第4話・苛烈なるアームズギア

青いアームズギアからの追撃は突然の乱入によって中断された。


俺と青いアームズギアを囲う様に道路は割れ、周辺の建造物も巻き込んで大きな裂け目を作り出す。

そして、そこから黒い巨虫が現れるがサイズが先程青いアームズギアが倒したソレの比ではなかった。


青いアームズギアと同等程度だった個体とは違い、裂け目から現れたのは更に一回り大きくなったであろう巨虫。

その姿も10m級であった巨虫から更に変わっており、6対の足と2つに裂けた顎で、より攻撃的な姿となっていた。


……少なくとも今見える範囲で4匹。

それぞれが四方に散らばり、俺達……いや、厳密には青いアームズギアを包囲する様にして相手の様子を伺っている様だ。


「…………はぁ」


息を切らしながら瓦礫を乗り越える。

何とか建物の影に隠れることが出来た為、やっと一息つく。

不幸中の幸いとでも言うべきか、猶更やばい事になったのか。

ひとまずは、青いアームズギアの注意が完全にこっちから外れたのは間違いない。


「………今は…まだ隠れてた方がいいか。逃げるなら戦闘中のドサクサに紛れた方がいい…」


人間サイズの虫の化物程度なら、と楽観していたら今やこれである。

虫ってのはドンドン大きくなっていくものなんだろうか。


俺がどうこう出来る状況からとっくに超越されて、戦いが始まった暁にはそれこそミジンコの如くコソコソと離れるくらいしか出来る事はないだろう。


影から覗き見る青いアームズギアは指先から伸ばした光剣を構えている。

迎え撃つ気満々と言ったところか、巨虫も大きくなってどれほどの変化があるかは分からないが、アームズギアの性能ならば切り抜ける事は出来るかもしれない。


いざ切り抜かれてしまったら、その時はまた俺は執拗に追われる事になるだろう。

状況を見て、タイミングを計らねばならない。


「………先に動くか、アームズギアが」


膠着していた様子を見守っていたのも、ほんの数十秒だった。

四方を囲みながらもジリジリと包囲を狭めていた巨虫に対し、青いアームズギアはその一角を崩す事にしたようだ。


青いアームズギアの背面に装備された4つのブースターが火を吹かす。

轟音を轟かせながら、青いアームズギアは一気に飛び立った。


目標は恐らく正面から右、アームズギアから見れば14時の方向だろうか。

横に広い道路を背にして立ち塞がる巨虫だ。


「撃破したら、そのまま道路を駆け抜けて離脱するつもり…?」


幸い障害物もない、倒壊した建造物が道を狭めているなんて事もない。

そのまま、それで離脱してくれるのならそれに乗じて俺も離れる事になると思うが……。


俺の予想はともかく、どちらにしろ確実1匹を落とすつもりなのは確かだ。


ブースターを点火させた青いアームズギアの加速は凄まじかった。

文字通り一瞬の内に光剣の間合いまで踏み込んだのだ。


接近された巨虫は、それに対して動きを見せるが―――余りにも遅い。

巨体故に鈍重なのかは知らないが、そんな事は相対する相手からすれば関係ない。


青いアームズギアは右手の光剣を横に振りかぶり、そのまま巨虫の頭部目掛けて突き出した。


正確だ。避けようがない。


分かり切った結果だ。

巨虫の額に光剣は吸い込まれ、頭部に巨大な風穴を作り出す。


決まった!…だけど、まだ動いてる。


頭部を貫かれたまま、巨虫の足は動く。

虫の生命力か、頭部がやられても反撃を仕掛けようとしている。


しかし鋭い足の切っ先に青いアームズギアが当たる事はない。

光剣を引き抜いた後、機体を数歩下げる事で最小限の動きとし反撃を回避、そのまま返す刀で回転斬りを行い、突き出された足の切っ先ごと、巨虫の頭部を切り落としたのだ。


鮮やかだった。

幾らデカくなろうと青いアームズギアにとっては何ら変わらない相手か。


「けど、まだだ。他が一気に来てる…!!」


凄まじい技量を見せたのも束の間、残り3匹は一斉に動き出していた。


青いアームズギア以上の巨体、そして質量を持って迫る。

顎を大きく開き、6対の足を構えた巨虫は三方より飛び掛かる。

1匹を仕留めた直後の青いアームズギアだが、次の動きは予見していたのだろう。

頭部を切り裂いた後、光剣で斬り抜いた勢いそのまま方向転換、奇しくも正面から複数を迎え撃つ形となって


青いアームズギアは後退せずに正面への突撃を敢行した。


「なにっ…」


道の開けた先へ、どうして下がらなかったのか分からなかった。

敢えて全部を倒す必要はあるのか?そうしなければならない理由があるのか?


これは無謀か確信か、3匹を処理する自信がある故なのか。



―――いいや、多分違う。



戦い方を見ていれば、分かっていく部分もある。

執拗に迫る戦い方、徹底的に甚振る戦い方。


それを見て、自分自身でも味わってこそ言い切れる。


青いアームズギアをの戦う様を見る。

ツインアイから赤い残光を走らせながら、迫る巨虫の一切合切を切り捨てるつもりのそれは、きっと憎悪を抱きながら、戦いと向き合ってるんじゃないだろうか。


意味のある戦いも、無駄な戦いでも、その全てを受け止めてしまう様な、鬼気迫る物を感じ取った……様な気がした。


『――――――――――――!!!』


声なんざ聴こえやしない。

しかし一度そう捉えてしまうと、青いアームズギアの戦いは常に声を上げながらの猛攻に見えてしまった。


1匹目、正面。

すれ違いざまに胴体と下腹部を泣き別れさせる。

両脇からの同時攻撃に装甲が削られ、引き裂かれたが支障はなし。


2匹目、青いアームズギアから見て右側。

正面から抜けた後に、もう片手の指先から光剣を伸ばす。



やはり両手から出せるのか、あの兵装は。



左側からの攻撃を新たに抜いた光剣であしらうと、もう片方の光剣を薙ぎ払った。

巨虫の腹部を深く切り込んだ後、右足を構えた―――そしてそのまま、腹の傷を突く。

勢いを乗せ、巨虫の上半身がそのまま蹴り千切りられた。



『―――――――!!』



3匹目、それもまた呆気なかった。

両手の光剣にて巨虫の足を全て斬り落とした後、蹴り飛ばす。

そして仰向けになり動けなくなった巨虫に目掛け、両手の光剣を突き立てた。





それから間もなく動かなくなる。

突如乱入してきた巨虫は全て、青いアームズギアによって返り討ちとなった。

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