第4話
「ルイーズ嬢というのは、社交界デビューしていないにもかかわらず、ずいぶん有名らしい。学校を卒業するときの成績が優秀で、いまは助手の扱いで残っていて、遠からず授業を持つことになるとか。学校外では、社交をしていないから時間があると言っては、養護院へ通って子どもに文字を教えたり、楽器を持っていっては演奏を聞かせたりしているとかで、才色兼備のご令嬢として評判だそうだ」
帰国の途上で、故国の事情にも通じたクリストファーから聞くルイーズの話は、イアンにとっては初耳のことばかりであった。だが、驚くというよりも「そうだろうな」という納得が勝つ。
「子どもの頃から、あまり変わってないですね。よく読書の話をしていたんですが、彼女の感想を聞くと、すぐにその本を読みたくなってしまって、毎回本の貸し借りをしていました。楽器に関しても熱心だったから、いまはすごく上手くなってそうです。社交界に出てもいないのに有名って、さすが。それじゃあ、なおさら彼女がどんな相手と結婚するかは注目されているでしょうね」
げふ、とクリストファーが変な咳をして、むせた。
馬車で並んで座っていたイアンは、背中を撫でながら「殿下?」と生真面目な口調で尋ねる。
「どうしてなんだ……。お前は五年の留学期間に各国の要人とそつなく交流の基盤を築き、論文をいくつも書いていたほどの優秀さで、将来を約束された逸材のはずなのに。どうして婚約者のことになると、得体のしれないポンコツになるんだ」
「なんの話です?」
「こっちの話だよ! 説明する気もない!」
イアンは黙った。
そのとき、生木の裂けるような軋み音とともに、馬車が大きく揺らいだ。
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