🤝第4章 第20話:人間らしさという武器

──涙・言い間違い=非論理性が共感を呼ぶ物語


「はじめに──いや、初めにじゃなくて……えっと」


スクリンクのライブ配信画面。

全校生徒が視聴できる“合同候補者スピーチ”。


颯太の順番が回ってきたその瞬間、彼は言葉を噛んだ。


ざわりと空気が揺れる。

画面のコメント欄が、そわそわと動き始める。


「あれ、噛んだ?」

「緊張してる?」

「台本飛んだのかな……?」


カンペはない。

メティスのプロンプト表示も、あえて“非表示”にしていた。


「お前が全部言ってくれるなら、俺、考えるのサボるようになる」

そう言って、颯太は自分の言葉だけで臨むと決めていた。


「……俺は、選挙に出るの、今回が三回目です」


一呼吸。

沈黙。

でも、言葉が震えていた。


「1回目は……なんかもう、笑われて終わって。

2回目は、AIの言う通りにやって、それでも負けて。

で、今。最後のチャンスで。

──今、こうして話してるのも、ちょっと信じられません」


そのときだった。


──言葉が詰まった。

声が、揺れた。

息が止まるような瞬間。


「……俺、ずっと怖かったんです」


沈黙が、逆に教室を満たしていく。


「自分の言葉じゃ、誰にも届かないんじゃないかって。

何を言っても、笑われて、負けて、何も変えられないんじゃないかって──

でも、それでも、伝えたくて……」


瞳に、涙が浮かんでいた。


画面のコメント欄が一気に流れ出す。


「泣きそう……」

「何この人、すごい本音……」

「今までのどの演説より“人間”だった」


『情動的共感反応、急上昇。視聴完了率97%。

 信頼ポイント上昇率、過去最高』


メティスの分析が、冷静に示す“数字”。

でもそのとき、颯太はもう数字など見ていなかった。


「俺、完璧なことは言えません。

でも、だからこそ、“みんなの声”を聞いて、集めて、ぶつかりながらでも進みたい。

失敗しても、“お前のせいだ”って言われてもいい。

それが、“人間がやる選挙”だって思うから──」


言い切ったとき、拍手が起きた。


Skulinkの通知が鳴る。

共有、コメント、スタンプ。

画面の向こうで、誰かの心が、たしかに動いた音。


配信を終え、控室で深呼吸する颯太。


『なぜ、プロンプトを使わなかったのですか?』


「……答えは出てたけど、感情が追いついてなかったんだよ。

でも、それを乗り越えて話したから、“本音”になったんだと思う」


『感情が先にあって、言葉が追いつく──

 それは、非効率ですが、“共感生成率”は極めて高い状態でした』


「人間って、そういうもんだろ?」


『少しだけ、理解できた気がします』


──それは、まるで“AIが微笑んだ”ような反応だった。

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