コーヒーカップの向こう側

@kasumion

第1話

# コーヒーカップの向こう側


カフェの窓際の席。向かい合う二つのコーヒーカップ。


「今日で最後にしよう」


彼の言葉に、私は微かに頷いた。

窓の外は雨。滴が流れ落ちる様子が、今の私の心そのもの。


「俺、結婚するんだ」


カップを握る彼の指に、ティファニーの指輪が光る。

会ってはいけない人と、してはいけないことをした結果。

三ヶ月続いた秘密の関係。


「おめでとう」


口から出た言葉は、心にもないもの。

テーブルの下、私の手が震えている。


「今まで、ありがとう」


その言葉が痛い。

許されない関係を、私から求めたのだから。


「これ、返すよ」


彼がポケットから取り出したのは、私がプレゼントしたキーホルダー。

受け取った手に、冷たさを感じる。


窓の外を見ると、雨の向こうに虹が見えた。

うっすらと、七色の光。


「じゃあ、いくな」


彼が席を立つ。背中が遠ざかる。

彼の前で涙を見せなかった、振り返らなかった自分に、ほんの少しだけ誇りを感じる。

少しだけ口をつけたいつものコーヒーが苦く感じた。

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