第2話 恋の香

 恋をする女というのは甘い香りがする。その香りは必ずしも自分向けではないのはよくわかる。俺があまり得意ではない甘さだった。気分の悪くなる甘ったるさ。会話をするとき、眼を見つめる癖がある。相手がその視線に耐えられなくなってふと晒したとき時、俺以外の人物がその潤んだ眼の中に映るのがなんとなく癪だ。その瞬間の彼女からは、特に甘い香りがする。


「__ってどんな子?」


 その言葉を聞いた時、俺はどんな顔をしたんだったっけ。わざと知らないと答えたような気がする。あの人気になってるんだよね、なんて言葉は聞きたくなかったな。『俺じゃダメ?』なんで好きになるのはいつもいる俺じゃないの? そんなこと言える勇気なんてあるわけがない。できるだけ毒を抜いた視線と声で「がんばってね」ただそれだけ。男でよかったとつくづく思う。女であれば、あなたが好きな香りを纏わせてしまっているにちがいない。

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