第1話

「はぁーい、安いよ安いよー!」

「この魚!一尾でなんと銀貨四枚!」

「キャルリア名物里芋の砂糖漬け煮込みダヨォ!」

「このナイフは一本金貨一枚!破格だよー!」



 ここはキャルリア郊外。

 市街地に入れなかった者達が、市街地で毎月一回行われている蚤の市に乗っかる形で収入を得ようと物を売る。

 俺ももちろん参加している。


 俺が売るのはこの、木製のカバンだ!

 村を抜け出して三週間。なんとか食い繋ぎながら作ったこの三つが俺の生命線!

 

 ま、なんでこんなことをしてるかって言うと、まず指定された都市でしかギルドに登録できない。ギルドってのは所謂何でも屋って感じだな。そこなら俺でも働くことは出来るってわけ。

 村に一度だけ来たギルドの人がこっそり俺に教えてくれた。

 ここキャルリアも指定都市だが、その分警備も厳重。身分証のない俺は金を払わないと通過できず、その金がべらぼうに高額………!

 だがら、急拵えで作ってナイフで整えたこの木製カバン…………労力やこの先を考えても一つ金貨三枚は欲しいところだ。


 ん?どこでそんなの覚えたのかって?

 このナイフの所有者のブリューナクから教わったのさ。俺に危険なことを教えるなって村長マジギレしてたけど、覚えといて良かったぁ!







「……………」




「……………………………」






「…………………………………………………」





 売れねぇ!!!!!

 ………俺も呼び込みをするべきか………?



 だが………周りがうるさすぎて、俺の声なんかカスリも届かないだろなぁ。




「おや?君、このカバンは君が売っているのかい?」

「えっ?」

 俺が悩んでいると、前方から声をかけられた。

 顔を上げると、銀髪のいかにもなおと………こ?がいた。

「そうだけど………」

 多分……男だよなぁ?

「へぇー、いいねぇ。外も賑わってるから少し覗いてみたけど、こんな掘り出し物が……………」

 男?がカバンを持って眺めていると、突然真顔になってこちらを向いた。

「?」

「これ、いくらだい?」

「え?あぁ一つ金貨三枚……」

「全部買うね、はいこれ、じゃ!」

 男?は俺の言葉を遮るように袋を置き、カバン三つを持っていった。

「ぁ!?どろ……いや、中身を見てからでも!」

 俺は出かけた言葉を飲み込み、男が置いていった袋を見る。

「っ、っ、っ、っ、っ、っ、っ、っ、っ、っ、っ…?金貨十一枚………?」

 俺は周囲を見渡し、ゆっくりと袋を抱える。

 あのやろー、ビックリさせやがって………まぁ、これはもう俺のもんだ!良い取引だったぜ!








 俺は金貨五枚を払い、キャルリア市街地に入る。


「うおぉぉ、建物が縦に長い!」

 俺の村は全部平べったかったから、不思議な感覚だ。

「っと、んなこと言ってる場合じゃなくて、ギルドは確か、燃える剣の旗が目印だったか………」

 とりあえず歩けば見付かるか。








 あった!

 フゥー歩き疲れたが、見つけたからか疲れが吹き飛んだぜ!

 

 俺はギルドの扉を開けた。

「いらっしゃいませ。」

「うお!?」

 開けた扉のすぐ横に、女の人が立っていた。

「用件を伺います。」

「あ、えっと、登録を。」

「新規の御登録ですね?それでは、左奥の1番窓口へどうぞ。」

「あ、ありがとうございます。」

 すげぇ、都会って感じがする!



「はい、ようこそ。登録にはお金と個人情報を書いて貰うわよ。」

 年は四十ぐらいの女性が答えた。

「ちなみにいくらかかりますか?」

「金貨一枚だ。だけど、これは保険を兼ねてるから、もしあんたがギルドを辞めたくなったら返還されるよ。」

「そうなんですね、ではこれで。」

 今金貨一枚はきついが、なくなる訳じゃないし、これから稼ぐために必要なら仕方ない。

「はい、確かに。それじゃ、これに書いて。」

 …………………やば。

「どうしたの?字がかけないなら代筆するよ?」

「いやそうじゃなくて、出身地ってどこだろうって。」

「え?」

「いつも村としか言ってなかったから………」

「なるほどね、ちょいと待ちな。」

 受付の女性が手慣れたように頷くと、奥に引っ込んでしばらく、大きい紙を持って戻ってきた。

「ここに来るまでどれくらいかかって、どこから入ったんだい?」

 なるほど地図か。

「えっと………確か南門から入って、三週間は歩いたかな?」

 ちょくちょくカバンの為に足を止めてたけど、期間はそれくらいだし。

「んーそうすると、ナクワ村とタウチ村、それとデンバー村かねぇ?」

 聞いたことないや………あとなんか………

「……あ、村のすぐとなりに森がありました!」

 これは地形が書かれた地図なら特定しやすいんじゃないかな!?

「森……?おかしいね、今の三つの近くに森はないよ。どこも開拓しきっちまって。」

 女性が困ったような声を出す。

「ん?おかしいな…………」

 あんなクソでかい森、地図に書かれないはずはないんだが………

「もう少し離れたところにあるアッカ村なら森があるね。」

 女性が更に先に指を置いて答える。

「じゃあ、そこなのかな?」

「まぁ、ここで良いんじゃないかい?」

「て、てきとうですね………」

 良いのだろうか…………?

「しょうがないさね。そういえば、字はかけるんだね?」

「あ、はい。」

 俺は出身地にアッカ村と書き込み、他の欄も埋めた。

「はい、アッカ村出身のグレンツェン・コルミー……コルミー!?」

「え?」

 女性の突然の大声に俺はぽかんとしてしまった。

「君ねぇ、ないからって偽名はダメよ。」

 女性が諭すように俺に話し掛けた。

「え、これは偽名じゃ………!」

「いいのよ、家名がなくたって、誰もバカにしないわ。ここは消して登録しておくわね。

 登録は少し時間かかるから、出来たらまた呼ぶわね。」

 受付の女性がなんとなく憐れむような目で見てきたのは勘違いじゃないだろうな…………






 俺はギルドのテーブルイスに腰掛けた。

「コルミー…………」

 何か有名な人でもいたのだろうか…………?

 昔、村長が俺のことを一度だけフルネームで呼んだ。それがさっき書いたグレンツェン・コルミーだ。


 まぁいい。俺はもうあの村で生きてきたグレンツェン・コルミーなんかじゃない。

 自由を謳歌する、新生グレンツェンだ!

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