桜のごとく

　「西園寺美香、まさかの引退」

各紙の新聞の一面にそう載っていた。

　二年前にキー局のドラマで主人公に大抜擢されて以来爆発的に人気を伸ばし、その勢いはさらに増している。そんな時の事だったのだ。

そんな彼女もいきなり売れた訳ではなく下積み時代も長かった。そんな背景もあるため惜しまれると言うより喫驚する者が多いのは当然だった。

記事には彼女の引退表明が引用されていた。

「私は花になりたかった、そしてその夢をみなさまのお力で叶える事ができました。みなさまの期待を裏切るようで申し訳ありませんが、ずっと考えていた事があります。花はなぜ美しいのでしょうかと･･･。私はこう思っておりました。『花は散るからこそ美しい』と。私にとって今がその散る時なのだと。散った後は第二の人生を歩んで行こうと思っております。どうか私を次の人生へと見送ってやってください。今まで支えてくださったみなさま本当にありがとうございました。」

その日以来、彼女が表舞台に再び現れる事はなかった。

世間の彼女への熱が冷めるのにそう月日はかからなかった。何年か過ぎたある日スポーツ新聞の隅に

「西園寺美香、一般男性と結婚」と書かれていた。

それを見た誰かがつぶやいた。

「冬を越え、ぱっと咲いて、さっと散って、実を結ぶ･･･。まるで桜みたいじゃないか･･･。」