毎日のまたね

ひらりくるり

大好きな日課

学校から帰って、自室のベッドに思いっきりダイブするのが私は大好きだ。


枕に顔を埋め、布団を抱き締めた後、ベッド横にある窓を開けた。


夕暮れ時の穏やかな風がカーテンを揺らし、部屋に吹き込んでくる。


外の空気を存分に吸いながら、街の景色を眺める。


段々暗くなる空とは対照的に、ポツポツと増えていく家や街灯の明かりが私は好きだ。


外の景色に一日が終わる実感をしながら、今日あったことを振り返る。


今日何があったか、誰と話したのか、どう感じたのか。


「今日は目が何回も合った」

「帰るタイミングが一緒だった」

「いつもよりテンションが高かった」


こんな些細なことでも、恋をしてる時はこの瞬間が余計に楽しくなる。心が満たされていく。



気分が良くなった私は、頭の中で"もしも"の世界に飛び移る。


もしもお昼ごはんを二人きりで食べることになったら、どんな話をしようか。


私は真っ正面にいる彼に緊張して、言葉が出てこないかもしれない。


けれど彼は話し上手だから話題を振ってくれたり、自然と盛り上がるだはず。


そこから時間も人目も忘れて、話に夢中になっていくんだろう。


はたまた、もしも一緒に帰ることになったら、周りからどう見られるのだろうか。


そんなふとした疑問に突然胸がざわざわとした感覚を覚えた。



私は部屋の隅にある鏡の前に立った。


「変じゃないよね?」


髪型、メイク、表情、制服を順々に確認していく。


ベッドに飛び込んでしまったからか、髪型がボサボサで、制服はくしゃっとなっていた。


それらを整え、じっくり自分の姿を見た。


「うーん……」


不満と不安が募るばかりで良い気は全くしなかった。


「はぁ……最悪」


鏡の自分に対して大きなため息をついて、肩を落とす。


そのままゆっくりとまた窓の方へ足を進める。


窓から見えるたくさんの明かりに応援されているような気がする。だからついつい毎日見てしまう。


「明日こそは話しかける!」


そして毎日こう言っては失敗している。けれど懲りずに今日も呟く。


「またね」


明日の私に期待をして、ベッドの上で横になり、ゆっくりと目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

毎日のまたね ひらりくるり @hirarikururi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ