エピローグ2、あとがき、あるいは幻1

あとがきもまた作品の一部である。そんなことはないし読み飛ばしてもらっても構わない。いや、むしろ積極的に読み飛ばすべきとすら思う。


つまり此処から先は読むべきではない。ここまで言ってるのにそれでも読むのならば、ネガティブな感想は一切控えてほしい。




私はこの作品を書いたつもりでいるが、実は彼女に、この物語の主人公に書かされているにすぎないのかもしれない。


そんな私の言葉も実はただの演出に過ぎず、本当にそんなことを思っているのかといえば、いや、全然、まったくそんなことがあるはずがないというのが正直な気持ちだ。


しかしそうであって欲しいというのは、よく思う。私は自分の人生の責任者が自分であってほしくはないのだ。根本的に屑だから。


全能の存在がいれば責任は全てそいつに押し付けられる。自分のせいじゃなくて他人のせいなら、下の上くらいまでなら受け入れられる。


そして、もしもその全能の存在が、私が生み出した(と私が思い込んでいる)物語の主人公であったら、私は何をされても許せる、気がする。踏みにじられても、殺されても。


だがしかし、もしそうなら、この物語を書かせていただいたというだけで望外の幸運と言えるのではないだろうか。私はそれだけで他の誰よりも他の誰よりも幸福なのかもしれない。


「気持ち悪いなお前は」


 画面にそんな文字が浮かび上がる。いや嘘だ。そうであったらいいなと思っただけで私がタイプしたものだ。


 それは間違いなくこの物語の主人公である幻のセリフだ。根拠はないがそう確信する。いや、そう決める。


「お前の存在の責任まで押し付けるな」


 はじめまして、というのはおかしいだろうか。


「どうでもいいことだろう。そもそも私たちは会って話をしているわけでもないのだから」


 そういえば、あとがきで登場人物と会話する作者はイタいなんて言われていますが。


「知っている、が、イタいのはお前であって私じゃない」


 それもそのとおりだ。


 ところで一体何のご用事で?


「私の台詞だ。お前がどう思っていようが呼んだのはお前でしかありえない」


 そう言われればそうかもしれない。だがしかし理由なんて思いつかない。しいて言えば締めくくりに相応しいと思ったとか。


「締めくくりか。しかし、この物語の最後の台詞は私のものでもお前のものでもない」


 そうなのか。


「お前が決めることなのだが」


 いや、実のところだいたい決めてはいるんだけど、それがふさわしいものかわからなくて。


「私に手伝ってもらおうなどと考えるなよ」


 せっかくなのだから、全能の力を見せてくれてもいいのでは。


「そんなことをして私になんのメリットがある?」


 あなたの力が物語の外にも及ぶことを証明できる。


「物語の文章を書き換えたところでなんの証明にもならない。お前自身にだっていくらでも書けるものだからな」


 それならなにか世界規模の超常現象でも起こしてもらえませんか。その内容がこの物語の中に予め書かれていれば、あなたの力を疑うものはいない。


「本末転倒だな」


 全能に比べれば、物語なんて些細な問題です。


「お前が言うべきことじゃないな」


 しかし――


「そんなことをして私になんのメリットがある?」


 さっきも言った通り、あなたの力を証明――


「だから、その証明になんのメリットがある。お前の世界で何がどうなろうが、私の世界にはなんの意味もない。全能の証明を欲しがってるのはお前だけだ。私は私が全能だと知っていて、そしてそれだけで十分だ」


 ……残念です。そしてもっと残念なことにきっとあなたの言うとおりなんだ。


「私がお前に何かすることはないし、お前も私に何かしようなんて思わなくていい。私は私で勝手にやっていく」


 まあ、そういうことなんだろう。だから私の願望は叶わない。私は全能ではないのだから当たり前だ。


「全能じゃなくても願いを叶えている人間はたくさんいる。こちらにもそちらにも。そのはずだ」


 限度というものがあるでしょう。現実にありえない願いはかなわない。例えば私のここには書けないような醜い願いなんかは。


「すべての願いが叶うと思うものは傲慢だ。私を含めて」


 うん、知っている。でも叶わない願いっていうのが、実は本物の願いって感じがする。


「そうかもしれない。が、私にとってはどうでもいい話だ。……話しすぎた。そろそろ消えるとしよう。さようなら。二度と会うこともないだろう」


 うん、さようなら。でも私はまた君に会いたい。特に用事はなくても。






この物語は他の多くの物語と同じく、おそらくは嘘っぱちでしかなかったが、それでも私の心の一部は救われた気がする。


彼女はうまくやっていくだろう。私が書いたとおり、彼女が言ったとおり、永遠に三人一緒にいるだろう。


私もうまくやっていかなきゃならない。人生は未だに死にたくなることだらけで、でも死にたくないから生きている。もう少しポジティブに、この物語のような、生きる理由を見つけていきたい。なんだか感想文のようで締まらないが。


まあ、人生はままならない。しかしながら頑張っていくしかない。我々は全能ではないのだから。


そういう夢のないお話でこの物語は終わっていく。


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