またね、私も大好き
銀河24時
第1話
「だいじょうぶ?」
ついため息をついてしまって、後ろから見学に来てくれた三浦くんにそのため息を聞かれてしまった。
「だいじょうぶ。やっと絵に立体感が出てきたと思って、安心してため息が出ちゃったの」
と私は返事をする。
二ヶ月後にせまった夢が丘高校体育祭。赤、黄、青、緑の四色の色でチーム分けがされて、それぞれのチームの看板が当日応援席に飾られる。
私は美術部で青組の看板制作を担当している。
三浦くんは青組の副団長で、毎日看板制作の進み具合を見に来てくれていた。
女子にも男子にも人気があって、普段はなかなか近づけない、いつも回りに人がいる人気者。
それでもここに来るときだけはいつもひとり。
三浦くんはわかっていて来ているのだろうか。いつもこの時間、私が後輩たちを帰らせることを……
「星川、暗くなってきたから今日も送るよ」
三浦くんはさりげなく十二枚の看板の板を運び始めてくれる。
私も素直に続いて看板板をしまい始める。
今日は晴天だったので、絵の具がよく乾くと思って屋上に出して描いていたので、一人で片付けるのはたいへんで、黙々と板を運びながら三浦くんに感謝していた。
「いつもこんな重いもの、運ばせてごめんな」
三浦くんが申し訳なさそうに、なるべく私に運ばせないように板を持って行ってしまう。
「星川は絵の具なんかを運んで。俺が板を運ぶから」
三浦くんの軍手をはめた手先が力強く私を指示してくれる。
三浦くんのその優しさに私の心臓はどきどき胸打っていた。
(三浦くん、私、期待していいのかな…)
◇◇◇
あっという間に体育祭当日が来て、私と三浦くんは毎日一緒に帰ることはなくなった。
そしてある日、私はいつも三浦くんの回りにいる友人が話しているのを聞いて知ってしまった。
知らなかった。あんなに毎日一緒だったのに、三浦くんは言ってくれなかった。引っ越してしまうことを…
相変わらずクラスメイトに囲まれている三浦くん。私が声をかける隙間なんかない。
体育祭のキャンプファイヤーのダンスで手をつないだときに、ぎゅっと力を入れて
もう今はいつも通りの毎日、私は授業の後美術室で絵を描いている。
「またため息?」
美術室で部活中、石像のデッサンをしていたら、後方から三浦くんにまたため息を聞かれてしまった。
もう三浦くんは副団長でもないし、美術部にくる用事も無いはず…
「今日は美術部を見学?」
私は少し震える声で三浦くんに振り返る。
「星川を迎えに来た」
「えっ?」
「また、遅くまで描いてるんじゃないかと思ってさ」
私はどきどきする気持ちを
「じゃな、星川。もう、こうやって送れなくなるから、帰るのあんまり遅くなるなよ」
そう言い残し、三浦くんは転校してしまった。
◇◇◇
冬休み前、後輩たちに卒業前の挨拶で美術部に顔を出すと、後輩たちが「先輩、気付いてましたか?」と私にせっついてきた。
体育祭で描き上げた看板十二枚のうちの一枚に「毎日遅くまでありがとう」「俺がいなくなったら早く帰れよ」と書かれてあったのだ。
「これって先輩のことですよね」「誰が書いたのかわかりますか?」「先輩、意味、わかりますか」と次々に後輩から質問ぜめにあった。
私は「うん、わかる…」と小さくうなずいた。
三浦くんはいつ書いたんだろう。もっと早くに気付くべきだった。私は涙がこみ上げてきて、後輩たちが言ってくる言葉が耳に入らなくなっていた。
次々に涙がこぼれ落ちて、帰るときに後輩たちに隠れてスマホで三浦くんの字の写真を撮った。
冬休みが終わり、学校を卒業し、大学に行く前の春休みのうちに卒業アルバムが郵送で届いた。
私は三浦くんも載っている卒業アルバム、一ページ一ページをめくる。三浦くん、さすが人気者、たくさんのページに登場していた。
でも、三浦くんの新しい住所は載っていなくて…
そんなとき、数日後、郵便受けに一通の手紙が届いた。
信じられない。
私はすぐに手紙を読み始める。
卒業アルバムは先生から新しい住所に送ってもらったと書いてあった。そして
「アルバムの星川の住所を確かめた」と…
「いいかげんなことをしたくなかったんだ。星川とはずっと一緒にいたくて、確実に自分が星川と同じ大学に受かってから言おうと思ってた」
と…
そして最後に書かれていた。
「星川と同じ東京の大学に受かったよ。星川が好きだ。また大学で会おう」
うれしくてうれしくて、私はずっと何度も何度も繰り返し、三浦くんの言葉を読み返していた。
「三浦くん、ほんとうに…?」
涙が次々にこぼれ落ちた。
「またね、三浦くん、またね、私も大好き」
またね、私も大好き 銀河24時 @ginga24
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