2日目

翌朝。日が上らない内に目を開けた。昨日はザクトに連れられて、宿屋で食事(私は謹んで辞退した)を共にして一晩、泊まった訳だけど……


「…ぐぅ。」


「………」


隣には、あの少女…(未だに信じられない)若かりしギルウィさんが眠っている。


【『吐血騎士』ギルウィ…体術や、殺す事に特化した魔などを使う変わり者の精霊。相手が吐血し、臓物を吐き出して絶命しても尚、自分が満足するまで斬り続けるのをやめない狂戦…異端児で、人類に、武術という概念を伝えた張本人です。後年は…幼い精霊達に、魔法を教える先生になったとか。】


2人が食事をしている時に、ルーレットの女神に言われて、びっくりしたのは記憶に新しい。


……実は『精霊の森』で、私は一度会ってるって事は、知らなかったみたいだけどね。


ベットから降りて、宿屋にあった薄汚れた水色のワンピース(ザクトのチョイス)に着替えてから、廊下に出ると、偶然…同時に隣の部屋から出ていた、ザクトと遭遇する。


「おや随分と朝が早いのですね。ノエル様。」


「その…あまり寝付けなくて。」


「竜に丸呑みにされていたのですから、無理もありません。記憶の方は?」


「それも…さ、さっぱりで。」


私は恥ずかしそうに(90%演技)頬を軽くかいた。


あーそういえば、そんな設定にしたんだっけか。私は宿屋の道中で、ザクトに1つ嘘をついたのだ。


名前以外の記憶がない…と。


「っと…引き留めてしまいましたね。私は朝の鍛錬に向かいます。用がございましたら、入口付近まで、来て頂ければ。」


「あはは。わざわざありがとうございます。」


ザクトが私に背を向けて歩いて行ったのを見て、息をついた。


鍛錬…か。私もやらないとなぁ。


【ノエルには不要なのでは?無駄に旅ばかりして、経験値だけは凄いあると思うのですが。】


まーた、唐突に出やがったな…でも、それがそうもいかないんだよ。


先に結論を述べると…そこであった記憶や経験は残るけど、体だけは『母様と別れる直前』の状態にリセットされるっぽいんだよね。


一度だけ…とある世界で、私はフィジカル…不死力といったの全てを極めて文字通り、最強に成ったんだけど…次の世界では引き継げなかった前例があって……


「…普通に萎えそうになったよ。」


【要は『無双して私TUEEE!!!!』が出来ないのですか、残念でした…心中お察ししますよ。】


心の底から馬鹿にして…もし出会えたら、ちゃんと苦しめた上で、殺してあげるよ。


でも…鍛錬か。こんな世界だし、鍛えるのも悪くない。それに、前回出来なかったウイに教えてもらった事を試してみたいし…よし、やってみるか!となると…宿屋の人に物を準備して貰わないと……


私は廊下を歩きながら、外の景色を眺める。


「…人間と精霊が手を組んで、竜と戦っているから仕方ないとは思うけど…いくらなんでも、荒廃し過ぎてないかな?」


【ノエル。竜は一体現れただけで、戦いの余波で町一つくらいなら余裕で破壊出来ます…この世界ではこれが普通なのですよ。】


そうかそうか。道中でも、ちらほら炭化してる人間とか、燃え続けている死体とか…上半身しか残ってない死体が外にゴロゴロ転がっているのが…普通かぁ。


「……。」


普通って…何なんだろ。別に人間に対して同情とかする気はないけどさ。私がもし…あっち側だったらと考えると…


「これが戦争だ…人間。」


「あひっ!?」


け、け、決して、気配もなく後ろから声をかけられた事に驚いた訳ではないぞ!?


【言い訳が苦しいですね。】


うっさいやい!!!


「…ギルウィ…さん。」


「様をつけろ、身の程知らずの愚か者め…まぁいい。ザクトを見なかったか?」


ゆるゆるのパジャマ姿だし、何か眠そうに目を擦っていたりで…威厳もへったくれもないんだけど。


「ついさっき会って…外で鍛錬してるって、言ってましたけど。」


「そうか。なら、私も行くとしよう…人間。お前はどうする。」


「とりあえず、鍛錬でもしようと思って…」


でも…実際、これからどうしよう。【禁】が発動しない所を見るに、人類の敵は既に存在しているという事……私が担う必要はない。


観光しようにも、廃墟だらけだし……


「ふふ…鍛錬?鍛錬だと…人間の小娘如きが??なら、私に見せてみろ。」


「えっ…ザクトは外ですよ?私は室内でやろうかなと…っ!?」


瞬間…私の下顎を掴まれて、顔をぐいっと近づけた。


「それは後でいい。今はお前に興味がある。これ以上の言葉が必要か?」


「…ふ、ふぁい。」



昔のギルウィさん。容赦ねえ……。






























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