「化けの皮を湯がいて」

登場人物:


石野(いしの):若店長、永見を殺した犯人・男 

入江(いりえ):新人のアルバイト。明るい・女 ボケが多い。

永見(ながみ):幽霊、石野を探している・男

柴木(しばき):強盗、幽霊が見える。幽霊を信じている。ツッコみ気質。・男


計:四人


あらすじ:

コンビニ店員として、働く入江。深夜のバイトにて、強盗と幽霊が来店!?

彼らのすれ違った会話と明かされる目的、その先にある真実に、あなたは驚かずにはいられるか。


Act 1 バックヤード

明転。舞台には入江と石野の二人。


入江 こんにちはー、初夜勤です、よろしくお願いします。いやー、店長と二人っきりだなんて、初めてですよー

石野 …

入江 ていうか夜なのにこんにちはーって言わなきゃいけないのおかしいですよね。まぁ、規則ですから仕方がないんですけど

石野 …

入江 …うわ、え、無視? 店長―!

石野 …

入江 あ、寝てる。おーい店長―! 起きてくださーい! 夜勤ですよー!

石野 …わ、なんだ、俺、寝てたのか

入江 あ、起きた。そうですよ、もう、しっかりしてください

石野 …う、寒いな

入江 まぁ、夜ですしね

石野 …はぁ、疲れた?

入江 何かあったんですか?


   煙草に火をつける。


入江 え、ちょちょ、まずいですよ、ここで吸っちゃ…

石野 …まぁ、みんなしてるよな

入江 みんな、してませんって、ちゃんとルールじゃ守らないと

石野 …っは、守ってる奴らは偉いな

入江 なにも偉くないです。普通です

石野 …やっと、明日で終わるんだよ

入江 明日? あー、明日から連休入りますもんね。ここ最近めっちゃ働いてたんですか?

石野 …そうだな

入江 やっぱり、まぁ、店長ってずっと出勤してるイメージですもん

石野 …はは、昨日飲みすぎたのかなぁ、手が震えちまってる

入江 え、二日酔いですか?

石野 …いや、違うな

入江 違うんだ

石野 …夜勤は人が来なくて楽だな

入江 そうですね。だから私、夜勤を選んだんですもん。…でもちょっと、寂しい気もします

石野 …寂しさもあるか

入江 ありますよね! あの時の感覚に似てます。深夜三時に目が覚めて、誰もいないくっらいキッチンで、水を汲むんです。コップに水を汲んでるとき、世界で私だけしか起きてないんだろうなって時、ありませんか?

石野 …いやないだろ、なんだそれ

入江 ひどいぃ

石野 …寂しさねぇ

入江 そうです、寂しさです。店長にもあるんじゃないんですか?

石野 それにしても暇だなぁ

入江 まぁ夜勤ってそういうものですし

石野 しりとりでもするか

入江 お、いいですねぇ、私、得意ですよ

石野 じゃあ、しりとり

入江 うーん簡単な単語だとつまんないですよねー、倫理!

石野 リス

入江 じゃー、スイス!

石野 スカベンジャー

入江 はっは、死骸を食べる動物でしたっけ。えっと「や」?「あ」?

石野 この場合だと「や」からか

入江 ですね、やー、やー、夜叉!

石野 焼きたこ

入江 たこ焼きでしょ普通。えーっと、小さいラッコでコラッコ!

石野 こ、コラボ

入江 ぼ、ぼー?

石野 …墓穴

入江 あーもう先言わないでくださいよ!


石野は煙草を灰皿に押して消すしぐさをする。


石野 …商品の確認をしてくるか

入江 はぁ、冷めてますねぇ。私は、無人のレジに行ってきます


石野が退場し、数秒後に入江が後を追うように、入江も退場。


暗転。


Act 2 入店


舞台は客から見て左にレジ、奥は商品棚のような背景。リアリティを出すのであれば、商品の棚の作成(演者の動きを邪魔しない程度の大きさ)。右に客が出入りするドア。

舞台にはレジの立ち位置のところに入江一人のみ。


明転。


入江 はぁ、暇だなぁ。あ、何分立ったかな?(時計を確認する) えー、まだ五分しか経ってないんだけど。うーん、どうしよう、「業務中暇すぎなう」ってインスタにあげたら炎上するかな。やってみようかな。…いやいや、だめでしょ、てか私スマホ忘れたし、あげれるにもあげられないじゃん、はぁ、めっちゃぴえんって感じ

 

暗転、数秒の間、明転。


入江 一時間…はぁ、まじで誰もこないじゃん、来ないとこないで寂しいんだよなぁ、来たら来たらでもう来ないでーってなるのに、なにこの矛盾


   暗転、数秒の間、明転


入江 あれ、十五分しか経ってない。…んん、もう六時間ぐらい一人でしゃべってようかな。私一人っ子だし楽勝っしょ、うんいけるいける。何話そうかな、誰もいないし、適当に愚痴とかでいいか。大学内でサングラスかけてる男子ほんと目に当てらんなくてさー…


   暗転、数秒の間、明転


入江 り、り、りー…りんご…ごま…マネーロンダリング…ぐみ…みみずく…くり…りんご…ご、ご、ごま…マグロ…ろ、ろー、ロンダリング…


暗転、数秒の間、明転


入江 ううぇーん、寂しいよぉおお、誰か来てぇ。なんで夜勤なんて選んじゃったんだろぉ、スマホも忘れたし、暇つぶしもできないぃ。店長奥に行っちゃったし… もうなんでもいいよぉ、この際なんでもぉ…強盗でも幽霊でも何でも来いよぉ


SE:入店音 柴木登場 サングラスにマスク、アディダスの赤いジャージ。


入江 あ、お客さんきた! いらっしゃいませぇ!

柴木 おい

入江 は、はい、え?

柴木 ここに、金詰めろ

入江 え、なんで? 

柴木 なんで? 馬鹿なのか? はやくしろ

入江 …こんな深夜に強盗ですか?

柴木 …だったらなんだ

入江 …ええ! まじやばい、ほんとに来ちゃったんだけど

柴木 は?

入江 …どうしよう、記念に写真取ります?

柴木 取るわけねぇだろ馬鹿かお前

入江 あ、スマホないんだった。スマホあります?

柴木 あるよ…って貸すわけねぇだろ

入江 そっか、個人情報ですもんね

柴木 他人だからだよ

入江 なんでサングラスつけてるんですか? あ! 本当にすいません、失礼ですよね。コンビニの光の刺激が強すぎるって感じる人もいますよね…

柴木 ちげぇよ、確かにそういう人もいるけど、俺は強盗だからかけてんだよ

入江 じゃあなんでマスクをつけてるんですか? あ! そっか、感染症対策ですよね

柴木 強盗だからだって、まだ街中でマスクしてる人見かけるけど、最近減っただろ

入江 すごい配慮のあるツッコミをしますね

柴木 ぶっとばすぞ

入江 あ、配慮ぶっとんでった。てか、マスクは「つける」っていうのに、なんでサングラスとかメガネは「かける」って言うんでしょう

柴木 …確かに…いや気になるけどとりあえず袋に金詰めろや

入江 いや、ちょっと、まじめに考えましょうよ。日本語は正しく使わないと、社会に出た時に素養を疑われますよ

柴木 強盗に説教してんじゃねよ

入江 強盗って自分のこと俯瞰できたりするんだ

柴木 あんま難しい言葉使うな

入江 最近大学で習ったんですよねぇ

柴木 得意げにいうことじゃないだろ

入江 えっへん

柴木 そんな、賢(さか)しらに知識をひけらかしたかったのか

入江 さかしら? ひけらかし? え?

柴木 動揺すんな俺、いつの間にかこいつにペース飲まれてんぞ、落ち着け

入江 落ち着くって、冷静になるって意味ですよね

柴木 ああ? そうだな、それがどうした?

入江 その言葉って、落下に落に、着地の着って書くじゃないですか? 落ちて、着地しようとしてる時に冷静になるって無理くないですか? いやもっと焦ろよって思いません?

柴木 いや、焦っても、その事実は変わらないから、冷静になって、一度ちゃんと考えてみろって意味なんじゃなのか?

入江 え、めっちゃ腑に落ちました。すとんって

柴木 あんまそこで擬音使わないからな

入江 解釈一致ですね

柴木 オタクしか使わないだろ

入江 え、解釈一致?

柴木 日常会話で使わないだろ

入江 そうですか?

柴木 そうじゃないか? あと同担拒否とか、何々キャンセル界隈とかな?

入江 たしかに、でも、風呂キャンセル界隈とかは、結構世に浸透しましたよね。約して風呂キャンとか。なんならテレビにも取り上げられてたし

柴木 らしいな。でも俺はその言葉好きくないけどな

入江 好きくないとか、細田守の「未来のミライ」に出てきた主人公しか言ってないですけどね

柴木 頭の中で想像がつかないたとえ話はするな

入江 私は、浮かんでますもん

柴木 話す相手に伝わんらなきゃいみないだろ

入江 じゃあたとえば?

柴木 そうだな、じゃあ俺を見た時、なんて思った?

入江 変な人

柴木 まぁ、そうだな、じゃあ見た目からもっと見てみろ

入江 サングラスにマスク…

柴木 そう、そこから連想しろ

入江 …底辺YouTuber?

柴木 強盗だろ

入江 それか情報リテラシーを持った子供のYouTuberですかね

柴木 もうそこから離れろ

入江 えー

柴木 この時間帯に底辺YouTuberが商品買いに来ると思うか?

入江 くるかもしれないです

柴木 来ねぇよ、行くとしてもドンキかヴィレヴァンだろ

入江 たしかにそうですね、そのサングラスどこで買ったんですか?

柴木 ヴィレヴァン

入江 底辺YouTuberじゃん

柴木 青いカレーとか買ってねぇよ

入江 あれ変な味するんですよね

柴木 あと、変なバッグな、この袋もそこで買った

入江 あー、くそダサいっと思ったら、ヴィレヴァンで買ったんですね。なんか納得しました。もしかしてそのマスクとダサい服も?

柴木 これは家にあった

入江 そこヴィレヴァンじゃないんだ。…もっといいのあったでしょ?

柴木 ヴィレヴァンはパーティー用か激イタファッションしか売ってないからな

入江 詳しいですね

柴木 その後、二郎寄ってきた

入江 だから口臭いんですね

柴木 あ、え、うそ、マジでデリカシーねぇな

入江 強盗にデリカシー言われても響かないですね

柴木 それはそうかも

入江 うちでミンティア買っていってください

柴木 ひどい言われようだな

入江 え、ヴィレヴァンで買い物した後に、二郎行ったんですか?

柴木 ああ、それがどうした?

入江 え、まじで彼氏にしたくないタイプですね

柴木 なんでだよ

入江 初デート先、どこですか?

柴木 利府イオンモールの映画館に現地集合で、その後、スリーピースっていう古着屋で二時間買い物

入江 終わってるでしょ

柴木 じゃあお前、初デート先の飯で、サイゼだったらどうする?

入江 マジあり得ない、大体女の子はデートの前にメイクとかその他の準備とかで男よりもお金かかってんのにそこで、初デートがサイゼなんて、そもそも男がサイゼ選んできた時点で(適当なアドリブ)

柴木 ほらな、朝まで喋り続けそうな勢いじゃん

入江 …はぁ、はぁ、疲れた

柴木 お前みたいやつってさ、自分の恋愛の経験よりも先にネットで得た知識が先に来ちゃってるから薄っぺらいんだよな、なにも響かないんだよ

入江 …強盗が何言ってんですか

柴木 童貞みたいに言うな

入江 へぇ、そうなんだ

柴木 い、いや、べべ別に違ぇし

入江 動揺しすぎでしょ、キモ

柴木 やめろ、ゴミを見るような目で見るな

入江 だからサングラスかけてるんだ。マスクまでしちゃって、顔真っ赤なのバレバレですよ、赤いのはそのダサいジャージまでにしてください

柴木 …うるせぇ、顔真っ赤になってるとか言うと余計意識するから

入江 はーん、さては私と目も合わせていないですね?

柴木 …そんなことねぇよ

入江 顔真っ赤にしちゃって、

柴木 …

入江 強盗の方が恥ずかしいでしょ

柴木 …おい、いい加減袋に金詰めろよ!

入江 お母さん

柴木 ……は?

入江 …あなたのお母さんは、息子がこんなことやってるの知ったら、どう思うんでしょうね

柴木 …おい、母さんの話はするなよ

入江 あなたの声色から察するに、今お母さんは年金を受け取っている年代の方ぐらいでしょうか

柴木 …おい

入江 多分、あなたは一人暮らしでしょ

柴木 そうだ、それがどうした

入江 例えば、あなたのお母さんは、たまに帰ってくる息子を楽しみに暮らしているとする

柴木 …


暗転し、入江に照明を当てる。


入江 あなたが実家に帰ったら、お母さんはいつものように笑顔で出迎えてくれる。夕ご飯時、料理を待っている間、リビングで特段興味もないテレビを眺めて、無造作にリモコンを置き、ソファーに身を沈める。そしたらキッチンから食欲をそそる匂いが鼻をかすめるんだよ。「ご飯だよー」って、高校生の時まで聞き馴染みのある決まり文句をお母さんが大きな声で言ってさ。席についても、まだ何も置いてなくて、チラッとキッチンを横目に見ると、ずっと見てきたお母さんの後ろ姿がある。なんだか背がちっちゃくなったように思えて、少し寂しくなるんだ、あれだけ強かったお母さんが弱々しくなったように。すると、自分よりも小さな手で料理を運んでくる。お母さんを近くでよく見ると白髪が増えていることに気付くんです。それを指摘するにもいかずにご飯を食べて、大切な人が今生きていることに感謝と良心が芽生える。お母さんに笑顔で「ねぇ、ご飯美味しい?」と聞かれて、これまで蓄積されたお母さんへの感謝と思い出でいっぱいいっぱいになちゃって、「美味しい」と言おうとするけど、喉が震えて、先に涙が出てきちゃうんです


全体に照明 


柴木 …お母さああああんん!!(号泣)

入江 …まぁまぁ、今からでも遅くないですよ、一回実家に帰って、顔見せてあげましょ?

柴木 うん…そうする。そうします…母さんに、会いたい…母さんの、あったかい肉じゃがが食べたい…うう

入江 そうですね。だから一回、落ち着きましょう?

柴木 うん、ちょっと、もうちょっと泣きたい

入江 言えたじゃないか

柴木 うええええん

入江 いいですよ、もっと泣いても

柴木 うえええん(号泣)


暗転。


Act 3 入店②


明転。入り口付近に永見が立っている。白い服で頭には三角巾のような幽霊の格好。


柴木 …だいぶ、落ち着いた

入江 ええ、それはよかった、考えは変わりました?

柴木 実家帰ってから考える

入江 可能性あんのかよ

柴木 え、うわ!

入江 え、なになに、なんですか?

柴木 なぁ、入り口にだれかいねぇか?

入江 …え? あれ、いますね、でも、ドアが反応してない 

柴木 なぁ

入江 はい、多分

柴木 同じこと考えてますね

入江 じゃあ

柴木 嫌だ。…お前にも同じものが見えてるんだよな

入江 はい、恐らく

柴木 俺は、あーいうの信じるタイプなんだ…

入江 …奇遇ですね、私もです

柴木 …どうする?

入江 …ジャン負けにしましょ

柴木 …乗った

入江 ずるなしですよ。ちなみに私はパーを出します

柴木 くそ先制攻撃かよ、心理戦ずるいぞ

入江 心理学専門なので

柴木 っち、くそが

入江 じゃあ、最初はグー

柴木 じゃんけんポン!

入江 ポン!

柴木 あいこで

入江 あいこで

柴木 しょ!

入江 しょ!

柴木 …くそ!

入江 やったー! じゃあ、行ってください

柴木 っち、仕方がねぇな、ああ、最悪だ


じりじりとと入り口に近づく柴木


入江 まじもんだぁ、ほらほら、はーやーく

柴木 案全地帯で好き放題言いやがって。SNSじゃないんだから

入江 負けたのが悪いんですよ。さぁさぁどうぞ。…うわあインスタライブしたいぃ、絶対バズるのにぃ

柴木 この状況でかよ

入江 この状況だからですよ

柴木 これがZ世代か、…うわ、まじまじ見ると怖いな

入江 ほら、はーやーく

柴木 くそ、ほらよ


SE:入店音 永見


柴木 く、くるか! …あれ?

入江 ん? あれ、入ってこない 

柴木 …? あれ?

入江 んんん? なんで入ってこないんでしょう

柴木 …こいつ、動けないのか? ったく、ビビらせやがって

入江 なんだー、動かない幽霊か…

柴木 はっ、なんだこいつ

入江 …つまんないの

柴木 まったく、驚いて損したぜ


レジの方へ戻る柴木に足並みを合わせる永見。入り口をまたいだら、SE:入店音を入れる。


入江 あ、きた

柴木 え? うわああああああ


腰を抜かした柴木は永見の方を見る、止まる永見。


柴木 え、どどど、どういうこと(ゆっくり後ずさりながら、入江の方を見る)

入江 …わ、っかんないですね

 

永見は柴木の目線が入江の方に向いてるうちに少し動く


柴木 おいテレサかよ! 目線から外したら近づくみたいな!?

入江 はい、確実に、近づいてますね

柴木 より怖いな! なんだ、俺が何かしたっていうのかよ!

入江 強盗とか?

柴木 まだ未遂だろ!?

入江 まぁでも、恐喝はしてますし

柴木 やかましいわ! 幽霊が強盗を懲らしめるとか聞いたことえぇよ!

入江 今から私が見聞きします

柴木 ああまだ死にたくねぇよ! 母さんのごはん食いてぇよ

入江 ご愁傷様です

柴木 おいあきらめんな! うわあああこっちくんなあああ

永見 …あの

柴木 喋ったあああああ!?

入江 うるさい! ハッピーセットの子役じゃないんだから! …何か喋りました?

永見 …あの

入江 はい

永見 …石野という男を知りませんか?


暗転。

Act 4 石野という男

明転。舞台には石野と永見だけ。


永見 お茶、いるか?

石野 え、あぁ、ありがとう


   永見がお茶を持ってくるため、舞台から出る。


石野 んで、話ってなんだよ、お前から誘ってくるなんて珍しいじゃないか。あ、そうか、あれの感想か? たしかに、お前めっちゃ語りたそうにしてたもんな


SE:鍵をかける音。


石野 …永見? 

永見 …はいお茶

石野 ああ、ありがとう。…おい、どうしたんだよ

永見 お前さ、一昨日の夜、何してた?

石野 …一昨日、コンビニで品出ししてたな

永見 噓つけ

石野 おいおいほんとだって、急にどうしたんだよ

永見 …お前さ、俺の彼女に、手、出したろ

石野 …おいおい、何かと思えば、そんなわけないだろ

永見 噓つけ、証拠あんだよ。あっちもお前と寝たって、写真も見た。おかげでその日は胃が空っぽだったよ

石野 …なぁ

永見 俺はさ、お前のこと、友達だと思ってた

石野 永見…


永見の携帯電話が鳴る。


永見 ちょっとまってろ


永見退場。


石野 …くそっ。あー、くそ。どうしてこうなっちまった。っち、何されるかたまったもんじゃねぇ、あいつ怒らせたらどうなるか、俺が一番よく知ってるじゃねぇか。くそ、あー、どうしようどうしようどうしよう… いや、あるにはあるが…


胸から白い粉が入った袋を取り出す。


石野 これを、永見のお茶に…いやいや、何考えてるんだ…大体そんなことしたら…そうだ、俺にも立場というのがある。…いや、もし、石野が同じようなことを考えていたら…もし、俺の茶に、入っていたら…(生唾を飲む仕草)


石野は、お茶のカップを入れ替える。


石野 はぁはぁ、くそ、念には念だ!


石野は懐にある袋を取り出すと、これでもかというほど大げさな仕草で永見の方においてあるお茶に入れる。


石野 よし。これで完璧だ。もし、あいつが何手先を考えていようがこれまでは考えられまい。道連れにしてやる


永見登場。


永見 いやいや、悪い悪い、大事な話なのに抜けちまって

石野 あー、いいよ、別に…

永見 …それで、石野に言いたいことがあってな

石野 …なんだ?

永見 …本当にありがとう!

石野 …え?

永見 いやあ、まじで石野に感謝してる!

石野 …ん? どういうことだ? 話が見えてこないな

永見 丁度彼女と別れたくてさ。ほら、束縛きついって話してたじゃん? まじでこっちのメンタルもやられてさ、正直しんどかったんだよね。良い口実がなくてな!いやぁ、最初から石野に頼めばよかったな! あっはっは!

石野 え、ああ、そうだったのか(お茶と、永見を交互に見る)

永見 だから、祝杯だ。勝利のティータイムといこうじゃないか!

石野 あ、あぁ! そうだな! 

永見 さぁ、茶を持て。我々の勝利を期して、乾杯!

石野 乾杯! 


同時に二人で飲む。


石野 おえええ!

永見 どうした?

石野 …ゴホッゴホッ、お前もまさか、毒を…

永見 毒!? え、あ、そういえば砂糖と塩ミスったかも

石野 …えぇ?

永見 石野、今、お前もって…


自分の喉をつかみながら永見が倒れる。石野が永見を見つめ、数秒の間。


石野 …流石に俺が悪いか


暗転。


Act 5 証拠隠滅


倒れた永見。石野がスコップで土を掘っている。永見を埋めるため。


石野 はぁ、はぁ、疲れた。土を掘るのって、こんなに疲れるんだな


永見をチラッと見る石野。


石野 いや、本当に悪いと思ってる。俺も初めてだよ。他人の墓穴を掘るのは。帰ったら酒でも飲もう。こんなこと早く忘れないと。あー、まずい、手が止まってる。誰かに見られる前に早く終わらせないと。よいしょっと


作業を再開する石野。すると、赤色のジャージを着た柴木が、買い物袋を持って登場する。


柴木 え…

石野 あ…

柴木 何、されてるんですか?

石野 え? あー、友達が苗木を植えたいとかいうから、今手伝っているんですよ

柴木 …苗木?

石野 はい! んで、こいつ疲れて寝ちゃったから、俺やってるんですよー

柴木 …

石野 だから、こいつが起きる前に完成させて、びっくりさせたいんです

柴木 本当ですか?

石野 …はい

柴木 …それはいい考えですね! 僕も手伝ってもいいですか?

石野 え?

柴木 友達びっくりさせたいじゃないですか!

石野 まぁ、はい

柴木 スコップ余ってます?

石野 …はい、余ってますよ

柴木 よーし、張り切っちゃうぞー!

石野 はい、掘るところまで協力してください

柴木 了解です!

石野 どうぞこちら、スコップです

柴木 ありがとうございます

石野 ところで、その、手に持ってる袋、お買い物されていたんですか?

柴木 はい、その帰りでした、もうお金が底をつきそうなんですけどね

石野 あはは、それはまずいですね。どこ行ってきたんですか?

柴木 ヴィレヴァンです

石野 …ヴィレヴァン? ちなみに何買ったんですか?

柴木 …エコバックとサングラス、あとメントスとコーラですね

石野 なんか、底辺YouTuberみたいですね

柴木 そんなことないでしょ


スコップで掘り進める二人、徐々に暗転。数秒後、徐々に明転。


石野 いやぁ、だいぶ掘りましたね

柴木 そうですね、もうヘトヘトです

石野 うん、これぐらいでいいかな。すいません手伝ってもらって 

柴木 いえいえ、お構いなく。友達びっくりしてあげましょう

石野 …はい! あ、最近ここらで深夜の交通事故が増えてるらしいので、帰る際はお気をつけてくださいね!

柴木 ありがとうございます! …あの

石野 …はい?

柴木 梯子おろしてもらってもいいですか?


暗転。


Act 6 幽霊の独白


徐々に明転。 舞台には入江と柴木、永見の三人がいる。


永見 …って、ことなんです。私は全部見てきました

入江 え、店長が、幽霊さんを、殺した…?

永見 永見です。はい。殺されました

柴木 え、まって、あのとき、苗木を植えるって言ってたのもしかして

永見 噓ですよ

入江 あなたも関与してたんですかい

柴木 …いやだって、まさか、友達の墓穴掘ってるなんて思わないじゃないですか!

入江 墓穴…

柴木 ていうか、なんでそんな幽霊みたいな格好してるんですか

永見 あれ、変ですか? 幽霊だったらこれかなーって、基本自由に着替えられますよ。これとか普通に取れますけど(三角巾を外す)

柴木 あぁ取っちゃった。幽霊って服装自由なんだね

永見 本題に戻りますけど。石野は、店長は、今どこに?

入江 店長は…って、あ、あなた、店長に何する気ですか?

永見 …

入江 答えてください!

永見 …あなただったらわかるでしょ

入江 …わからないですよ

柴木 おいおい、呪い殺すとかやめてくれよ、ホラー映画の見過ぎか?

永見 そんな物騒なことはできませんよ

柴木 じゃあ、一体、何を…

永見 ずっと、微妙に寒くさせます

入江 うわ、微妙に嫌だな

柴木 めっちゃ可愛らしいことしかできないんだな

永見 結構いやでしょ

入江 ええ、まぁ、嫌ですけど

柴木 復讐か?

永見 はい、僕の人生を奪ったんだから、当たり前でしょ

入江 復讐は、何も生みませんよ

柴木 そ、そうだそうだぁ

永見 何も生まないから、この感情のやり場に困ってるんです。じゃあ復讐した方がすっきりするでしょ

柴木 店長を庇うわけじゃないが、あまり、そういうことは考えるな

永見 埋めるのを手伝ったあんたには言われたくない!

柴木 いやぁ、あれは仕方がなくない?

永見 怪しむんだったら警察呼んでくれよ!

柴木 まじでごめんじゃん

入江 まぁ、まぁ、幽霊さん、落ち着いて

永見 永見です

入江 永見さん、一旦考えてみて、幽霊でも、やり残したことがあるなら、すべきじゃない?

永見 …例えば?

入江 バンジージャンプとか

永見 幽霊は飛ぼうとすれば飛べるんですから、意味ないでしょ

柴木 じゃあ、家族に会おうとは?

永見 …もう亡くなってます

柴木 まじでごめんじゃん。あれ、幽霊になったら、家族に会えるんじゃないの?

入江 成仏しないと、会えないんですよ。この世に未練があるから、残ってるんです

永見 僕も同じ考えを持っています

柴木 幽霊の解釈一致じゃん

入江 やかましいです

柴木 ごめんって、でも、永見さんの未練は、店長をどうすることなの?

永見 …僕もよくわからないんです

柴木 よく、わからない?

永見 …勘違いしてしまったのも、まぁなんとなくわかるんです。僕の人生を奪ったのはとても憎いんです。でも、気が許せる唯一の友達なんです。だから、もうどうしたらいいか…

入江 じゃあ、好きなことすればいいじゃん

永見 …え? 

入江 死んだなら、死んだなりに楽しめばいいじゃない

柴木 すげぇパンよりケーキ食ってそうな言葉だな

入江 私はコンビニの店員! さぁ! 教えて! あなたがしたいこと何よ!

永見 …ぼ、僕がしたいこと

入江 そう、あなたがしたいこと

永見 ぼ、僕は! 僕は女湯をのぞき見したい!

柴木 最低すぎる

入江 よく言った! 

永見 ありがとうございます!

入江 時間がないわ! いってらっしゃい

永見 はい!


永見がドアまで、駆け寄り、開くのを待つ。


永見 …あのー、来てもらっていいですか?

柴木 あはは、そらそうだわな。はい


SE:入店音


柴木 どうぞ、じゃあ、達者で

永見 どうも、それじゃあ、またどこかで


永見退場


柴木 いやぁ、それにしてもびっくりしたなぁ、まさか幽霊とはな

入江 …そうですね! 強盗に幽霊。ほんとにきちゃうなんて、次は何が来るんでしょう

柴木 もう何も来ないでほしいけどな

入江 えー、だって、暇じゃなくなるじゃないですか

柴木 じゃあなんでお前夜勤選んだんだよ

入江 やってみたかったんですよ

柴木 物好きだなぁ、あ、そうだ。買っていくよ

入江 何をです?

柴木 ミンティアだよ

入江 …ああ、覚えてたんですね

柴木 あまりにも衝撃だったからな

入江 匂いがね

柴木 このガキが

入江 えへへ

柴木 ほら、普通に買うから、レジ通してくれ

入江 あはは、すいません

柴木 どうした?

入江 新人なもんでして

柴木 なんだ、レジの使い方わからないのか

入江 …はい

柴木 じゃあ、仕方がないな、ここに小銭置いとくから、店長に聞いてくれ。お釣りは募金箱に。じゃあな

入江 …あの

柴木 ん?(入江の方を振り向く)


石野登場


入江 いえ、なんでもありません! ありがとうございました!

柴木 おう、夜勤頑張ってな!(進行方向を振り向く)

石野 どうか、されましたか?

柴木 うわびっくりしたぁ! え!? て、店長

石野 は、はい、店長ですが、あなたその服…

柴木 レジ打ちの女の子が…

石野 …レジ打ちの女の子? …そのサングラスを外してよく見てください

柴木 え? あ、はい(サングラスを外す)


暗転。明転後、入江の姿がない。


柴木 …おい、どういうことだ

石野 や、やっぱりあなた、もしかして!

柴木 今そんなことはどうでもいいんですよ!

石野 そ、そんなこと、え? 

柴木 それよりあの子は?

石野 あの子?

柴木 あんたも知ってるだろ!

石野 お客様、落ち着いてください!

柴木 …どういうことだ?

石野 お客様は今、おひとりで話していましたよ?


暗転。

Act 8 独り言

明転。舞台には石野のみ。最初の場面。しゃべるごとに間をおく。



石野 …


石野 …


石野 …


石野 …わ、なんだ、俺、寝てたのか


石野 …う、寒いな


石野 …はぁ、疲れた?


   煙草に火をつける。


石野 …はは、まぁ、みんなしてるよな


石野 …っは、守ってる奴らは偉いな


石野 …やっと、明日で終わるんだ


石野 …そうだな


石野 …はは、昨日飲みすぎたのかなぁ、手が震えちまってる


石野 …いや、違うな


石野 …夜勤は人が来なくて楽だな


石野 …寂しさもあるか


石野 …いやないだろ、なんだそれ


石野 …寂しさねぇ


石野 それにしても暇だなぁ


石野 しりとりでもするか


石野 じゃあ、しりとり


石野 リス


石野 スカベンジャー


石野 この場合だと「や」からか


石野 焼きたこ


石野 こ、コラボ


石野 …墓穴


石野は煙草を灰皿に押して消すしぐさをする。


石野 …はぁ、商品の確認してくるか


   石野退場。暗転、終。

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