第18話「これからもよろしく」

 勉強も終わり、昼食後は皆で町を見物しに出かけた。


「ここってほんと栄えてる町だな」

 たくさんの人が行き交い、商店も結構あるし。


「いや、ここも大多数の住人が死んだよ……けどあちこちから集まってきた生き残りのおかげで元通り以上になったんだ」

 ハルスが頭を振って言った。


「そうだったのか。それでここから新たにか」

「ああ。俺は世界を統べる程の器量など無いが、この町くらいはなんとかする」

「俺もやってみよかな。せっかくテンオウ村に家があるんだから、そこを再建できるように」


「ねえパパ、明日は家にカンナ連れてっていいよね?」

 ライラがそう言ってきた。


「俺はいいけど」

「勿論いいですよ」

 ハルスも異論は無いようだった。


「ハルスおじさん、わたし達だけの時は昔みたいに普通に話して」

 カンナちゃんが……昔って?

 ハルスも目を丸くしてるが、


「おじさん、昔は孤児院に時々来てくれてたよね。そしてわたしやお姉ちゃんと遊んでくれたよね」

「……覚えていたのか。もう十年くらい会ってなかったし、小さかったから忘れてるかなって」

 ああ、そういう事だったのか。


「ううん、あの時のおじさんがハルスおじさんだって気づくのに時間かかった。ごめんなさい」

「あーしもどっかで見た事あるなーで、カンナに言われて気づいたよ。ごめんね」

 二人が軽く頭を下げ、


「それとね、お父様が言ってた。『あの人は僕のお兄ちゃんなんだよ』って。だったらわたしの伯父さんだよね」

 カンナちゃんが顔を上げて言った。


「……そう言ってもらえると、うう」

 あ、泣き出した。


「伯父さん、これからもよろしくね」

「ああ、ああ」

 よかったな、ハルス。




 翌日、瞬間移動呪文であっという間に家に着いた。


「おお、まさに日本の家だな。この雰囲気、実家に似てるよ」

 ハルスが目に涙を浮かべて言うが、

「そうなのか? お父さんアメリカ人だろ?」

「うちの父親は日本好きでな、家も日本風がいいからと田舎の一軒家にしたって言ってたよ」

「そこまでかよ。って昼ご飯用意するよ」



「ああ、もう二度と米食えないと思ってたのに……美味いなあ」

 ハルスは泣きっぱなしだった。

 ご飯と味噌汁と漬物、玉子焼き、あととっておいた冷凍コロッケといったシンプルなものだったが。


「おじさん達、異世界から来たんだよね。それもお父様が言ってたけど正直この家に来るまで信じられなかった」

 カンナちゃんが部屋を見渡して言った。


「それなら分かるわー。てか早く言ってよねー」

「おじさんの世界ってどんなとこ?」

「きゅー」

 皆興味深々に聞いてきたので、俺とハルスでざっくり話した。



「へえー、こんな家が普通にあるんだー」

「凄い世界なんだね」

「きゅーきゅー」


「そんな世界だったら疫病も無さそう」

 カンナちゃんがそう言うが、


「いや、残念ながら世界中を襲ったのがあったよ。こっち程犠牲者は出てないが、やはりな……」

「うわあ、神様もそれなんとかしてよねー」

 ライラが天井を見上げて言った。


 たしかにな……。


「しかしカンナちゃんのお父さんはよく信じたね」

「お父様が言ってたけど、伯父さんを最初見た時に上手く言えない違和感を覚えたって。なんとか例えるなら……」

 ん? 急に顔を覆った?


「足が生えてて女言葉で喋る鯛みたいだって……クク」

 

 ……笑いを堪えきれなかったようだ。

 まあ、本来ならいないはずの生物がいたと言いたかったのだろうが。


「あいつから見れば俺は『煮てよし焼いてよしでもタタキは嫌』とか言ってる鯛なのか?」

 よく知ってるなって俺もだが。


「と、ところでさー、あっちの世界に行ける魔法って無いのかなー?」

 ライラも流石に悪いと思ったのか、笑いを堪えながら言う。


「それは聞いたが無いって。神様が送るかなんかの拍子で扉が開くかでないとだって」

「そっかー。もし行けるなら行ってみたかったなー」

「この先機会があるかもだし、その時はな」

「うん!」




 その後、皆でテレビゲームをしたが、

「うわーん、大人げないー」

「あ、しまった。つい本気でやってしまった」

 ハルスが手加減無しでカンナちゃんを負かした。


「まあまあ。しかしブランクがあるとは思えないほどだったな」

「俺、ゲーム大会で優勝した事もあるんだ。そうだ、あの名人にも会った事あるぞ」

「それめちゃ凄いだろが」

 ハルスはほんと日本人だな。

 昨夜は奇跡の逆転ファイターの話で盛り上がったしな。



 その後子供達は映画のビデオを観る事になり、俺とハルスは夕飯の準備をしながら今後の事を話した。


「なあ、採れた麦や野菜、じゃがいもの一部を魚や物資と交換してくれないか?」

 聞けば牛や豚などの家畜も疫病で食用の数を確保できないほど減ったが、魚はほぼ無事だったらしい。

 あと鶏もだが、こちらは徐々に増えているので僅かだが食料にも回せるそうだ。


「勿論。特にじゃがいもは二十年間見つけられなかったから、ありがたいよ」

 ハルスが頷いてくれた。

「やっぱじゃがいもは無いんだな。じゃあ稲もか?」

「ああ。誰に聞いても知らんだった。そのスマホとかで分からないのか?」

「いやな、『出会いの中で分かる』としか出ないんだ」

「という事は少なくともどこかにあるって事か」

「ああ。いずれ誰かと会った時にだろうが、いつになるかだな」

「お互い生きてる間に見つけたいな……しかし正秀は料理上手だな。魚捌くのも上手いし」

 夕飯はハルスが持ってきてくれた魚をとなっていた。

 見た目はちょっと違うが鯛と同じ味らしい。

 ってさっき鯛の話出たのは何の偶然だ。


「大学の時からずっと一人暮らししてたからな、それなりになるよ」

「そうか。俺はここへ来る一年前まで両親と暮らしてたからなあ」

「そういえば、ご両親はもう」

「ああ、事故で二人いっぺんにだったよ」

「俺は三十の時に父親を、母親はその十年後だった。二人共心筋梗塞でだったよ」

「……こう言っちゃなんだが、もし生きてたら悲しませてたから、ある意味ではな」

「ああ。っと、その話は終わりにして飯作ろう」

「だな。子供達に腹いっぱい食べさせような」


 夕飯は刺身やあらの味噌汁、ほうれん草の胡麻和えや残ってた豆腐を冷やっこにして、それを食べながら皆で楽しく話した。


――――――


 一方、どこかの廃村。

「こんなもんかな」

「ええ。きっとほぼ一斉にだったんでやしょね」

 あの元盗賊達はそのままになっていた骨を埋葬していた。


「そうだな。ところでここもダメそうか?」

「へい。一から作れる労力があったとしてもでやす」

「そうか。どっかいい土地ねえかな」

「都の辺りなんてどうでやしょうかね。人が集まってるかもですし」

「行ってみるか。そこもダメなら他当たるか」

「へい」

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