はっきり言って強い

ざらめき

第1話 その名は力也

力也は生まれた時から力が強かった。

同期の胎児が母を内側からキックしている時、力也は人知れずパンチをしていた。

彼が言うにはキックは二流、漢ならパンチ一択と、

しかしながら出生前から母に手を挙げていたことには一抹の負い目を感じており「親を泣かすやつは許せねえ」といったパワー系御用達のテンプレワードは今でも気持ちよく発せないらしい


しかし胎児期の全てをハードパンチに務めた為いざ母から生まれた時はあまりの足の細さに産婆は口を揃えて「スリムなお子さんですねえ」と生まれたての小鹿じゃねんだからと一発目に思いつくが煽り耐性のない赤子に向けるには相応しくないキラーワードを避けるかのようにそう発せられていた。


力也は元々逆子で生まれてくる予定だったがその細すぎる足を恥じ、鍛えた前腕で自力でくるりと一回転し無事顔から生誕したのはよくしられた話である。


その後も力也の足は一向に筋肉が付かず、ハイハイからの脱却が人より遅いのではないかと両親からの不安な声を耳にする事になるが、両親思いの力也はその不安を取り除くかのように足が無理なら腕があるじゃないと発したあと

(厳密に言うとまだ喋れない為アウアウと言っている)

逆立ちで歩き始めた


両親は互いの顔を見合わせたあとえぇ...と心の声をしっかり口に出しあと、数テンポおくれて「立った!」と喜びを見せた。

力也は後に語る、自分が初めて立った時の両親の満面の笑みは逆さまではなく正面から見たかったと。


次週に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はっきり言って強い ざらめき @zarameki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ