第7話:もしもあのとき足を止めていたら
「うわ、すっごい数……」
コペルフェリアの周辺は街道と鉄道が整備されており、それ以外は平原となっている。そこに、視界に収まりきらないくらいの機械兵士たちが並んでいた。その先頭には――機械人形、エクスの姿。
「小娘ども、正式に我々の敵に回ったか。ならば遠慮の必要はない。そこの冒険者ともども処分してくれよう」
「勝手なこと言うな! この街はたくさんの人が住んでるんだから、占領なんてさせないよ!」
横ではニュクスがこくこくと頷いている。
「エクス、とか言ったな。撤退する気は? 我々だけでなく、冒険者が多数待機している。この程度でこの町は落とせないぞ」
セオドアの言葉にエクスは笑う。
「は。交渉のつもりか? 魔力に頼る人間など、いくらいようが相手にならん」
「――決裂か。アルマ! ニュクス! この数をまともに相手にしてはいられない。エクスを倒すんだ。そうすれば兵士たちも止まるはず!」
「うん、わかった」
ニュクスは回答すると同時に『アルテミス』を起動させ、青白い光の弓をエクスに向けて放つ。……躊躇いのなさに、アルマは驚く。過去、訓練を受けていたというからその時の経験だろう。
「弓矢か。だが、当たらん!」
エクスはその場で空中へ浮かぶと、矢を避け兵士たちの後方へと飛び去る。
「飛べるの!?」
「飛行が可能なのか、思ったより厄介だな。ニュクスとルキナさんは後方支援を!」
戦闘が開始された時点で、セオドア以外に何人もの冒険者たちがアルマ達を守るように陣形を整えた。そのまま兵士たちに武器を振るう、が、やはりあまり効果はないようだ。すべての機械兵士に、魔力を防ぐ強固な装甲が施されているらしい。
「くっ! やっぱり固いな。破壊にはかなり苦労しそうだ」
魔力を防ぐので、遠距離からの魔術の狙撃も効かず、通常の武器は弾かれる強度の装甲だ。思い切り武器をぶつけて吹き飛ばすくらいしかできない。そのうえ、相手の弾丸にも魔力阻害のコーティングがされているらしく、銃弾によるダメージが大きい。
「前衛に出ている人たちは、防御と進行阻害に専念! ニュクス、アルマ! できる限り敵を減らして!」
後方からルキナの指示が飛ぶ。彼女自身は弓ではなく大きな銃を抱えていた。
「……ルキナさん、それ何?」
「機械式の銃。魔術や魔導具が通じないから調達してきたんだけど――」
ニュクスに説明をしながら、ルキナは機械兵士の一体へ向けて発砲する。大きな音と共に弾丸が直撃し、機械兵士を吹き飛ばすが、戦闘不能には至らない。
「やっぱダメかぁ……あなたたちが頼りだね、これは」
他にも銃や爆弾、大型の斧など、物理的な破壊力に優れた武器を用いる冒険者はいるが、どれも一時的に動きを阻害するのがせいぜいだ。魔力が通用しない、ということがどれだけ大きな制約になっているかが良くわかる。
「うりゃああああああー!!!!!」
アルマは叫び声をあげながら、敵陣に突進していった。心核礼装『グラム』の発動時は身体能力も強化され、相手の銃弾くらいでは大したダメージを喰らわない。
大剣を振り回すと、あっさりと機械兵士は両断され、吹き飛ばされ、戦闘不能となっていった。明らかに他の冒険者たちとは威力が違う。
(いける、これなら――わたしでも、役に立てる! みんなを守れる!)
アルマは内心喜びの声を上げながら、敵陣に突っ込んでいく。それを援護するように、ニュクスが光の矢で次々と機械兵士を射抜いていった。こちらも一撃で敵を無力化できるほどに強力だ。
「アルマ! 先行しすぎ! 待って!」
ニュクスは『アルテミス』を片手にアルマを追う。セオドアを始めとした冒険者たちもアルマに追いつこうと追いかけるが、何せ数が違う。阻まれてしまい、アルマが突出した状況になった。
「ごめん、戻る――って、なにこいつら!?」
さすがに戻ろうかとアルマが足を止めたとき現れたのは、今までの人間サイズの機械兵士の倍以上はある巨体。高さだけでなく、横幅も大きく、例えるなら全身鎧を着た人間を肥大化させたような姿だ。
「戦闘用の機械兵士だ。その辺の連中とは比較にならない戦闘能力を保有する。この状況を見るに、お前と、魔族の娘を処分すればこの街は落ちたも同然だ。――行け、兵たちよ」
二機の戦闘兵がアルマに襲い掛かる。片方は巨大な剣、片方は銃を持ち、前衛後衛に分かれる形だ。
「このっ!」
アルマが前衛の剣兵に『グラム』を叩きつけるが、相手は手にした大剣で受け止める。その隙を狙うように、銃兵からの射撃が彼女を襲った。
「いった! ……かすっただけなのに、血出た。ニュクス、気を付けて! こいつら、攻撃力も高い!」
アルマに向かって来ていたニュクスは足を止め、弓を構えた。彼女を守るようにセオドア達が周囲を取り囲む。
「アルマ! まずは剣のほう、倒そう!」
ニュクスは言葉に合わせて『アルテミス』を射る。三条の光弾が剣兵に直撃した。その隙を逃さず、アルマが『グラム』を叩きつける。――だが。
「効かない……!?」
剣兵の身体には大きな傷が刻まれているが、特に問題なく動いている。幸い、動きはそこまで早くない。攻撃を避けることはできそうだ。
「落ち着け! ちゃんとダメージは入ってる! 焦るな!」
セオドアの叫び。アルマの耳には届いてこそいるが、冷静な判断力を取り戻させるには至らない。アルマはがむしゃらに剣を振るった。
「あああああああああああー!!!!!!」
何度も何度も、『グラム』を剣兵に叩きつける。装甲に亀裂が入り、やがて内部がむき出しになった。アルマはそこに剣を突き入れると『
「壊れろー!!!!!!!」
『グラム』に注ぎ込んだ『心力』により、青白い光が輝く。剣から放たれた力は剣兵の内部構造をズタズタに破壊した。剣兵はそのまま崩れ落ちる。
「はぁ、はぁ、はぁ……まだ、もう、一体――」
残った銃兵に向け、アルマが大剣を構えなおそうとするが――ふらつき、その場にへたり込む。
「あれ……?」
アルマは立ち上がろうとするが、体が動かない。空腹時に運動をした直後のように、全身に力が入らなかった。――それどころか、意識がぼんやりとしている。
「……まずい! 『心力』の使い過ぎだ!」
セオドアの叫び声。『心力』は体力や魔力と同様、有限のエネルギーである、という説明はアルマも受けていたし、使い過ぎに気を付けるように言われてはいた。ただ、ほぼ初めての戦闘で焦りと恐怖、興奮により、抑えきれなかった。
「はははは! 予想通りだ。いかに強力な武器でも燃料がなければ動かない。――数で押せば、いずれ枯渇すると思っていたぞ。思ったよりは大分早いがな」
エクスはにやり、と笑みを浮かべる。
「アルマ! ……くっ」
ニュクスがアルマを援護すべく矢を射るが――彼女も数多くの機械兵士、そして剣兵の打倒に『心力』を消費している。銃兵を倒しきれるほどの矢は撃てない。
「ニュクス! そのまま援護を! 僕がアルマを回収する!」
セオドアは機械兵士を大剣で吹き飛ばしながらアルマに向かって駆ける。銃弾を浴びているが、致命傷は避けているようだ。
「せ、おどあ……さん」
「抱えるぞ、我慢してくれ」
セオドアはアルマと『グラム』を抱え、逃走を図る。だが、当然銃兵からの攻撃もある。アルマと『グラム』を抱えたままでは避けられない。――自身を魔力で強化してしまうと、心核礼装に弾かれてしまうからだ。今セオドアは、自身の身体能力だけで、少女と大剣二本分を抱えていることになる。
「ちっ! 仕方ない!」
セオドアは自身の大剣を銃兵からの攻撃へと叩きつける。魔力で強化されていない大剣は、衝撃に耐えきれず砕け散った。
「すまん、相棒! ――でも、これで荷物は軽くなった!」
柄だけになった大剣を捨てると、セオドアはニュクスのいる場所まで駆け戻る。
「セオドアさん、剣が……」
「今はいい。アルマ、大丈夫か?」
「ごめんな、さい……体が、動かなくて」
「『心力』切れだな。ニュクスも余裕はないし、一旦撤退するしかないけど……」
周囲を守る冒険者たちもそろそろ限界が近い。だが、機械兵士の数が多すぎる。アルマ達はほぼ孤立状態にあった。
「どうしよう……」
ぼんやりとする頭で、アルマは呟く。自身が強くなったと錯覚した、冷静になれずに失敗した。戦いの素人にすぎない自分が、この状況を招いてしまった。
「やっぱり、ダメなのかな……」
アルマにできることは、迫りくる敵兵を睨みつけることだけだった。
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