下請
長万部 三郎太
究極の中抜き
これまで日本のお家芸といえば、柔道や野球といったスポーツであったが、ここ最近は専ら「中抜き」が挙げられるだろう。仲介や代理店、下請けやさらには孫請けといった、中間搾取の話題が日々のニュースに事欠かない。
そんな社会を憂いたある青年が究極の中抜き事業を立ち上げ、腐敗しきった日本国民に警鐘を鳴らした。
彼の興した会社は『サバイバルエージェント』という。
主な事業内容は「生存代理」である。
自分の代わりに呼吸をし、自分の代わりに飯を食う。
自分の代わりに勉学に励み、自分の代わりに金を稼ぐ。
自分の代わりに生を全うし、自分の代わりに老いて死ぬ……。
もちろんこれらは現代社会を皮肉ったものであり、実際には商売どころか早々に会社を畳むつもりだった。
しかし、彼の思惑とは裏腹に国内外からの思わぬ反響に驚く。
育児に疲れた夫婦。
人生の光を失ったシニア層。
パワハラに悩む中間管理職連中。
過酷な受験戦争に心が折れた少年少女。
早くも将来を悲観する入社したての新卒などなど。
実に様々な客層から問い合わせがあったものの、実際にどのようなサービスを提供するかまで考えていなかった彼は途方に暮れた。
「このままではただの人生相談所になってしまう……」
そう考えた彼は、究極の中抜きという原点に立ち返ってプランを決めた。
颯爽と自社のウェブサイトを構築すると、トップページにこう張り出したのだ。
『弊社の新規事業について、下請け会社を募集いたします。
新規並びにすでにご連絡頂いたお客様につきましては、
その下請け会社にお問い合わせください』
(それで事業が成り立つのか?シリーズ『下請』 おわり)
下請 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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