自殺アナウンス

多摩るか

公衆電話の自殺アナウンス



 公衆電話


 最近はスマートフォンがあるためあまり使われていないが、誰もが一度は使ったことがあるだろう。


 話は変わって。


 いつ、どこで、誰が、何をした


 この言葉を知っているだろうか。


これは、出来事を説明するために大切な基礎となる。


例えば人と約束がしたいとき

「明日13時、駅前の○○カフェで、私と、お茶しましょう」

という文章ができる。

簡単な説明だが、伝えたい事がよく分かる。


「いつ、どこで、誰が、何をした」という言葉は、どんな時にも大切だ。







    木下康孝きのした やすたか 四十六歳



 俺は社会人になってからは趣味なんてなくなってしまったのだが、最近また趣味ができた。

それが、ホントに楽しい。


その趣味というのが、電話だ。


もちろん、恋人や家族ではない。(この年では恋人なんか中々できないだろうし、結婚もしていないから掛ける相手はそもそもいない。)


恋人や家族とは通話料等を除いたら無料で話せるのだが、俺の趣味で掛けている電話は金が要る。


スマートフォンで掛けるのではなく、公衆電話で掛けるからだ。

大体毎日繋がるし、十円入れれば充分すぎるほどに楽しめる。


普通の趣味はもう少し金が掛かるものだが、とても安い。


毎日掛けても一カ月三百円くらいで済む。

やはり、俺はいい趣味を見つけたものだ。





   


   日高悠太ひだかゆうた 十七歳



 僕は楽しいことも何もない、ただただ暇な人生を過ごしてきた。


しかし最近、とても熱中できる面白いことを見つけた。

電話なのだけれど、スマホではなく、公衆電話だ。


初めは古臭くて、不便に感じていた。


だから一度、スマホでも掛けてみたことがある。


しかし、つながらなかった。

そのあと直ぐに調べたが、そんな電話番号は存在しなかった。


でも、公衆電話だと繋がる。


だから仕方なく、公衆電話があるところまで出向いていた。



しかし、最近はそんなこと一切気にならない。



何か、すごい中毒性がある。

一度掛けたその日から、毎日公衆電話に向かわないと気が済まなくて夜も眠れなくなっている。



自分が依存状態になっていることはわかっている。

なのに、身体が勝手に公衆電話あの場所に向かう。


まるで、ハリガネムシに寄生されたカマキリのように。

身体が、勝手に。









   佐藤輝子さとうてるこ 六十八歳

 


 まさか、この年で新しい趣味を見つけるなんて、思ってもいなかった。


私は今まで、花と庭の手入れが大好きで、たった一つの趣味だった。


まだ仕事をしていた時も、休日には必ず植木鉢に植えた花を丁寧に世話したり、花屋に行ったりしていた。


定年退職した後は庭に芝生を植え、花壇を作り、ずっと憧れだったガーデンを作った。


家の玄関までレンガのタイルを敷いて、大きめに作った花壇の横に、ガーデン用の小さいテーブルとイスを置いた。


そこで、季節の花や少し端のほうに植えた年中咲くような花を世話したり、眺めながら、一日の半分以上を過ごした。



 これだけで充分だったのだけれど、いや、むしろ幸せすぎるけれど、もう一つくらい趣味があってもいいのではないかと思っていた。


趣味は無理やりするものでもないのだが、何か新しい刺激が欲しかった。



そんな時に見つけたのが公衆電話で機械音声を聞く、という趣味だった。


機械音声を聞くといっても勿論、

「料金が不足しています」や、

「電話を切ってください」等ではない。


〇九〇〇-✕二三-✕✕✕ (✕の部分には数字)


の番号に掛けて一日一回繫がるときがあると、電子音声が聞こえてくる。


でも、何故かつながらない日もある。


そんな日は少し残念な気持ちになる。


だが、そもそれで面白いもので、今日は繋がるかな、とわくわくしてしまう。


その電子音声の内容は、


















—————————————————————————————————————

あなたは、公衆電話に向かう。


走って、走って、走る。

息が切れようと、足を捻ろうとも、無我夢中で走り続ける。



あなたは、受話器を取る。

あなたは、十円硬貨を入れる。

あなたは、電話を掛ける。


〇九〇〇-四二三-四四四


一つ、ひとつ押し間違いのないように。


慎重に、丁寧に。



電話がつながる。


あなたは、これ以上に無いほどに喜び、急いで音量調整ボタで音量を大きくする。



周りが騒々しい訳ではない。


むしろ、恐ろしいほどに静かだ。


足音一つしない。


時折、冷たい風が通り抜ける音がする、それだけだ。


受話器の向こう側から、電子音声が聞こえる。


その声は、恐怖を感じるほどに淡々と話し始める。


「今日令和七年五月二十日、  地方の  県で、キノシタヤスタカさんが、首を吊った。」


あなたは、その淡々とした音声とは逆に、ひどく興奮している。

額から汗が流れ落ちる。


きっと、暑いせいだ。

そうだ。         


あなたは、言い聞かせている。











—————————————————————————————————————



あなたは、今日もあの公衆電話に向かう。

あの山の中にある公衆電話ならだれも使わないし、だれにも見つからない。


悪いことではない。そうだ、何も悪くない。


あなたは、今日も言い聞かせる。



あなたは、受話器を取る。

あなたは、十円硬貨を入れる。

あなたは、電話を掛ける。

〇九〇〇-四二三-四四四

一つ一つ、押し間違いのないように。

慎重に、丁寧に。



何回やっているの、それ。


と、自分であきれてくる。


しかし、あなたは、止められない。

頭の中で、警告音が鳴り響いている。

やはり、あなたは、止められない。


身体は、受話器を取る。


頭と体は真逆の方向へ進んでいくばかり。

あなたは、また自分に呆れる。



今日も繋がる。

いや、今日も繋がってしまった。


電子音声が唄うように言葉を出し始める。


「今日令和七年五月二十一日、  地方  県で、ヒダカユウタさんが、飛び降りた。」



あなたは、そのゆったりとした音声とは逆に動悸が激しくなっていく。



自分が生きている『今日』に死んでしまった誰かがいる。

それも毎日のように。



それを毎日のように感じることで、『死』をより近くに感じる。

あなたは、そうして自分は幸運な、神様に生かされている立派な存在ということを確かめる。


あなたは、そうしない事には幸せを感じない。


そうしない事には、生きている感覚が無くなってしまう。


あなたは、人の死を生きるための燃料にする、死神と化している。










  令和七年 五月 二十一日に公開されたとある個人記事

—————————————————————————————————————


 五月二十日に、  県で木下康孝きのした やすたかさん 四十六歳が自宅で首を吊った状態で死亡していた。


♥ 0    コメント 0


—————————————————————————————————————

 




  令和七年 五月 二十二日に公開されたとある個人記事

—————————————————————————————————————


 昨日、二十一日に  県  市にある   高等学校の 年 組だった日高悠太さんが学校の屋上から飛び降り自殺をした。

そのあと救急車で運ばれたが、死亡。

今日十日に学校はこの事件を公開した。


 ♥ 0    コメント 0


——————————————————————―――――――――――――――














―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あなたは、山の中を彷徨う。


公衆電話はどこですか。


あなたは、僕に聞く。


しかしあなたは、僕が答える前に歩いていく。



本当は知っているからだ。


あなたは、忘れたかった。だ

からあえて一度、僕に聞いたのだ。


自分は何も知らない、その事実をあなたは創りたかった。


僕は知っている。


今、あなたがこの文章を読んでいることを。




僕に聞いた後、公衆電話に向かった。


あなたは、震えた手で受話器を握りしめた。


〇九〇〇-...


あなたは、慣れた手つきで、でも慎重にあの番号を押していく。



聞きなれた電子音声が頭の中に響く。


「今日令和七年五月二十二日、  地方  県でサトウテルコさんが、庭に自分を埋めた。」



あなたは、もう恐怖など感じない。


むしろ幸福に包まれている。


誰かが、自分が生きていた『今日』死んでいる。


そうして自分は幸運な、神様に生かされている立派な存在ということを確かめる。


 毎回、毎回、そう思う。



その滑稽なあなたの姿を観て、僕は、『神』に生かされているのではなく、『死神』に生かされているのではないか。と思ってしまう。

 

 毎回、毎回、そう思う。






あなたは、幸運と思い込む。


一体どれだけの勘違いをするのだろうか。


あなたは、幸運なのではなく、不運なことに気が付かない。


次は自分が、あの、いつもの電子音声で名前を呼ばれることを知らない。


何も知らずに、気付かずに、あなたは明日の電話をその狂った頭で楽しみに待ち続けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自殺アナウンス 多摩るか @horahukigai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ