第11話 ブランデーおじさんと俺(2)

翌日の朝。俺はギルドを訪れていた。

「やあ、良く来てくれたね。」

昨日も同じような台詞を聞いた気がする。既視感というやつだ。

「お前が呼んだから来たんだよ。」

「わーい、うれしい、ありがとう。」

「感謝の「か」の字すら感じねぇぞ。」

なんだコイツ、巫山戯てるのか。じゃれ合いのつもりなのだろうが、朝なので俺は少し機嫌が悪い。低気圧なのだ。許せ。

「んで、来てもらって悪いんだけど。」

「おう。」

「この仕事受けてくれない?」

「は????」

受付カウンターの上には、1枚の紙が置かれた。ブランデーおじさんだけじゃないのかよ。これは切れていいかもしれない。慈善活動じゃねぇんだぞ。

「そんな怒るなって!」

「なんで仕事受けた後に、また別の仕事受けなきゃならんのだ。どつくぞ、てめぇ。」

「なんか今日口悪いな、ラルク。」

「は?」

「おー、こわこわ。」

ブルブルと震える振りをして、俺を煽る様な表情をしてみせる。馬鹿にしてんのか、と起こりそうになったものの、煽りに乗るのは好かないのでスルー。

「んで、話聞いて欲しいんだけどさ。」

「まあ、聞いてやるよ。」

「この仕事はブランデーおじさんのお店のお手伝いなんだ。」

「手伝い?」

「そそ。」

ピンと人差し指を立てて、得意そうにするダンケ。

「ジッと影から見てるだけじゃ、ブランデーおじさんに怪しまれてしまうでしょ?」

「まあ、確かに。」

「だからいっそ、働いちゃうのはどうかなって思ったんだ。そうしたら、怪しまれずに近くで観察できる。」

「名案だな。」

俺は肯定する。確かに怪しまれるのは良くない。

「受けてくれるかい?」

「よし、受けようじゃないか。」

「さっすが、ラルク!話のわかる男!!」

「よせやい、おだてても金は取るぞ。」

「...ッチ。」

「舌打ちすんなよ。」

まあ、そんなこんなで俺は依頼を引き受け、ブランデーおじさんとやらの店に向かう事にした。ダンケが舌打ちしたのはマジで許さん。失礼料金として大金むしり取るぞ。



キエルの3番街。商店が立ち並ぶ道が先まで伸びている。奥様方が談話をし、男の子達がリンゴを買い食いしているのを横目に、俺は大通りから1本奥へと進む。人気も少し減り、ちょっとした路地裏の様な道に、ブランデーおじさんの店はあった。店の前には小さな立て看板と、樽が数個。向かいにはアパートがある。多分、このアパートがダンケの住んでいるところだ。

ブランデーおじさんの本名はハサークというらしい。店の看板にはハサークの酒屋と書かれている。

「酒屋なら、ブランデー毎日飲んでてもおかしくねぇよなぁ。」

俺はポツリと呟く。店の前を通り過ぎ、1回中を覗いてみる。暗くてよく見えない。明かりくらいつけろよ。ネズミでも出んのか?それを隠したいのか!?

まあ、入口で何往復もしている暇は無い。俺は勇気を振り絞って、酒屋の戸を開けた。

「...す、すみませーん。」

我ながら情けない声が店内に響く。しかし、シンとしていて、音沙汰がない。こんなんじゃいけない。もっとでかい声を出さねば。

「す、すみませーん!!!」

勢い余って、自分の喉から出たのか疑うほどの大きな声が店内に流される。恥ずかしい。

「おー、何用だ?」

店の奥から、ガタイの良いおじいさんが出てくる。顎髭は長く、白髪が多い。年は60くらいだろうか。

「あの、ギルドで依頼を受けたんですけど...。」

「あー、あれか。よく来たな。」

ハサークはそう言うと、俺のそばまで寄ってきた。

「お前さん細っこいな。」

「は?」

多少強い言葉遣いになったのは許して欲しい。誰だって、急に細いとか言われたら腹立つだろ。

「腕とか骨みてぇじゃねぇか。」

「はあ。」

俺の体を観察すると、ハサークは会計場まで歩いていく。それから腕を組んで、悩んでいる様子だ。貧乏揺すりまでしている。

「...ギルドの奴ら、こんな使えそうにない奴を寄越しやがって。」

ー聞こえてますけど??

俺は腹が立った。何も本人の前で言う必要ねぇだろ!!泣くぞ!!これでもそれなりに筋肉あるんだよ!!

「まあいい。」

まあいいってなんだよ。俺はハサークの一言一言にイラつく。なんだか癇に障る事ばかり言いやがって。雇い主だからって調子乗んなよ。

心の中で罵倒するが、表情はスっと冷めた顔をしているだけだろう。そう思っておく。

「お前、店の裏にある酒を全部こっちに持ってこい。」

「わかりました。」

俺は指示された通りに動くことにした。さっさと終わらせて、帰ろう。

はあっとため息は中に捨てられた。



「おい、もう終わったか?」

俺が酒を運び初めて1時間くらい経った頃。ハサークが様子を見に来た。この爺さん店番ばっかりで、酒すら店頭に並べない。

「まだです..。」

そもそも1時間で終わる量じゃない。ザンと積み上がっていた酒は、まだまだ残っている。後1時間は必要なのではないだろうか。

「お前、仕事が遅いぞ!!さっさとやれ!!」

「はい。急ぎます。」

俺は返事をして歩き出す。えっちらおっちら酒瓶を運ぶ様子は、さぞかし滑稽だろう。


垂れる汗を拭う。まだまだ暑い夏。俺は水を飲もうと酒瓶を床に置いた。

「おい!!何勝手に休んでいるんだ!!」

ハサークが怒鳴ってくる。クソッたれ!!なんでこんなに偉そうなんだ!!水くらい飲ませろよ!!

俺は心で罵倒し、酒瓶を持ち直す。まだまだ仕事は始まったばかりで、憂鬱な気分が続く。


軽い気持ちでダンケの提案に乗ったが、乗るべきでは無かったと後悔している。絶対分かってただろ、アイツ。なにせお向いさんだもんな。友人に、クソみたいな仕事やらせやがって。クソめ。


ーあんにゃろおおおおおおおお!!!!!!


俺は恨むぞ。ダンケも、ハサークも。

俺の周りはロクな奴がいないな。ほらリックスもそうじゃないか。

夏の暑さでイカれた頭と怒りで上手く回らない頭は、リックスを巻き込んで荒れていた。



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