スイングバイバイ

白川津 中々

◾️

思考の軌道が外れてしまう。


昔からどうも言動が嵌まらない。誰かのためと思って動いてみたら結果として余計なお世話という形になる事が多く、全員の前で発言をすると的が外れてしまう場合が多々ある。意識が他者と逸脱しているため、いつも空回りしてしまうのだ。その度に申し訳なくなったり、恥をかいたと悔しい想いをしたりして、鬱屈してきた。記憶が蘇り、気が狂ったような声をあげて過去を打ち消そうとする夜を何度過ごした知れない。生きれば生きるだけそんな事が多くなる。心に安楽が宿る事なく、常に昔の自分を謗りながら過ごさなければならない日頃の生きにくさといったらない。控え目に、目立たないようにしていても性分は変わらず、やはりどこかで事故のように余計な行いをしてしまうのだ。今年で四十になるも、一向に治る気配はない。


最近、自分以外が死滅する妄想遊びをよくする。誰もいない世界。一人という絶対的な安心感。誰に気を使う必要もないし、これまでの自分を知る者もいない。人の目を気にしなくていいというこの上ない気楽さ。望ましい状態。虚しい一人遊びだが、少しだけ落ち着く事ができた。


そう考えると、心労の要因は相対的なものであり、人ありきだというのが分かる。ちゃんとした人、真面目な人、立派な人を見て落胆し、心無い人たちから揶揄われたりして悲嘆し、余計な真似をして怒らせたり呆れられたりした人に対して申し訳なくなるから苦しいのだ。全て、人の目ありき。空虚に一人だけ存在する未来を想像し悦に浸るような愚かな慰め方をしているのはそういう理由に他ならない。一人だけなら、どれだけ無軌道であってもいいのだから。


しかし、妄想は妄想。生きていく以上はどうしても、人と関わっていくしかない。絶望に打ちひしがれながらも、艱難辛苦に悶えながらも、誰かといなければならなず、頭の中で誰もいなくなった世界を歩くのだ。誰とも交われず、かといって完全な孤独にもなれず、今日もまた、夜な夜な叫びをあげ続ける。無軌道なまま、外れたままに。

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