第一章 4は幸せの4




「新しくスマホを買って貰ったんだー。」


同じクラスの夏海(なつみ)がそう言って、新しいスマホを自慢げに見せてきた。


真っ赤な色をしたスマホは、窓から差し込む太陽の光にキラキラと光っていた。


「夏海。前のスマホ、どうしたの?」


「なんか調子悪くてさー。イタ電も多かったし。」


「イタ電って?」


「『今日のパンツの色なぁ〜に?』って。」


「何それ?キモッ。」


「ねっ!キモいっしょ!だから、番号も変えたんだよ。」


「マジか。教えてよ。」


「じゃあさ。理沙(りさ)のスマホにワン切りするよ。」


「オーケー。」


私のスマホがブルルと震え、私は、スマホを開いた。


「えっ……?4444……?」


「うん!私さ、4って数字好きなんだー。4は幸せの4だもん。」


「そっか……。」


私自身、そこまで数字に拘る方ではないけれど、何故か、この時、4444の数字が不気味に見えた。


「LINEは、変わらないんでしょ?」


私が問うと、夏海は、スマホの画面を見つめ、眉を寄せ首を傾げた。


「どうしたの?」


私は気になり、夏海のスマホを覗き込んだ。


ー私達、友達だよね?ー


「誰なの?」


「知らない。こんな気味悪いアイコンの友達なんていないもん。」


見ると、それは、真っ黒なアイコンだった。


「間違いじゃない?」


「うーん……そうだね。シカトしよう。」


夏海は、そう言うとスマホをポケットに入れた。




次の日、学校へ行くと、夏海が席に座り、ブツブツと何かを呟いていた。


「夏海ー。どうした?」


声を掛けたが夏海は、スマホを見つめたまま、ブツブツと呟いている。


「うん……うん、分かった。学校が終わったら、すぐに向かうから。」


「夏海、何言ってるの?」


夏海は、私の声が聞こえてないのか、LINEを開いて返信している。


ー私達、ずっと友達だよ。ー


ーもう離れないでね。ー


LINEの相手は、あの真っ黒なアイコンだった。


「やめなよ!夏海!」


私は、気味が悪くなり怒鳴るように、夏海に言った。

夏海は、ゆっくりと私の方に顔を向け、ニターと笑う。


「えっ?なんで?ゆりちゃんは、私の友達だよ?」


「ゆりちゃんって、誰よ?」


「ゆりちゃんは、ゆりちゃんだよー。」


気持ち悪い笑みを浮かべる夏海から離れ、私は、自分の席に向かった。




次の日、夏海は、学校へは来なかった。

次の日も、その次の日も……。


夏海は、行方不明になったのだ。

あのスマホだけを持って、夏海は、姿を消した。




あれから、10年の月日が流れた。

夏海の行方は、未だに分からない。

そして、あのスマホも……。





今、あなたが使っているスマホ……大丈夫ですか?







ー第一章 4は幸せの4【完】ー

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