夢の断片

ニア

第1話 「たぶんね」



 店内の香りは、どこか懐かしい。


 私とみっちゃんは「Tower」という名の店で並んで歩いていた。


「このお香、安いのに皿の方は一万とかするんだけど!たっけ〜!」


 みっちゃんがゲラゲラ笑う。昔から、何でも楽しそうに笑う子だった。


 私はなんとなく問いかけた。


「みっちゃん、本物?」


 みっちゃんは瞬きひとつせず、あっけらかんと笑った。


「たぶんねww」


 ——その瞬間、どうしようもなく泣きたくなった。


 夢の中なのに、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。なぜだろう。みっちゃんは、ただいつも通りそこにいて、いつも通り笑っているだけなのに。


 何かを言おうとした。でも、言葉になる前に——目が覚めた。


 静寂の中、涙が頬を伝う。


「たぶんね」


 その言葉の響きだけが、まだ夢の向こう側から微かに残っていた。



 ——私は、夢の記録を残したい、と強く思ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る