第3話

「あ、あの……」

 ちょっと怪しい女の子が低いテンションで話し始めた。

「は、はい」


「興味を持ってくれたの……」

「はい? あ、ええ、まあ、MO部って看板を見て……」

「チラシ読んだ?」

「あ、はい」

「賛同してくれる?」

「え? いきなりそんなこと言われても……」

「してくれないの……」

「まあ、モブのための部活ってのは魅力的ですけど」


「なに!? それなら入部するしかないだろう!」

 女の子は顔を上げ、突然、力強くしゃべり始めた。


「え……」

「これ、すぐ入部届書いて」

 いや何? その早口。

「あの……」

「あ、ああ、君は合格だからな」

 勝手にテストされてたんですか俺。まあ、モブに合格っていうなら願ったりかなったりではありますけどね。


「あ、でも、ヘリウムはモブじゃないような。原子番号2で水素の次に軽い元素ですけど、大気中の中にほんのわずかしかありませんし、バルーンとか変声ガスとかでけっこう目立ちますし。ホントのモブは空気中に七八%含まれるのに人知れずいろいろな役割を果たしている窒素なんじゃ……。あと、山崎シングルモルトは世界的に大人気ですし……」

「ん?」

「それと……雨ニモマケズの人って、日本の児童文学の中でも空前絶後の存在で、どうやってもモブじゃないような……」

「う、確かに……」


 あ……ついうんちくしゃべっちゃったよ。まずいかな……。


「ぶちょー! 寝坊しちゃいましたあ、テヘ。ギリハッピー?」


 突然、かわいい系のギャル? が乱入してきた。一応、制服は着てるけど髪型も化粧もかなり派手だ。

「あっれー? この人だーれ? 入部希望とかー? 超ウケる」

 俺を見て勝手なことを言っている。


「ああ、如月さん、いいとこに来た……じゃない! なにその恰好は。MO部の部訓、知ってるよね」

 あ、この人やっぱり部長だったのか。


「もっちもち。目立たぬようにはしゃがぬようにだったかなー」

「はあ……まあそれでもいいけど。なぜ目立つ格好ばかりするの?」

「ええ? ギャルはさ、基本モブだから。ギャルだから目立たないんだよ」

「はあ……でもはしゃいでるでしょ」

「はは、だってギャルだもん。はしゃいでいても空気。これガチだから」


 俺はついて行けず、放心状態で二人の会話を聞いていた。

「あ、ごめんなさい。この子、二年生のMO部員で如月美悠きらさぎみゆさん」

「はあ……」


 モブインって……負けヒロインにさえなれない空気のような女子のことなんじゃ……あ、それでいいのか部是の通りで。


「美悠みゆじゃなくて私、ホントはμ(ミュー)なんだよ。荷電レプトンのミュー粒子のμ」

 素粒子? いきなりギャルらしくないことを言うので面食らったが……。

「えーと、ミュー粒子は素粒子の中でも超絶寿命が短いんですけど、いいんですか? 五十万分の一秒だったかな?」

 つい優等生っぽい意地悪な発言で突っ込んでしまった。


「あっははー。ギャルの寿命も短いからいいんだよー」

「あ、はは、そうですか」

 いやあっぱれな返しでした。


「えーと、私はMO部部長の冷泉院麗子れいぜいいんれいこ

 今度はぶちょーが自己紹介してきた。

「あ、はあ……なんだか由緒ありそうな名前ですね」

「モブに由緒なんてない。レイは0。二つかけてもゼロはゼロだから私はゼロ。実数でも虚数でもない無の存在、すなわちモブ」

 いや何言ってるかわかんないんですけど。


「それで君の名前は?」

「あ、広川博斗っていいます。えーと1年で、組はまだわかりませんけど」

「名前にヒロが2回も出てくるとは……ヒーロー二乗。それはモブではなく主人公ではないか」

 いやそんなこと考えたことありませんけど。まあ。中学ではある意味ヒーローでしたけどね、確かに言われてみれば。辛いだけだったけど。


「MO部に入るには改名してもらうしかないかもしれないな」

「はあ!?」

「モブ川モブトでどうだ」

 まあそうしたいのはやまやまですけど。

「嫌ですよ……ってかあり得ないです」

「じゃあ、君の名を因数分解してみよう」

「はい?」

 突然何始めるの? この人。

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