士は己を知る者のために死す

@2321umoyukaku_2319

第1話 史記:刺客列伝

 古代中国の戦国時代末期。西方の秦は勢力を強め、東方の諸国を侵略しようとしていた。秦に狙われている小国・燕の太子丹は、秦王政を殺すことで自国を守ろうとした。そのために選ばれた男が荊軻だった。

 秦王政の暗殺は簡単なことではない。たとえ暗殺に成功しても、荊軻は生きて帰れないだろう。

 そんな危険な任務を引き受けるのは、どうかしている。

 それでも、頼まれたからには引き受けるのである。

 自分という男を見込んで頼むのだ。拒むわけにはいかない。

 士は己を知る者のために死す。

 この言葉には、友情という言葉だけでは表現しきれない、強い想いがある。

 この広大無辺な世界に自分は独りきりでいるのではない。

 自分という人間を知っている者が存在している。

 それは奇跡だ。本当の幸運だ。

 その幸せがあるからこそ、死地へ赴けるのだ。

 風蕭蕭として易水寒し、壮士、一たび去りてかえらず。

 荊軻は見送りに来た者たちに、この詩を詠んだ。聴く者たちは皆、感情を高ぶらせたという。

 秦王政暗殺は失敗し、荊軻は殺された。その後、秦は燕を滅ぼす。やがて秦は中国全土を統一し、秦王政は始皇帝を名乗る。

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