🧍♂️第3章 第19話:票につながる“顔”の意味
──顔の見える選挙=挨拶・対話戦術の実証の物語
朝の校門。
まだ眠そうな1年生や、イヤホンを耳に差した2年生の列の中、颯太はただ、立っていた。
「おはようございます!」
「今日も1日頑張って!」
最初は、無視された。
目も合わされなかった。
そもそも、彼の顔を知らない生徒の方が多かった。
「このやり方、効果あると思うか?」
手伝いに来ていた天野が、苦笑しながら言った。
「効率で考えたら、正直最悪。
でも、“顔”ってさ、“演説より覚えられる”んだよね」
光理も横から補足する。
「Skulinkの投票ボタンを押すとき、“知ってる人”を選ぶって傾向、強いよ。
データ的にも、“1対1の接触経験”は投票行動にプラスに働く」
『信頼ポイントにおける“視認認識効果”は、共感演説より影響値が高いとされます』
『いわゆる、“顔が浮かぶ候補”の方が、記憶選好性が強くなる傾向です』
メティスの補足は、数字で支えてくれる。
「つまり、やっぱ“顔を覚えてもらう”って大事なんだな」
それから颯太は、毎朝、校門での挨拶を続けた。
誰にでも声をかけた。
名前がわからなくても、アイコンが違っていても。
最初はただの“挨拶する人”だった。
でも数日経つと、生徒の反応に変化が現れ始める。
「……あ、昨日の缶バッジの人だ」
「Skulinkの動画、観たよ」
「なんか、ちゃんと覚えてくれてる感じするよね、あの人」
ある日、1年生の男子が、放課後ふらりと近づいてきた。
「これ、ポスターに書いてた“生徒会カフェ”の話っすけど……俺、手伝ってもいいっすか?」
突然の申し出に、颯太は一瞬目を丸くした。
「え、マジで? なんで?」
「いや……朝の挨拶っす。
なんか、“俺のこと、名前も知らねえのに気にしてくれてんのかな”って。
……ちょっと、嬉しかったんすよね」
『演説・投稿・グッズ・可視化政策──それらが“顔と声”と結びつくことで、信頼の質が変わるようです』
「戦略と熱だけじゃ、届かなかったかもしれないな」
『“誰かに選ばれる”前に、“誰かに知られる”必要があります。』
夜。
SkulinkのサポートAIが、最新の動向を通知する。
📊【信頼ポイント更新】
▶ 陣内颯太:顔認知データ登録数 +17%
▶ コメント投稿数 +24%(うち“実際に話した”記述含む)
その数字は、“すごい”とは言えなかった。
でも──確かに、変化が始まっていた。
「見てくれ、メティス。これが、俺の“戦略”だよ」
手を振りながら、笑う颯太。
校門に立つその姿は、データでも、映像でも、AIでもなく──
人間として“票”を積み上げている姿だった。
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