうだな、これ水な。」

「サンキュ。

イルチアさん!飯にしましょ!」

「ん?あぁ、俺の分は気にするな。二人で食いな。」

「なら、ランタが二羽食べなよ。俺はそこまで食わないから。」

「マジか!ラッキー!」

 

 実地訓練一日目、何事もなく終わった。

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