第6話・地下での出会い

格納庫らしき空間を障害物に気を付けながらも歩き回り、どうにか扉らしき場所を見つける事が出来た事に安堵した。

恐らく光源が生きていたなら、すぐに探せたんだろうけど不用意に動いてまた床が底抜けていたらと思うと恐ろしい。これ以上の落下はごめんだ。


で、見つけたドアもスライドタイプであり電力が生きていたなら恐らく自動ドアとして機能していたのだろう。

だがしかし現状はそうではない。電力は死んでいるのだから当然自動ドアも開かない。常人ならこれをぶち破るのも時間が掛かったかもしれない。


「えい」


が、俺の怪力でこうドカンだ。


力み過ぎて吹き飛んだドア部分が正面の廊下の壁にぶつかり、そのまま床に倒れる様を見ながら小さく頷く。


困ったらパワー、この手に限る。


そして現在、俺はそのまま廊下の通路を歩ている次第である。

時おりある閉まっているドアは相変わらず力づくで強引に開けている。


今のところ大して気になった部屋はなかった。

ベッドがありデスクがあり、の個室だったであろう部屋とガラガラの棚が幾つも置かれた部屋…恐らくは物置きだったであろう場所を見つけたくらいか。


途中で幾つかあった分かれ道も土砂崩れで塞がっていたりと流石に怪力一つでどうにかなる状態ではなかったので諦め、辛うじて通れる道を進んでいる。


で、此処までの道中で収穫は何もない。

直下の目的である食糧や水分の類も見つかっていない。


「……何時まで歩けばいいんだ」


壁に手を添えながら歩き続ける。

光源がないのだから当然だ、なので歩みも結構ゆっくりだ。


だからこそ、ストレスだ。

思い思いに動けないもどかしさ、何があるか分からないのだから仕方がないとはいえだ。

もう全力疾走してやろうか、とも思ったが体力は何かあった時の為に温存しておきたい。


何よりエネルギーを使い過ぎる様な行動は控えるべきだ。

未だ食べ物や水分を一度も摂っていないのだから。

また虫の化物が出てきた時に満足に動けませんでした、となったら笑えない。


なんて、考えてたのがいけなかったのか?




『……ジ……ジジ………ジ』




どれだけ歩いたか分からないが通路の奥、相変わらず何も見えない先から機械音の様なものが聴こえた。


何かがいる、その気配だけは分かった。


「……くそ、勘弁してくれ」


ちょっと考えた矢先にこれである。

偶然なんだろうが、この偶然を俺は呪うぞ。タイミング悪過ぎる。


「今度はなんだ、あの虫の化物ではないだろうが…」


目覚めた直後に蹴散らした人型の虫の化物の姿を思い起こす。

あれは結構簡単に対処出来たが、そういえばあの時以降見掛けていない。

外が見ないのは一旦置いておくとして、この廃墟自体が虫の巣窟であっとして、今俺がいる様な空間からば、それこそあの虫の化物の出番だろうに。


頭の片隅で考えいる内に、機械音が近づいている。

金属が鳴らす足音と共に廊下の先から響く音の正体は俺の予想を外すものだった。


「…なに?」


丸っこいボディに、テーブルの脚をそのままとっ付けた様なシンプルデザインの四肢。

球体の中央で、青く光るモノアイだけが唯一の光源なだけあって偉く印象深かった。


四足で動く球状のロボットが3体程が俺の足元まで近付いてきたのだ。


「え、え、なにこれ」


別に無警戒なつもりはなかった。

ただ余りにも無防備な状態でロボットが近づいてきた事に面食らってしまったのだ。

実際に此方を害する行動をするつもりもなかった様で、足元まで来ると球体ボディの角度を俺の顔に合わせ、モノアイを光らせた。


俺の膝下ほどだろうか?両手で抱えられる中型犬サイズと言うべきなのだろう。

どこか可愛げさえ感じさせるサイズ感で3体は俺の周囲を動き回ると、青いモノアイをピカピカと点滅させる。

まるで俺に話し掛けるしながら前足?を上げ通路の先を指出す様に動かした。


「奥に向かえ、と?」


3体の内の1体が頷くと前足の先をケーブルで伸ばしてきた。

攻撃か、と身構えたのも一瞬で足先が三つに分かれアームの様な状態になると俺の空いた右手を掴んだ。


そしてそのまま身体を引っ張られる。


「お、おい!」


此方の声に反応しない、ただ引っ張られるままに前に進む。

残りの2体は先導しながら進み、モノアイをライトの様にして道先を照らす。


照らされた先を見れば、目の前に扉が見えた。

そこで行き止まりだった為「マジか…」と食料や水どころか出口にさえ辿り着けなかった事に落胆し掛けるが、目の前の扉はこれまでの扉とは、どうも様相が違う。


両開きタイプの扉と、その扉に面した壁は重厚な作りとなっていた。

まるでここだけが隔絶されている様な、何かを守る様な厳重さと言うか。


とりあえず、扉に触れてみる。

……まあ、ぶち破れそうではある。


「この先か……よーし」


俺は握られていない方の左手を振りかぶり、扉へ向けて思いっきり叩き付けようとした。

が、その瞬間、右手を強く引っ張られ思わず体勢を崩してしまう。


見るとロボットは慌てる様な仕草で前足を振り回していた。

他の2体も同様の仕草だ。


「………えっと、殴るなってこと?」


俺の言葉にロボット達はブンブンと首…いや、胴体を思いっきり縦に振る。

こいつらロボットだけど動きが表情豊かだな、おい。


まあ、ここまで止めようとするのならしないけど……と首を傾げる俺を見ながらロボットは俺を再び引っ張ってくる。

そのまま案内されたの扉のすぐ横で見たものは、モニターの付いたカードリーダーらしき機械だった。


ロボットは俺の手を離すと、胴体の背面部分を開いた。

そこにアームを突っ込んで取り出した物を俺へと手渡す。


「…カード。カードキーか、これ」


黒色のデザインらしいものが一切されていないシンプルなカードキー。

これを通せと言っているのだろうが…電力が通ってないんじゃないのか、此処。


なんて疑問が顔に出ていたのか、ロボットはカードを挿し込む様に促してくる。


とりあえず、俺は言われた通りにカードを挿入する。

挿入すると、カードリーダーのランプが黄色く光る。


「え、反応した…?」


電力は死んでるんじゃなかったのか?


『顔認証を行います。モニターの前、顔全体が映るように移動してください』


驚いている俺を尻目にカードリーダーから機械音声が流れる。

ここまで来れば言われた通りにしてやるよ、と言う気持ちで俺はモニターの前に立つ。


映し出されるのは俺の顔。

伸ばしっぱなしの長髪でボリュームのある前髪をどかして顔が綺麗に映るようにする。


琥珀色の瞳、形良い程よく膨らみがある唇、きめ細かい肌。

改めてみると我ながら女みたいな顔だなと他人事の様に考えてしまう。

まあ記憶がない身からすると1日も経たずして、これが俺自身なのだという実感が未だ薄いという理由があるのだが。


そんなぼやけた事を考えていると、再び機械音が鳴る。


『認証確認。ロック―――解除します』


ランプが緑色に点灯する。

何かしら問題も特になく大きな音と共に目の前の扉は開かれた。


「………ここは」


扉が開かれた先に広がるのはどこか既視感のある光景。

何らかの設備が並び、そして、それらの設備が囲う様に設置された1つの機械。


「俺が入っていたカプセルと同じ…?」


そうだ、既視感云々じゃない。

俺が目覚めた空間と、この部屋の雰囲気が似ているのだ。

あちらと違いここには目の前のカプセルが1つだけあるに留まっているが、このカプセルも俺が入っていたものと全く同じもので間違いない。


「ここは電力が生きてるのか……非常電源って奴か」


だとしても、それは一体何時から稼働してるのか。

世界が荒れ果てる前からの設備だとしたら、それは一体どれほどの月日が経った上での事だったのか。


「………カプセルが」


目の前のカプセルから音が鳴る。

カプセルの前面が徐々に開き始めたのだ。


気付けば3体のロボットも俺の足元にいた。

俺と一緒に、その開かれる瞬間を見守っていた。


そうして、カプセルが完全に開かれる。

中を覗き込んでみると1人の少女が眠っていた。


長く伸び切った銀髪に―――俺と全く同じ顔をした裸の少女だった。


「この子は…」


俺と違って裸であるとか、その顔が俺とまったく瓜二つであるとか、色々とツッコミ所があるんだけど。


今この瞬間に感じたのは胸を撫で下ろす様な安心だった。


やっと生身の人に会えたという気持ちもある。

だがそれ以上に、この少女を見た時に俺の心が大きく揺れ動いた様な感覚を憶えたんだ。


だからだろうか。

これもまた、無意識に呟いてしまっていたのかもしれない。


少女はゆっくりと瞼を開ける。

長い眠りから目を覚ましたであろう少女を見て俺は―――。




「――――かあ、さん?」




俺はどうして、あまり年も変わらない様なこの子の事を、母と呼んでしまったのだろう?


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滅んだ世界で目覚めましては カガヤ1484 @coreboon

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