【渡り人】が世界をぶっ壊すまで!!

too*ri

第1話 ちょっとこんなの聞いてない!

 ある夏のバカ天気のいい日の事だ。青空が満遍に広がり、雲一つ無いそんな日だ。

「調子に乗るなよクソガキ。」

 と、あなたは言われた事があるだろうか。

 うんうん、無いよね。そんな物騒な生活はしていないだろう。ちなみに俺はある。なんなら今言われた。ちょっとショック。

 この時、俺はどう返すべきなのだろうか。

「やあ、お兄さん!こんなにいい天気なのに、俺の気分を害す事を言わないでくれる???」

 とか、

「クソガキ?あれあれ?そんなの何処にもいませんよ???あっ!あなたのことか‼︎」

 とか返すべきなのだろうか。しかしそんな事を口走ってしまえばきっと、ボッコボコのコテンパンにやられてしまうに違いない。

 よって、正解はこうである。

「助けて下さい‼︎この人が僕に暴力を振るおうとしてきました‼︎」

 大通りではないにしろ、人通りはそれなりにある。大柄の男に絡まれる俺が叫べば、先ほどから周りでチラチラ見てくる通行人も手を差し伸べてくれるに違いない。

 ーーザワザワ

 俺が叫んだせいか、周りに人がどんどん集まってくる。当たり前だ。大柄の男に痛いけな少年が絡まれているのだ。俺だって野次馬したいレベルだ。

「おい!そこ、何してるんだ!」

 背後から男の声がする。俺は街を巡回していたのであろう兵士が俺を助けに来たのだと思い、振り返った。

 ーそこには滅茶苦茶柄の悪い髭面のおっさんがいた。

 いやいやいや、そこは転生ボーナスで滅茶苦茶イケメンな兵士が俺を助けに来てくれるのが定例だろう。しかし何度見ても髭面のおっさんである。なんなら凄く筋肉質だ。クソッタレ。

「まだまだ身体の小さな少年に手を出そうとしたんだってな?」

「は?なんだテメェ。」

「俺は通りすがりの者だ。そこの少年の叫び声が聞こえてな、来てみれば何やら柄の悪い大人に絡まれて困ってそうじゃねぇか。それに、少年に暴力を振るうのは見過ごせねぇ。少年殴るなら、俺を倒してからにしな。」

 あらやだ、カッコいいじゃない。俺が女だったら一瞬で惚れてるかも。髭面のおっさんだけど。

 髭面のおっさんは大柄の男を手招きし、挑発する。大柄な男の額に青筋が浮かんだのを見て、俺は情けないながら少し声が引き攣りかけた。


 結果は散々だった。

 大柄な男にボコボコにされた髭面のおっさんは、道端で伸びていた。

 戦いは一瞬だった。大柄な男が髭面のおっさんの顎にアッパーを決めて、一発KOだ。一瞬、技をキメた大柄の男の事をカッコいいと思った俺は最低だろうか。仕方ない。男の子だもん。


「…なんで俺なんか庇ったんだよ、おっさん」

 俺はそう言い、髭面のおっさんを揺する。死んだフラグに近しい何かを感じる。

「あ、やめて、痛いのそこ…。」

 髭面のおっさんのか細い声が聞こえる。それからパチリと目を開けて、俺の事をじっと見てきた。

 長い間見つめていたように感じる。なんか恋に落ちる系の作品でよくある、あの間である。俺おっさんに惚れちゃうのかな、なんてね。

「あ、起きた。」

「君、大丈夫か!?」

 バッと起き上がって俺の肩掴み、前後にゆすられる。ぐわんぐわんと揺れる視界に、耳元で叫ぶ髭面のおっさん。

「うるせぇよ!!!!」

 俺はおっさんをぐいっと胸を押して引き離した。視界がチカチカする中、おっさんが困ったように眉を下げながらも、どこか安堵した表情をしているのが見える。

「ごめんごめん。君が無事だったか、確認したかったんだ。」

「おっさんの方が無事じゃねぇじゃん。」

「まあね…。」

 あはは、と苦笑いをしつつ目を逸らすおっさん。多分助けに入ってボコボコにされた事を恥かしく思っているのだろう。

「まあ、でも君が無事で良かった。」

 にかりと笑うおっさん。なんだか気恥ずかしくなって目を逸らす。

「助けてくれてありがとうございました。」

 俺は深々と頭を下げた。なんて言ったって、命の恩人なのだから。この石畳の

 に額を押し付けて皮膚を抉ったとしても感謝しきれない。

「顔を上げろよ、少年。」

「はい。」

「自己紹介といこうじゃねぇか。俺はガゼ。少年の名前は?」

 おっさんは笑って、俺に視線を合わせる。ツレェだろ、中腰で膝プルプルしてるぞ。

「俺はラルクだ。」

「そうか、ラルクだな。俺はそろそろ行くけど、少年は?」

「俺も。」

「そうか。んじゃ、このおっかなビックリな出会いにさよならを。」

 なんか凄くキザなセリフを言った後、ガゼは歩いて行く。俺はガゼに背を向けて反対方向へと歩いた。


「あ、ラルク…。」

 ガゼは少し歩いてから、振り向いてみる。ちょっぴり年齢を聞きたかったのだ。もしかしたら夜の警備にこのままだと引っ掛かるかもしれない。そう思った。茜色の空がやけに綺麗だ。

 ラルクはガゼに背を向けて歩いていた。そして見つめていた瞬間ボヤけていき、消えた。

 ー…消えた?

「消えたああああああ!?」

 あまりに叫びすぎて、「ウルセェ!」と怒鳴られる。確かにラルクは消えていた。目の前でボヤになって消えていった。確かに消えていった。

「はは、はははは…。」

 渇いた笑いが漏れる。いやいやいや、消えたって。そりゃ、ないだろ。

「幽霊かよ…」

 くそ暑い夏の日なのだ。亡霊くらいいたっておかしくない。ガゼはそう結論づけて歩き出す。しかし、痛む顎が現実なのだと主張していた。


 ⚪︎


立ちくらみと眩暈と共に、俺は突然周りが静かになった事に気がついた。

「あぁ、転生したのか。」

そう、俺は転生していた。

何バカな事を言ってるのだろうか、とツッコミが入りそうだが、事実転生したのだからしょうがない。嘘じゃねぇもん。

「いやぁ、助けてくれる優しい人がいて良かった。」

ガゼが助けてくれた事を思い出し、しみじみとする。

「もうすぐ2年経つし転生するんだろうなって思って、最後の思い出作りにメチャクチャに腹立つ奴に反感してみたが、思った以上にキレられてやられてかけていたとか、恥ずかし過ぎて一生あのおっさんには言えねぇな。」

そう。俺はわざと喧嘩を売ったのだ。しかもなかなかクソみたいな理由で。

ー2度と会わないし、いっか。

なかなかのクズ思考だが、今は俺一人だけ。ツッコむのも自分自身。ボケるのも自分自身。

ーーこれが俺のおひとり様エンジョイ異世界生活なのだ。


⚪︎


 俺ーラルクの人生は平凡だと言って差し支えない。小さな国の小さな村で、両親と兄とのんびりと貧乏ながらも楽しく暮らしていた。強いて言うならば、スキルがちょっと変だったというだけだ。

 ースキル【渡り人】

 顕現したのは8歳の頃だった。周りよりも一足先に発現したそれは、瞬く間に村中に広まった。

「へディリスさんところのラルクがスキルを顕現させたらしいぞ!」

「他の子よりも随分早く顕現したのね!どれだけ凄いのかしら?」

 それは、村の人々を期待させた。

 しかし、時が経つに連れて別の噂が出てくる事になる。

「へディリスさんところの子のスキルは全くの無能だ。」

 俺はスキルを顕現させたものの、全くその能力がわからないのだ。

 ー使えない。

 村人たちはそう結論づけた。勝手に期待され、勝手に失望された。俺は8歳ながらに、世の中がクソだと悟った。


 10歳の夏。俺はいつも通り畑仕事をした後、村の子供達とかくれんぼをしていた。この日は特に暑くて、汗が滝のように流れ出ていた。

「ちっとも見つけてくれねぇじゃねぇか。」

 草むらでうずくまり、今か今かと見つかるのを俺は待っていた。

 もうずっとしゃがみ込んでいる。足が痺れていて、もうそろそろ持たないかもしれない。実際喉が渇いていたし、少し頭痛さえ感じていた。

 俺は一生来ない鬼を待っていた。村の子供達は俺を見つける気なんかちっともなかったのだ。

 ー無能で役立たず。

 村の大人たちは俺の事をそう呼んでいた。だから子供達は俺に意地悪してやろうと思って、俺を探さなかった。世の中の不条理が全て圧縮された場所だった。

 俺は限界だった。

 そして立ちくらみと眩暈がした。もうダメかもしれないと思って、それでーーーー



 爽やかな風が頬を撫でて、鳥の鳴き声が聞こえてくる。木々のざわめきが耳をくすぐった。

 俺は重い瞼を持ち上げた。一体どれくらい寝ていたのだろうか。重い身体を起こして、周りを見渡す。俺が寝そべっていた場所は、木漏れ日が注がれている。周りの草木は背が低く、柔らかかった。小さな湖の水面には、風で波が立っている。

 湖には波が…。湖には波が…?湖には波がッ!?

「はぁッ!?…ぅおえ、ゲッホゲッホッ!!!」

 喉の渇きのせいで掠れた声しか出なかった。しかも、寝起きで叫んだせいで咳き込んだ。最悪すぎる。

「どこだよ、ここ。」

 周りの景色に全く見覚えはない。

 喉の渇きと頭の痛み。それにひとりぼっちという絶望感。全く知らない場所。

 10歳の少年には些か厳しい条件だ。強いて言うなれば、湖があって良かったとしか。

 兎に角、喉の渇きと頭の痛みが酷すぎる。俺はダルさを覚える体に鞭を打ち、湖の水を飲むために歩き出した。あまりにもフラフラとしていて、おぼつかない足取りだが。

 湖に着いて、俺はメチャクチャに水を飲みまくった。それはもう一心不乱に。獣が貪るように。腹痛になるかもしれないが、背に腹はかえられぬ。火を沸かそうとか思わなかった。魔法で浄化することも考え付かなかった。それだけ追い詰められていた。

 俺は満足するまで飲み終わった後、もう一度周りを見渡す。全く見覚えの無い景色だった。

 いや、立ちくらみと眩暈で意識を失って、気がついたら知らない湖の近くでした!とか誰が信じるんだよ。でも、現に俺は見知らぬ場所でひとりぼっちだ。

 飯もなければ、家もない。安心安全な村との突然の別れ。ガチでぼっちで無能な俺が、さらに家族も失って本物のぼっちのなりましたとか笑えない。いやマジで。

 マシなのは、ぼっちで無能だったからか生活系の知識はある事。何とか生きれる希望がある事。

 やらなきゃならないことは山ほどある。一人で全部何とかしなければいけない。


「うわぁ、ストレスでゲロ吐きそう。」


 ーこれがラルクこと俺10歳、1回目の異世界転生である。


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初めましての方は初めまして!

too*riと申します。MFブックス様の長編部門に応募する為に書き始めました。

異世界転生(笑)みたいな作品で、おひとり様エンジョイ世渡りさせたら面白そうだなと思い書き始めた次第です。間に合わせる為に全力で突っ走ります。応援宜しくお願いしますm(_ _)m


良ければフォローやいいね、レビューを頂けると嬉しいです。作者が泣いて喜びます。

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