理想3
次の日、私は一人で学校に向かう。最近妹は恋人と待ち合わせてから登校しているのだ。その都合で妹の方が早く家を出る。普段は学校に着くのは同じくらいの時間になるのだが今日はずいぶんと遅れているようだった。結局、来る前に朝のホームルームが始まってしまう。別のクラスだから、これから一時限目が終わるまで到着したかどうか確認できない。
授業をまじめに聞き、終了のチャイムが鳴ると同時に教室を飛び出し、妹のクラスに向かう。
すぐに妹の姿を発見しひとまず息をつく。しかし顔を見ると何か浮かない表情だ。
「なんで遅刻したんだ」
「現実ちゃんが来なくて、電話もつながらなくて、学校に来てるかもって思ったけど、やっぱりいなくて」
「先生には聞いたのか」
「先生も連絡は来てないって」
なるほど。
「早退して探しに行くぞ」
「え、うん」
妹は驚いた様子だった。まじめな私のイメージと違うのだろう。
「どこにいくんです?」
教室を飛び出そうとした私たちの前に理想先生が立ちふさがる。
「どうしてここにいるんです」
「いえ、慌てた様子だったのでいったいどこに行くのかと」
「妹の具合が悪いので早退します」
適当な嘘、先生は鈍いから十分に通用する。
「じゃあ、送っていきますよ」
「授業はどうするんですか」
「午前中はもう私の担当する授業はないんですよ」
「でも、迷惑じゃ……」
先生は私の耳元に口を近づけて囁く。
「実はだいたいのことは聞いてしまったんです」
「わかりました。じゃあ送ってもらいます」
先生は鎌をかけられるほど器用じゃない。ごまかしても無駄そうだった。断っても、勝手に関わってきて事態をかき回す。そういう人間。
「そうこなくちゃいけません。それじゃあ私、車とって来ますから、玄関出たところで待っててください」
「はあ、わかりました」
先生が教室を出て行く。
私たちも行かなきゃいけない。しかし、なかなか動く気になれない。
ポジティブに考えれば世界一幸運な人間が味方についたのだ。喜ばしいことだろう。
本当に味方であれば、の話だが。
「お姉ちゃん、行こうよ」
声をかけられるまで立ち尽くしていた。妹は不安そうな顔をしている。私はどんな顔をしていただろう。大丈夫だよ、と言って彼女の頭を軽く叩いた。
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