第4話 過去から来た来訪者(後編)
「てかさ、藤原。文化祭のときのアレ、覚えてる?」
「……アレって?」
「ほら、ステージでギター弾こうとして、音出なくて焦ってたやつ。マイクケーブル抜けてたとかいうやつ」
藤原は一瞬、思考が止まった。
あれは確かに高校の文化祭、クラスの有志バンドで一曲だけ参加したときの話だった。
マイクのセッティングをミスって、イントロの入りを間違えた。
恥ずかしすぎて、親しい友人数人以外には話していないはずだった。
「……そんな話、したっけ?」
「え? あれ? 誰かから聞いたんだったかな……。いや、違う、見たんだっけ? なんか、変なふうに印象に残っててさ」
高木は笑いながら曖昧に誤魔化すが、藤原の中に奇妙なざわめきが残った。
(いや、あのときの映像なんて残ってないはずだし……誰に話したっけ?)
まるで、自分の“個人的な記憶”を誰かがなぞってきたような——そんな感覚。
まるで、最初から知っていたかのような口ぶりだった。
しかも話の中で、他にもいくつか「偶然」とは思えないような一致があった。
「この近くの焼肉屋、昔お前ん家の近くにもなかった?」
「お前、数学得意だったっけ? いや、国語か?……あれ? いや、どっちもだったかも」
「そういや、修学旅行で熱出して寝込んだのって、お前じゃなかった?」
一つひとつは曖昧で、記憶違いと片付けることもできる。
でも——。
(……まるで“俺のことをよく知っている誰か”みたいじゃないか)
その瞬間、妄想が弾けるように膨らんだ。
(……こいつは転生者なんじゃないか?)
もしも——もしも、高木が“転生者”で、何かしらの方法でこの世界線に来ているとしたら?
そして“俺の人生”をなぞって、最適化して、自分のものにしていたとしたら——。
——冗談だろ。
そんな思考を打ち消す自分と、それにしがみつきたい自分が、同時に存在していた。
「……あ、もう昼戻らなきゃな」
藤原はスマホを見ながらそう言って、席を立った。
「またどこかでな! 今度飲みに行こうぜ。今度はもっとゆっくり」
「……ああ」
笑って手を振る高木を背に、藤原は早歩きでカフェを出た。
春の午後、風はやけに温かったが、背中をじっとりと汗が伝っていた。
(——あいつは、たぶん転生者だ)
そう信じ込むことで、胸のつかえが、ほんの少しだけ軽くなった気がした。
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