一章

 夏だというのに冷房の効きが弱いビルの一室にスーツを着て私は椅子に腰をかけた。

集団面接、周りには緊張とこれからの自分の未来に希望を抱いた若い子達が座っている。

若い、でも私だって23歳で若いと言われる歳なはずなのに、歳だってそんなに変わらないはずなのに、何故だろう、何故か他の人達は輝いて眩しく見えた。


私の履歴書にはびっしりと職歴が書いてある、経験だと言えば綺麗に聞こえるけれど、どこもチェーン店でただのアルバイトで高校を中退してから勤めては辞めてを繰り返す私はただ歳だけを重ねてしまっているだけだ。


「崎原 さきはら あかねさん、どうお考えでしょうか」


「えっと、すいません、もう一度お願いします。」


小さいため息が向かいの机から聞こえてくる。

他にも思ってることが伝わってくるような気がした。

「環境汚染についてどう考えていらっしゃるかという議題です。」


「申し訳ございません、環境汚染。

そうですね、私達ひとりひとりが意識を変えていかなくてはと考えています」


「以上でしょうか?」

「はい。」


あぁ、落ちたなとすぐに分かる。

そもそもこの会社の経営方針も何も分からない、ただ月給が良さそうだったからとりあえず受けてみただけだ、早く帰りたいな。

そんな事を考えながら窓から見える空を残りの時間は眺めて聞かれた事に適当に答えた。


面接の終了の言葉を聞き外に出るのと同時に、面接を受けにきた学生達の、安堵の声と不安が混ざったような会話が聞こえてくる。


こんな会社に入りたいなんて変わってるなぁ。でもそんなこと言っても私もそのうちの1人なんだけど、なんて考えてしまう。

負けた言い訳でしかない。

本気になれない、本気になっても何者にもなれない自分への言い訳でしかない。

分かってはいる。分かってはいるけれど、もうどうしたらいいのか分からない。


今更どう足を進めたらいいのか、どう生きていけばいいのか忘れてしまった、誰も導いてはくれない。


早く帰ろう、あの子が待っている。

早く帰らなきゃ、あの子がお腹を空かせているかもしれない。私の半身だけれどあの人に似ているあの子が。

口から無意識に息が漏れる。

私の人生はいつからこうなってしまったのだろうか、とすり減った安物のヒールを、恨めしく眺め、俯いた。

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愛というカタチをさがして ましろ。 @tomoki0316

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