【PV 430 回】『描けない未来を描く』

Algo Lighter アルゴライター

プロローグ 未来の回想

数年後の未来。

人々はもはや、街のギャラリーに足を運ばずとも、頭に装着したインターフェース一つで無数のアート空間を巡ることができる時代になっていた。物理的なキャンバスではなく、メタバースの中に広がる無限のギャラリールーム。目の前には、かつて彼らが生み出した作品群が浮かび上がっている。


結城駿介は、ふと足を止めるようにしてその作品に目をやった。厳密には「足を止める」といっても、ここはメタバースの空間であり、現実の肉体はどこかの自宅でリラックスしている。しかし、目の前に広がる映像、音、さらには手に取れるかのような立体感が、まるで現実の美術館に立っているような錯覚を引き起こす。


そこに展示されているのは、今や伝説的な評価を受けるようになった「境界シリーズ」。手描きの絵画と生成AIの映像が混ざり合い、リアルな写真がその合間を埋めるという独自の表現手法で、当時は「前衛的すぎる」と評されたが、今では多くのアーティストがその流れを継承している。


「…懐かしいな。」

駿介はつぶやいた。その声が、この仮想空間の中で小さく反響する。目の前に広がる作品群は、高校時代、仲間たちと力を合わせて作り上げたものだった。AIアート部、美術部、写真部――それぞれ違うバックグラウンドを持ちながら、同じ目標に向かって突き進んだ日々のことが頭をよぎる。


あの時、彼らはAIの技術がもたらす変化に戸惑い、試行錯誤しながらも「自分たちにしかできない何か」を見つけ出そうとしていた。生成AIが生み出す完璧すぎる画像、手描きの不完全で温かみのあるライン、写真の中に刻まれる瞬間の記憶。それらをどう融合させ、どんな新しい表現が可能になるのか。


このギャラリーの中に並ぶ作品は、そんな彼らの挑戦の軌跡だった。


駿介は、一枚の作品の前で足を止める。そこには、かつて放課後の部室で何度も描き直し、仲間たちと議論を重ねて完成させた一つの作品が映し出されていた。背景は生成AIが描いたまるで夢のような景色、その手前に写る人物は、写真部の仲間が撮影したもの。そしてその人物の周りを包み込むように描かれた抽象的なラインと色彩は、美術部エースの手によるものだった。


あの時、彼らは未来を描いていた。そして今、その未来の中で駿介は、自分たちが創り上げた「新しい表現」の可能性を目の当たりにしている。


「俺たちは何を信じていたんだろう。何を描こうとしていたんだろう。」

彼のつぶやきに答える声はない。けれど、作品はそこにあり、かつて共に戦った仲間たちの情熱や想いが、この空間に満ちているように感じられた。


駿介は微笑み、次の作品へと歩を進める。頭の中には、あの時の放課後、笑い声と議論が交錯した部室の光景が浮かんでいた。未来のギャラリーを巡る彼の旅は、過去の青春の日々へと続く道となり、物語の幕が開かれる。








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