第4話 いきなり監禁ですか?
ロイツ聖国とハートンは隣あっているためか、ほどなくして馬車は城に到着した。
皇子が差し出す手を取って馬車の外に出た私だったが、眼前にそびえるお城を見て呆れてしまう。
「ま、まあぁ……何と言うか、お洒落なお城ですわね。き、煌びやかで……」
「ハートンの王族たちは贅沢な暮らしをしていたようだ。無駄な物は少しずつ売り払うから、徐々にすっきりしてくるだろう」
ハートンの城は華美で、ゴテゴテした装飾が目立つ城だった。
しかも外観だけでなく内部もひどい。
水晶と宝石で彩られたシャンデリア、窓枠や階段の手すりに縁取られた金の装飾。絨毯なんて、世界三大織物のひとつテネシャ織りだ。ハートンの王族たちはどれだけ贅沢していたんだろう。
私なんか一応お姫さまなのに、ドレスを三着しか持ってないのよ!
ガイア教の象徴が贅沢してたらおかしいって大司教様が言うから!
……まあ正論だとは思うけど。
フェリオス皇子は先を進み、長い廊下の先にあるらせん階段をのぼり始めた。私も遅れないように彼のあとを追いかけるが、皇子の足はなかなか止まらない。
何階までのぼるんですか!?
――と文句を言いかけたとき、彼はようやく振り返った。
「あなたの部屋はここだ。必要なものがあったら言うように」
「え、ええ……分かりました」
頑丈そうな木の扉を騎士が開き、私が持ってきた
「かなり階段を登ったわよね。ここって何階なのかしら?」
「ひ、姫様。外を……窓の外を……」
カーテンを開けたカリエが声を震わせながら告げる。
まさか、と窓の外を見た瞬間、叫ばずにはいられなかった。
「はぁあ!? 何なのよ、この高さは!!」
窓の外にはバルコニーすらない。
おそらく高さから考えて三階か四階にある部屋だろう。
監禁する気ですか!?
「どうなさいました?」
変な雄叫びを上げたせいか、ドアから二人の騎士が入ってきた。
見張りまで立ててんの!?
監禁決定!
「いいえ、なんでもありませんわ。眺めが良かったので、驚いてしまいましたの」
ほほほ。
優雅な笑みでごまかし、騎士には退室してもらう。
「姫様ぁ……。あたし達、閉じ込められちゃったんでしょうか?」
「泣いてる場合じゃないわよ! この城での扱いが分かったわ。大人しくしてたら、人質のまま人生が終わっちゃう!」
戦争を避けるためにフェリオスと婚約したが、半年後に何も起こらないとは限らないのだ。
今のうちに出来ることはやっておかないと!
櫃のふたを開け、ごそごそと荷物を取り出す。
「カリエ、髪をまとめるのを手伝ってちょうだい」
「また脱走するんですか……?」
「そうよ。騎士がドアの外にいるんだから、窓から出るしかないでしょ?」
ドレスを脱ぎ、ロイツから持ってきたメイド服に着がえる。
「念のため腰に命綱をつけて降りるわ。地面に到着したら合図を出すわね。部屋に誰か来たら、私は疲れて寝てるってことにしといて」
「は、はぁい」
腰の命綱を部屋の柱に結び、窓を開けて壁の状態を確かめる。
「規則的にでこぼこがあるから簡単に降りられそう。行ってくるわ!」
「お気をつけて……!」
窓から身を乗り出し、壁をそろそろと降りていく。
薬師の頃、私は自分で薬草を集めていた。珍しい薬草やキノコは崖の途中に生えることもあったので、崖や壁を登り降りするのは得意である。
子供の頃から時おり大聖堂を抜け出していたけど、まさか嫁入り先でも脱出することになるとはね。
お姫様が窓から脱出するとは誰も考えなかったようで、外には見張りが一人もいない。
地面に着いたら腰の命綱を外し、窓から私を見ているカリエに合図を出す。カリエは綱を回収して静かに窓を閉めた。
夕刻まで数時間ある。
今のうちに情報を集めよう。
「あ、でもその前に……」
私は城の裏手に回り、使用人たちが使っている棟へ向かった。いま着ている服はロイツから持ってきたものだから、この城で働くメイドたちとは少し違う。同じものを入手しないと。
「すみませ~ん。新しく入ってきたんですけど、メイド服はここで貰ったらいいんでしょうか?」
洗濯場の隣にある衣装部屋は、上も下も使用人の服で溢れていた。
「ったく、この忙しいのに! アンタ、部署はどこだい?」
「洗濯場ですぅ」
洗濯場は仕事がきついため人の入れ替わりが激しい。だから不審がられることもないだろうと思ったけど、おばさんは予想通りなんの疑いもなくメイド服を手渡してくれた。
「ありがとうございます!」
部屋の隅で服に囲まれながら手早く着がえた。
今度からはこっちのメイド服を使って変装しよう。
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