明日から社会人

クライングフリーマン

明日から会社人かあ。

「明日から社会人かあ。」

 普通のバヤイ、「明日から会社人かあ。」と同義語。

 だが、私のバヤイ、ちょっと違った。

 学生時代、よく観に行った劇団に入団したからだった。

「明日から劇団員かあ。」が、正しい、溜息。

 興奮してよく眠れなかった。

 劇団の、元「衣装部屋」に間借りした私は、今まで畳の上で寝ていたから、仕方無く、簡易ベッドを買った。

 衣装部屋は板の間だったのだ。

 小さい冷蔵庫は入らないから、学生アパートに処理を任せた。

 1年間「留年」のテイで、学生アパートの大家にお願いに行ったら、歯科医の夫婦は、かなり嫌味な対応をした。

 後で、患者にも「痛い思い」させているのだろうな、と思った。

 切羽詰まった私は座長に相談。座長を大家として「家賃」を払うことになった。

 劇団からは給料が出る。同じ相手に給料を貰い、家賃を払う。滑稽な関係は1年間で終った。

 私が観に通った頃の劇団は大所帯だったが、解散寸前の入団だった。

「オルグ」という、営業活動をしていたのは先輩達だった。

 学校を回って公演をして、「小銭」を稼ぎ、それが給料になるのだ。

「本公演」と呼ばれる劇場での公演の費用にもなる。

 いつもギリギリの、「自転車操業」だった。

 役者としては、高校大学での演劇部の経験しかない私だったが、学校公演では準主役や主役だった。

 今から思っても、よく体力が持ったものだ。

 学校公演から戻って、大道具を倉庫に仕舞い込んだ後に、米を研いで炊飯器でご飯を炊き、ラーメンを炊く。

 そんなこんなで過ごす内、本格的に芝居を勉強したくなった。

 外部講師は、能の先生がたまに来るだけでは、台本持って稽古することがない日々は、鍛錬は自主トレしか無かったからだ。

 反対を押し切って、辞めた。座長と3人の先輩以外いない劇団を。

 大事にしてくれたから、未練はあった。

 見送りは無かった。

 そして、上京。

 1年後に「生まれて初めての挫折」が待っていようとは、思いもしなかった。

 私の人生はドラマ、そのものだった。

 短い「幕前」エピローグは終った。

 最初の劇団生活は終ったのだ。

 ―完―


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明日から社会人 クライングフリーマン @dansan01

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