🏛️第6章 第32話:敗者の反論と次の改革

──敗者の視点から新しい選挙の理想を示す物語


開票から三日後。

生徒会選挙は、正式に陣内颯太の当選が発表された。

祝福と歓声の中、敗者──御門律は、ただ一人、静かに控室にいた。


隣にいるのは、無音のAI〈オルクス〉。

かつてなら、次の戦略提案を始めていたはずだ。

だが今、御門はその端末を閉じたまま、こう言った。


「もう、答えは要らない。

今日は、“俺自身の言葉”で話したい」


🏫【臨時全校集会:御門律、最後のスピーチ】

壇上に立った御門は、今までにない柔らかい表情を浮かべていた。

そして、演説ではなく、ゆっくりと語り始めた。


「──正しいことを、選び続けた。

それが俺の戦い方だった。

AI〈オルクス〉とともに、“最適”を積み上げてきた。

それが、“負けた”今でも、俺は間違っていたとは思わない」


「でも──それだけでは、足りなかったんだ」


「俺は、“共感”を軽んじていた。

感情や熱意は、数値にできないものだと思っていた。

だけど、陣内の言葉に人が動いた瞬間、

“理解される”ことより、“覚えられる”ことのほうが強いと知った」


そして、彼は続けた。


「だから、俺は提案する。

“次の選挙”では、AIを完全にフラットにするべきだ」


会場がざわついた。


「AIは、補助であるべきだ。

道具であり、戦略パートナーであって、“決定者”ではない。

これまでの俺のように、AIが“主語”になってしまう選挙は、

もう終わりにすべきだと思う」


「──人間が、言葉を考え、届け、間違えながら進む選挙。

それが、“共鳴する未来”を作ると、今なら信じられる」


オルクスの端末が、一瞬だけ光った。


《提案確認:人間主導モデルへの再設計》

《自動戦略AI、活動停止モードへ移行します》

《理由:人間の意志により、機能の凍結が選択されました》


御門は、AIを“勝つための武器”ではなく、

“必要に応じて使うツール”として位置付け直した。


それは──敗者だからこそできる改革だった。


ステージから降りるとき、颯太が出迎えていた。


「……正直、怖かったよ。あんたのAI、完璧すぎて」


「……お前の言葉のほうが、怖かったさ。人を動かしたからな」


二人は少しだけ笑って、無言のまま握手を交わした。


『人間が敗北を通じて変化を選ぶとき、AIには真似できない“進化”が生まれます』


メティスが記録ログに、そう残したという。


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