転生した脳筋令嬢はブルジョア生活を目指します
暇人太一
第01話 暴力から始まる異世界転生
私、シルヴァ・フォン・グラは九歳だ。
今回で三周目の人生である。
前世ならば生後すぐに転生したことを自覚していたというのに、この年になって覚醒するとは……。
それに身に危険が迫っている状況でというのが、尚更質が悪い。私以外の少女なら間違いなく呆けてしまい、危険を回避できずに詰んでいることだろう。
あの者は、いつになったら仕事ができるようになるのか。
はぁ〜、今世は殴らずに済むと思ったのに。
「──おいっ。グラノラっ。ちゃんと抑えておけよっ!」
「わ、わかってるよっ。グラタン兄さんっ」
わぁー、美味しそうな名前。
って冗談を言っている場合ではない。
私は現在進行形で二人に襲われている。
現場は裏庭の池周辺。
罪状は強姦。
正常な判断力を持っているなら必死に抵抗すべきだが、私が焦っていないように見えるのは自分が異常というわけではない。
一周目が男だったこともあり、純粋な女性よりも達観する余裕があるのかもしれない。
あとは、単純に武器を探しているから。
記憶が正しければ、グラタンという足元にいる豚は一二歳。抑えつけ役のグラノラは一〇歳の細マッチョ。九歳の少女が力で勝てるはずもない。
ちなみに、私と二人の関係は異母兄妹となっているが、世間的な噂ではグラノラは完全な他人である可能性も……。
閑話休題。
さて、急所を晒すというグラ豚の準備が終わり、私も準備が整ったため攻撃に移るとしよう。
結局武器を見つけられなかったが、グラノラがしっかり抑えつけてくれていることもあって体のブレを気にせず攻撃できそうだ。
鼻息荒く顔を近づけてくるグラ豚の顎に向けて膝を繰り出す。
体を寝かせた状態で、ましてや少女の力では大した威力はないだろう。が、多少でも驚いて体を硬直させられれば、グラノラと一対一の構図を作れる。
グラ豚が攻撃されたことに驚いたグラノラは、拘束を緩めるという愚行を行う。
私はその隙を逃さず上体を可能な限り前方に倒し、すぐさま後頭部による頭突きをブチかました。
「グアッ」
「オマッ」
グラノラが顔面を抑えて蹲っている隙に、池の側で甲羅干しをしている亀を二匹掴んで二人の元に戻る。
目的は、グラ豚の股間についた巾着に齧り付かせること。
「──カッ」
マカロニの方は放置で、グラノラが逃亡しないようにズボンを足首まで下げて行動を阻害する。
さらにグラ豚同様に巾着に齧り付かせる。
「──アッ」
二人の行動に制限をかけたおかげで自由になった私は、二人にお仕置きするための道具を探しながら身体の確認をした。
身体の異常はなく、記憶もしっかり思い出して定着しているようだ。
「おや? 野生の豚かしら?」
豚のように裸体で蹲るグラ豚の尻を、落ちていた枝で数度打つ。
「ヤッヤメッ」
「あれ? 鳴声が違いますわ」
声が豚に変わるまで打つべし、打つべし。
「プギィィィィィィッ!!!」
「よろしいっ」
大分満足。
「ほ、ほれ……ほっへ……」
よだれを流しながら足の付根を抑えるグラ豚。
亀さんを取ってほしいようだが、無理に外せば取れてはいけないものまでなくなってしまうことだろう。
「あー……ちょっとお待ちくださる?」
「は、はやふ……」
どうしよう。
報復だから助けるつもりはなかった。
しかし、落とし所は必要だろう。
うーん……閃いた。
「お兄様、狸寝入りはいい加減やめてくださる?」
同じく亀さんをくっつけたグラノラを利用することに決め、気絶している体を装っているグラノラを叩き起こした。
どうやらグラ豚と違い、狙いを外して皮だけで済んでいるらしい。
運の良い奴め。
「い、痛いっ」
豚舎の管理人を蹴り起こす。
その際、皮が引っ張られるようで痛みを訴えてきた。
「やっぱり起きてたーーっ」
報復に加担したことでグラ豚に負い目を感じさせ、被害を直接間近で観察することで私に対する反抗心を失くさせるという、見せしめ本来の効果も期待できる。
我、完璧。
「うっ」
相当巻き込まれたくないようで、再び狸寝入りをし始めるグラノラ。
「早く起きないと力付くで外しますわよ?」
たとえ皮だけだとしても、無理矢理外される痛みは想像を絶することだろう。
「──こ、ここはどこっ?!」
「ごきげんよう、グラノラお兄様」
「こ、これは……どういう状況?!」
「またまた〜」
左手を口元に当て「おほほ」と笑い近づき、右のボディブローを喰らわせる。
「ゴホッ」
「思い出しまして?」
「な、何を……」
次は張り手を一回。
「思い出しまして?」
「な、何故っ」
たった一言を言わせるために、張り手とボディブローを続けることしばし。
「お、思い出したっ」
「ようございました」
「「…………」」
未だ立ち上がれずに蹲っているグラ豚と、腫れ上がった顔の左半分に手を当てるグラノラは、兄弟らしく同様の視線を私に向けていた。
「何か?」
「「何もっ」」
「でしたら、グラノラお兄様。あちらの亀さんを取って差し上げてください」
「──えっ!? 僕がっ!?」
自分にもついているのに何故? とでも言いたそうだ。
「あなたの相棒なんですよ? 助けて差し上げるのが騎士道ですわ。騎士になろうとなさっているお兄様が知らないはずありませんよね?」
「そ、それは……そうだけど……」
「それとも、お見捨てになさるのですか?」
「…………やるよっ」
「素晴らしいですわ」
覚悟を決めたグラノラは、子供らしく単純な手段を取った。
それは──。
「イタイッ! イタイッ! 引っ張るなぁぁぁッ」
「だってッ」
暇になった私は亀さんを引っ張るという行為が少し楽しそうに感じ、グラノラに加勢することにした。
「うんしょっ、どっこいしょっ」
手加減しているグラノラの腰を思いっきり引っ張り、手加減を無意味にすることから始める。
「イアァァァァァァ」
「ちょっとっ! 何してんのっ!?」
「えっ? 健気な妹のお手伝いですわ?」
「しなくていいッ」
「チッ」
「えっ? 今……」
「そうですわ。可哀想ですが、亀さんの首をチョンパしてはいかがかしら?」
「い、家の生き物も含めて父上のものだから、勝手に殺すことは禁止されているんだっ」
「襲うのは?」
「「…………」」
「ちなみに亀さんが生きていた場合、次の餌はもう一組あると思うのですが……よろしくて?」
「──兄さんを苦しみから解放する方が大事だっ」
「さすがですわっ」
「兄さん、仰向けに寝て」
「はやふ……」
全裸のグラ豚が分娩台に寝ていると思うと、笑ってはいけないという雰囲気もあって無性に笑いたくなる。
「妊婦さんみたいですわ」
「──クッ」
グラノラに睨まれてしまった。
こちらの世界に分娩台はなく、グラ豚と同じ姿勢をベッドでするだけ。
つまり、体型も相まってより強く連想してしまったのだろう。
「どうして震えてらっしゃるんですか? 具合でも悪いんです?」
「フー……フー……」
「何を産むと思います?」
ちなみに、この会話は小声で行われている。
だからこそ笑い出した場合の危機感が増すというものだ。
「私は白い液体だと思います」
「──はっ!?」
私はグラタンから連想してホワイトソースだと思ったのだが、グラノラは別のものを連想したらしく、何故か顔を赤面させていた。
「何を考えているのです?」
「お、お前が……へ、変なことを言うからッ」
「グラタンに入っているソースを見たことありませんか?」
「──じゃあ最初からソース名を言えよっ!」
「溶けたチーズも白いですから、迷ってしまいました」
「そ、そうかよっ」
「それで、お兄様は何を連想したのです?」
決して逃さんぞ。
「べ、別にいいだろっ」
「わかりました。お兄様のお母様に聞いてみます」
「絶対にやめろっ」
「じゃあ貸しにしておきます」
「え…………」
「どうします?」
「ま、まぁそれでいいよ」
奴隷一号就任おめでとう。
「ん?」
「何か?」
「何か嫌な予感が……」
「お兄様、早く助けて差し上げないと」
「あぁ」
ふぅ。馬鹿で良かった。
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