最初に忘れるのは、声

あきかん

音の無い記憶

 最初に忘れるのは、声

 自我が芽生え始めた幼い頃から

 あいつと重ねた言葉の数々は

 字幕みたいに

 文字として記憶している


 サイレント映画のような記憶として

 あいつと一緒に見た海の景色も

 あいつと食べた料理の味も

 あいつとふれあった感触も

 鮮明におぼえている


 おぼえている

―――助けて、とあいつは言った

 鼻を潰した感触は思い出せる

―――助けて、とあいつは言った

 鉄のような返り血の味は思い出せる

―――助けて、とあいつは言った

 動かなくなったあいつの姿は思い出せる


 ただ声だけが、どうしても思い出せないのだ。

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