転生後初の人間の皆さん登場!
左足が空を切る。
はぁ?
と思った瞬間、凄い勢いで天地が切り替わる。
気づくと、真っ青な空が眼前に広がっていた。
辺りを見渡すと、どうやら森を抜けてしまったらしい、木々の代わりに草原が広がっていた。
後ろを見ると、森があり、そこからちょっとした坂になっており、どうやらわたしはそこから転がり落ちたようだった。
はぁ~もういやだ……。
わたしは泣きたくなった。
何でこんなことになったのだろうか?
何か悪いことでもしたのだろうか?
わたしは確かに女子中学生だったはず。
どんな女の子だったかまではいまいち思い出せないけど、ただただ、貧乏なだけの女の子だったはず。
しかも、小心者だったはずだから、大それた事もしてないはずなんだけどなぁ~
そんな事を考えながら、ふと視線を上げるとそこに人間らしき一団が目に入った。
距離にして百メートルぐらいか。
どうやら突然現れたわたしに警戒しているようで、鎧を着た男の人達が二十人ほど、こちらを凝視している。
鎧……。
その腰には剣だ。
洋風ファンタジーというか、そういうのに出てくる騎士っぽいスタイルだ。
ふむ、うすうす気づいていたことだけど、ここは〝Web小説〟とかに良くあるテンプレ的ファンタジー世界のようだ。
ステータスは無いけど、そのようだった。
まあいいけど。
その騎士っぽい男の人達の後ろには、同じような騎士風の人が1人――さらにその奥にはメイドさんぽい人や執事さんっぽいお爺さんが住人ほどの騎士さんに守られているのが見える。
なんか、こんな森にそぐわないなぁ~と思ったが、芝生の上に敷物が敷かれているのが目にはいって気づいた。
なるほど、どうやらピクニックをしていたようだ。
貴族の優雅なお遊びって奴かな?
まあ、何でもいいけど。
その時、執事さんの脇からひょいと小さな子がこちらを覗いた。
7歳ぐらいの女の子だった。
フリルの付いたピンク色のドレスに白い肌、長くウェーブのかかった濃い金色の髪がふわりとしていて、精巧な洋風人形のようだった。
さぞや整った顔なんだろうなとじっと見つめたら、ズームレンズのようにその顔が大きくなった。
うぉ!?
ドラゴン・アイズ、高性能!
そして、思った通り、女の子、凄く美少女さんだ。
ふわりと軽く癖のある金色の髪が肩に流れていた。
ちょっとキツめではあるけれどパッチリとした目に透明感のある青い瞳、彫りが深くて整った造形は将来美人さんになること請け合いだった。
でも今は、年相応な愛らしさもあり、少し不安そうな顔でこちらを見ている。
む、わたしのせいか。
すまぬ。
皆さん一様に、わたしを怪しんでいるようで、じっとこちらの様子をうかがっている。
そりゃあそうか……。
中身は人間(元人間?)だけど、見た目は小さくてもドラゴンである。
そりゃ警戒するよね。
せっかく人間に会えたのに、ちょっと悲しかった。
そういえば、某ドラゴン転生作品だと、人間に会えて大喜びで近づいたら、討伐されそうになっていたなぁ。
ドラゴンは美味しくて、いろんなものの素材にもなるから狙われるとか何とか。
……こちらとしても、近づくのはやめとこう……。
などと考えつつ視線を余所に向けようとして――気づいた。
あ、あれは!?
わたしはその衝撃で「がっ!?」と声が出てしまった。
その、お嬢様らしき女の子、なんと手にサンドイッチを持っていたのだ!
サ、サンドイッチ……。
とたん、空腹を思い出して視界がぐらりとゆがんだ気がした。
なまじ高性能ドラゴンアイズを持っているせいで、白くて柔らかそうなパンにフワリとした卵を挟んだそれが目と鼻の先にあるかのように見えた。
なんかそうしていると、匂いまでして来そう――違う!
これ、匂ってる!
うわ、ドラゴンアイズだけでなく、ドラゴンノーズも優秀なんだ!
パンの微かに芳ばしい香りがわたしの鼻から脳に直撃してくる。
うぁぁぁ!
食べたいぃぃぃ!
食べたいよぉぉぉ!
わたしは我を忘れて、その場で転がると手足をばたばたさせた。
酷いよぉぉぉ!
こんなに美味しそうなのに、食べられないなんて、酷いよぉぉぉ!
ちょっとだけ!
ちょっとだけ食べさせてよぉぉぉ!
でもちょっと近づいただけで、あの騎士(?)さんが斬りかかってくるんだ!
知ってるもん!
そういうオチだって知ってるもん!
伊達に、Web小説投稿サイト(無料)を読みあさってる訳じゃないもん!
くっそぉぉぉ!
なんで、ドラゴンに転生なの!?
どうせなら、悪役令嬢ものの方が良かったぁぁぁ!
だったら、少なくとも、こんなにひもじい思いはせずに済んだのにぃぃぃ!
そこまで考えた所で、はたと思いつく。
令嬢――そうあそこにいる女の子は、おそらく良家のご令嬢だ。
あんなご令嬢を前にして、いくら旨かろうが、素材として良かろうが、わたしのような子ドラゴンを殺そうとするだろうか?
この世界がどんなんなのか、未だによく分かってないけれど、貴族令嬢の――まして幼いお嬢様の前で、惨殺ショーなんて精神衛生上するわけがない。
……それにそもそも、そういう理由であればとっくの昔に攻撃してきているはずだ。
にも関わらず、あの鎧の人たちは一歩も動かない。
もちろん、護衛第一ということもあるだろうけど、極力戦いたくないと思っているのではないだろうか?
だとしたら、これはチャンスなのではないか?
わたしは子供のドラゴンである。
そして、鏡でしっかり見たわけではないが、おそらく可愛らしい容姿をしている。
特に、このモフモフした白い毛は、ああいう女の子を病み付きにするのでは無かろうか!
そうなると、あの可愛らしい子ドラゴン(わたし)にどれ、ご飯を与えてみようか? ってなるんじゃなかろうか!
わたしは姿勢を低くしつつ、少しずつ近づく。
そして、ごろりと転がると、腹を見せつつ可愛らしいポーズを取ってみた。
イメージとしては悪戯好きの子猫ちゃんだ。
ニャーゴニャーゴニャアニャアニャーゴ!
ドヤ!
可愛いでしょ!
可愛いよね!
だから、そのサンドイッチ下さぁぁぁい!
……どれぐらいそうしていただろうか。
一向に差し出してくれる気配がない。
どころか、近づいても来てくれない。
そりゃそうかぁ~ちっちゃくても、ドラゴンだもんなぁ~へへへぇ~
わたしはぐったりしてしまった。
これはあれだよね。
過酷系異世界転生だわ。
最初、自分は特別だとかなんとかで有頂天にさせておきながら、いきなり捕まり拷問されたり、手込めにされたり酷い目にあって、挙げ句の果てにコロリと死ぬとかそんな奴だわ。
で、そんな転生者を送り出した神様はボソリというんだ。
『今回も失敗じゃったか』って。
あ~お腹減ったなぁ。
すぐそばにサンドイッチがあるのに、食べることが出来ないなんて。
こんな事なら、見つけるんじゃなかった……。
見つけなければ、こんなに苦しくも惨めな目に遭わなかっただろうに。
目頭が熱くなり、頬に何かが流れた。
ふふふ、ドラゴンも涙するのね。
あぁ~あぁ~わたし可愛そう……。
前世に帰りたいぃぃぃ!
いまいち思い出せないけどぉ。
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