断章  貴族、魔王への対策

『さあ、今年も王国トーナメントがやってまいりました! 幾多の強豪、強者、猛者の集う競技会! 栄えある栄冠は誰の手に!? ――王国トーナメント、間もなく開催です!』

 魔王ディオスが王妃たちと逢瀬を重ねていたのとほぼ同時期。

 人間の領土、王都リドシアにて、盛大かつ伝統ある大会が催されていた。

『幾多の強豪、強者の集う時! 冴え渡る武技に酔いしれてください! 果たして、栄誉ある優勝杯を掴むのは誰なのか!? 第九十七回、ファルドリシア王国――王国トーナメント! 開催まで三十分です!』

 地を揺るがす程の歓声が沸き起こる。

 中央大陸、ファルドリシア王国王都リドシア。王城の中庭。巨大な特設会場の中では、大勢の観客が詰めかけていた。毎年恒例、王国で行われるトーナメントの催しに影響だ。

 その観覧席には、武具屋、宿屋、商人、踊り娘……その他、様々な人で溢れている。

 皆、この日のために鍛え、武技を競い合った猛者たちを見るべくやって来た観客である。

「――どうだ、フリージア? 今大会の『本当の』有力選手は」

 その熱気溢れる会場の貴賓席の中、バルゴス伯爵は冷徹な声音で問いを投げつけた。

 問われた少女は軽く頷きを返す。怜悧な眼差しと端正な顔立ちで告げていく。

「九割はクズ同然かと。語るまでもありません」

「ほう。その根拠は? 雑魚ばかりだと言う理由は?」

「基本的に大会の参加者は、『対人戦』に特化しています。魔物を相手に戦った経験がありません。自らと違う生態系の相手と戦う経験――この欠如は大きな懸念です」

「なるほど、それは大きな問題よな」

 魔物相手と人間相手の戦いでは、当然その意味も違う。

 魔物相手が命がけならば、人間相手の戦いはあくまで武技を競う競技だ。殺し合いを除き、名誉や矜持のもとに行われる。その差が眼前の光景に表れるのは当然のこと。

「だが数名くらい『使える』のもいるだろう? それすら望み薄か?」

「多少ならば猛者はいます。――ただ、五百年もの前、魔王ディオスは魔族を統治してきました。人間界では『死闘』が激減し、突発的な戦が主となりました。――結果、攻城戦や集団戦をほとんど経験しておらず、魔物には慣れていない者が激増しました」

「その結果、『武芸』は秀でていても、『戦士』としては活躍する事は難しいということか」

 その言葉に、金髪の麗人たる鎧少女は静かに頷く。

「無論、例外はおりますが。半端な強者が多いのは事実かと」

会場の闘技場を見やる。ほとんどの選手は、主催者側の用意した見栄え重視の武芸者だ。

 いわば観客を呼び込むための者であり、戦士とは言えない。例外的な一流に関しても、魔王を打ち倒せる者はほぼいないだろう。

「我ら人類は、魔王の脅威を忘れ、仮初の平和に浸りきった。――しかし、例外はいるものだ。いつの世も、己を磨き、強さのみを求める猛者というものは存在する」

 フリージアが同意するように頷く。

「はい。それこそ偽りの平和を打破する、人類最高の剣となりましょう」

 麗人たる少女が頷く。実況の声が響き、会場が盛り上がりを見せる。バルゴス伯爵はそれを後目に、フリージアの言葉のもと、『真なる強者』の選定と戦術に基づき、観覧を行っていく。

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