第10話「娘ができちゃった」

 片付けも終わり風呂入ろうかとなったが、ライラちゃんに説明しないとだわ。


「え、この家お風呂あるの? やっぱ魔法使いの家だわー!」

 ライラちゃんが嬉しそうにって、あれ?

「風呂知ってるの? リオル君は最初知らなかったんだけど?」


「あー、たぶん地域によるんじゃないかなー? あーしの孤児院や近くの村にはあったけどさ、贅沢だから滅多に入れなくて普段は水浴びだったよー」

「なるほど。けど他所とは違うから説明するよ」


 風呂場に行って一通りの事を言うと、

「うわあ、お湯がいつでも出るって贅沢過ぎー」

 やっぱそうだよな。


「うん、じゃあ先に入って」

「えー、一緒に入ろうよー」

 俺の手を引いて、って。

「アホか! 年頃の女の子と一緒に入れるわけないだろが!」

 羞恥心無いんかこの子は!


「えー? じゃあリオルとならいいでしょー?」

「……おじさんと入るからいい」

 リオル君が顔真っ赤にして言った。

 もう十歳だしやっぱ恥ずかしいか。 


「じゃ、ココはいいでしょ?」

「きゅー!」

 まあいいか、本人も嫌がってないし。

 もしかすると一人じゃ寂しいのかもな。

「んじゃ、お先にいただきまーす」

「うん、ゆっくり堪能して」

 俺とリオル君は居間に戻った。



「はあ、疲れるよあのお姉ちゃん」

 リオル君がげんなりしていた。

「ははは。けど着いてってあげようって言ったのはリオル君だろ?」

「……うん。妹さんに会わせてあげたいもん」

 ほんと優しい子だな。うん。




 深夜。

 ちょっと用足しして戻る途中。


 なんかすすり泣く声が?

 仏間の方からだ。ライラちゃんはそこで寝てもらっている。

 なんかあったのかと襖をそうっと開けると、ライラちゃんが三角座りしていた。


「ひゃっ?」

 俺に気づいて小さく声を上げた。

「あ、ごめん。眠れない? やっぱ寝床があれだった?」

 布団なんて慣れてないだろうし。


「……ねえ、あーしってうるさいでしょ?」

 ライラちゃんがボソッと言った。

「え? あ、まあちょっとね」

「だよね。けどそうしてないと潰れちゃいそうだし」

「ああ、不安だったんだね」


「うん。逃げてた時も捕まってた時も不安でいっぱいだったから」

「そうか。まだ信用できないかもだが、ここでは無理しなくてもいいんだぞ」

 おっさんがいるんじゃ身の危険……感じてなさそうだが。


「信用できるよ。でなきゃとっくに逃げてるって」

「それもそうか。あ、ちょっと待ってて」

 俺は台所へ行きあるものを用意して、それを持って戻った。


「はい、どうぞ」

 ライラちゃんに湯気が立つカップを差し出した。

「え、これ何ー?」 

「ホットミルクだよ。飲めば気が落ち着くよ」


「ミルクもあったんだ。あ、いただきまーす」

 ライラちゃんはそれに口をつけ、ゆっくり飲んだ。

「はあ、ほんと落ち着く……」

 

「よかった。これで寝れるかな?」

「ううん、まだちょっと。そうだ、一緒に寝て」


「え? それって」

 やらしい意味じゃないよな?


「なんなら好きにして」

「それは絶対にせん」

「あーしじゃだめ?」

「そりゃ娘みたいな歳の子だしな。あ、もっと上ならいいって事じゃないぞ」

 俺が手を振って言うと、


「……おじさん、ほんと父親だよね」

「え?」


「さっき聞くまでリオルはほんとの子供だって思ってたもん。おんなじ黒髪だしさ」

「そう言ってもらえると嬉しいな」

 黒髪って珍しいのかな?


「それにさ、あーしを全然やらしい目で見てないし」

「そりゃ俺からすれば十代などおこちゃまだし」

 体はいっちょ前だがな。


「だからさ、そのおこちゃまだと思ってよ」

「……ああもう、分かったよ」


 布団に入ったら速攻で抱きついてきた。

「ああ、いい匂いー」

 ライラちゃんからは石鹼の香りが……っていかんいかん。


「加齢臭しかしてなさそうだが、いいのかい?」

「よくわかんないけど、それもいいんだよ」

 ライラちゃんが少し笑みを浮かべて言った。


「そうか。ところでライラちゃんのお父さんって、どんな人かも知らないの?」

「全然。ママはあーしが三歳の頃にだったしその時にはいなかった。もしかするともっと大きくなったら言うつもりだったのかもだけどね」

「……お母さんは疫病で?」

「ううん、反乱軍に殺されちゃった」

「は、反乱軍なんていたのか?」


「知らないんだね。疫病が流行りだした頃に反乱が起こったんだよ。それは王妃様率いる軍が制圧したって聞いた」

 そうだったのか。


「それで、その後で神官様にだったの?」

「ううん。最初は神官様のお師匠様、おじいちゃん神官様がだったよ。そのちょっと後で神官様が奥さんと赤ん坊連れて戻ってきて、その赤ん坊がカンナなんだ。けど奥さんはカンナが一歳の時に亡くなった。疫病じゃなくて元々病気があったって聞いた」


 そんでさ、なんでか自分でも分かんないんだけどね。

 カンナが寂しいだろからあーしがお姉ちゃんになったげるって神官様に言ったの。


 神官様は「ありがとう」ってあーしの頭撫でてくれてね。

 この子がお姉ちゃんだぞ、ってカンナに言ったんだ。

 そっからカンナの面倒見て、ほんとの姉妹のようにいたよ。


「そうか……ん? 神官様はお父さんと思わなかったのか?」

「あー、神官様って若く見えてかっこよすぎで、なんかあーしが思ってるパパって感じじゃなかったんだよねー。勿論感謝はしてるけどさー」

「じゃあどんなイメージなんだ?」

「おじさんが思ってたのそのまんまだよー」


「え、またまた」


「ほんとだよ。それとさ、今日初めて会ったはずなのに遠い昔に会ってたような、こうやって抱きしめてくれていたような気がするんだよねー。あ、もしかして本当にパパだったりとか」


「それは絶対にない。だって俺女性経験ゼロだし」

 そもそもこっちから見て異世界から来たんだし。


「え? ……あ、まさかリオルみたいなちっちゃい男の子がいいとか」

「そんな訳あるか。たんに俺がヘタレなだけだ」


「そーかー。ま、とにかくこれからよろしくねー」

 ライラちゃんはニカっと笑みを浮かべて言った。

「うんうん。さ、寝なさい」

「うん。おやすみ……パパ」


 ライラちゃんは安心したのか、すぐに寝息を立てて寝てしまった。


「はあ、こんな大きな娘できちゃったよ」


 世間のお父さんは娘に臭いと言われたりとか洗濯一緒にするなとか。

 いろいろあってしんどい時もあるだろな。

 怒られるかもだが、俺はそれすらも羨ましいって思えてしまってたよ。

 

 これからは俺も……どうなるかな?

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