お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!
人紀
第一章
プロローグ
「おい、カトリーヌ!
貴様との婚約は無かった事にする!」
王国学院の豪奢なダンスホールの中央で、突然、耳障りな上に頭の悪そうな声が無駄に響き渡った。
その場に集まった学院の生徒や教員、そして、国の重鎮らしき来賓達が息をのみ、後ずさる。
そして、その場には二組が対峙して残った。
相手側の一人は、
対するこちら側は、存在が奇跡と言っても過言ではないお美しいお嬢様と、その
馬鹿の蛮行に、愛らしくも美少女なお嬢様が、その細く美しく整った眉をひそめられるのを見て、愚かな上に無礼にも、
「何を不満そうにしている、貴様、見苦しいぞ!」
(はぁあん!?
見苦しいのはお前だ!)
「貴様がマリーを虐めている証拠はとっくの昔にそろっているんだ!」
(馬鹿か!?
お嬢様がそんな事をして、何の意味がある!?)
「貴様のような奴と婚約していたことは、このわたし、唯一の汚名だ!」
(あぁ~ん!?
それはお嬢様の台詞だ!)
「二度と、わたしの前に顔を出すな!」
そんな暴言、妄言を垂れ流す馬鹿王子に対して、愛らしさの権化たるご令嬢――カトリーヌ・ラドゥ・クリスタリ侯爵令嬢たるお嬢様は、毅然とした態度で立っていらっしゃる。
薄金色の緩くウェーブした髪が晴天の空のような青いドレスに流れている。
研磨されたばかりのブルーサファイアよりも青く煌めく瞳で、愚者の代表格たる第一王子を見つめていらっしゃった。
ああ、ああ、いけない。
お嬢様の瞳に入れて良いのは美しいものだけであるべきなのです。
もう!
一体、この学院の使用人は何をやっているんだろう。
さっさと、この汚物などゴミ袋に入れて、焼却炉にでも放り込むべきだろうに。
可憐なるお嬢様が凜とした表情で、「そのような事実はございません」とか「婚約は王家と侯爵家で――」等の事を
無論、大馬鹿な王子程度の頭では、子供でも分かりそうなほどかみ砕いて語られるそれらを、理解する事が出来ない。
ただただ、壊れた玩具がギィーギィー! と雑音を鳴らすかのように、意味のない言葉を吐き出すだけだ。
……仕方がないなぁ。
お嬢様のそのほっそりとした腕に抱えられていた小柄なわたしは、そのお手から離れ、静かに赤い絨毯の上に下りた。
お嬢様はそれを気にされたけど、一応王家の人間たる雑魚王子が喋っているのを止めることも出来ず、直ぐに意識をこちらから外された。
そんな無礼な奴に対して、礼など不要なのになぁ~
そんなことを考えつつ、ちょこちょこと、進む。
そして、アホ王子の前に立った。
陶酔してるのか、意気揚々と胸くそな言葉を吐き出し続ける。
「おい!
もうお前の御託などうんざりだ!
貴様のような
ムカムカムカ……。
ブチ!
「どこへでも、さっさと消え失せろ!
その陰気くさい顔――へ!?」
クソ王子がポカンと〝わたし〟を見て――見上げて――後ずさる。
その体がどんどん、どんどん、小さくなっていく。
周りにいる王国学院の生徒も小さくなり、〝わたし〟を呆然とみている。
中には腰を抜かしている子もいる。
あ、マリーとかいうクズ王子にべったりくっついて、気色の悪い声を上げていた女が「きゃぁぁぁ!」とか叫びながらいの一番に逃げていく。
「ちょ、ちょっと、キュー!?
何をやってるの!
止めなさい!」
それに気づいたザコ王子の取り巻きも、その後を転がるように続いていく。
……まあ、いい。
今は、いい。
〝後で〟ボコる。
だからいい。
ゴミ王子が目を見開き口をパクパクさせている。
あらあら、王国の第一王子か何かしらないけど、情けない。
ガクガク震えている姿には、地位にふさわしい威厳などとてもじゃないけど見当たらない。
ただの、クソガキでしかない。
あら、遅ればせながら、護衛がやってきたわね。
あらあら、王子ったら、彼らを盾にして逃げようってのね。
ふふふ、家畜みたいに四つん這いになって、そんなので、〝このわたし〟から逃げられるとでも思ってるのかしらねぇ~
「ねえ、キュー!
ちょっと、落ち着いて!
ねえ!」
絶対に許さない!
わたしの可愛い可愛いお嬢様を貴様呼ばわりしたあげく、無いこと無いことまくし立てたあげく、毒婦――だと?
ボコる!
ボコって、学院の天辺に吊してやる!
「がぅぅぅ!」
わたしが吠えると大ホールがガタガタと震え、アホ王子を庇っていた護衛が腰を抜かし、這っていたアホが「ひゃ!?」と言いながら床に伏せた。
ふふふ!
真のザマぁぁぁ! はここからだぞぉぉぉ!
「ぐがぁぁぁぁぁぁ!」
首を振り、翼をはためかせ、吠える。
気分は前世の大怪獣だ!
おらおら!
そのうち、口から光線が飛び出るぞぉぉぉ!
「キュゥゥゥ!
やめなさぁぁぁい!
キュゥゥゥ!」
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