スワンプの猫

柊/しゅう

春話 卯月 一週間目

桜の花弁が貴方の周りを面白可笑しく踊っていた。

花弁によって隠されていた部分が顕となり、私は初めて貴方の顔の全てを凝視する。


シャープだけれども柔らかい曲線を描いた輪郭、そして美しくつり上がったアイラインに三白眼。

ボルツの様に黒く艶光した髪。

黒いフレームの眼鏡の上からではなく、そのままの貴方を直視してみたいと私は思った。


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特にハプニングがある訳でもなく、無事に入学式が終了した


私はナツネちゃんと外で見かけた彼もいる新しい教室に戻る

期待の彼は隣の席の佐藤くんとおしゃべりしていた


ついついぼぅっと見つめてしまう

「………きれー……」


「ほぅ……遂に小梅も一目惚れかぁ〜」


「大人になったねぇ…笑」

「もぅ……からかわないでよ………」


「任せとけ︎︎( *˙ω˙*)و この恋愛マスターナツネちゃんが小梅と犬鳴くんをくっつけてたもう」

「まるで泥舟に乗った気分です」

「なっっΣ( * ゜Д゜*)」


ナツネちゃんとはこうやって冗談を言い合える仲

幼なじみなんだ



教室の扉が少しばかり悲鳴をあげる

先生も教室に戻ってきたのだ


そしてレクレーションが始まった


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新学期あるある

~自己紹介~

私はこれが世界一嫌いだ


でも、彼の自己紹介は聞いてみたかった

彼は出席番号1番

大変なんだろうなぁ…



「犬鳴杉音です」

少しやんちゃそうな見た目の割には真面目そうな声色で、ますます沼にはまってしまう


「好きな物…は」

固唾を飲み込み、彼の言葉を待つ


「……本です」

あれ?

よもやよもや

仲間では??


〜オタクあるある〜

・好きな物で本は漫画、他オタク色の強い本を指す事がある。


わんちゃんキタ━(゚∀゚)━!

漫画って話が広がりやすいから、速攻で仲良くなれるチャンス到来!!!!

いけるかも………!


右肩をチョンチョンつつかれる

後ろを振り返るとナツネちゃんがグッチョブマークを示していた

私もグッチョブを返し、前を向く


なんか上手くいきそう!!!


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自己紹介も無事終わり、一旦休憩時間がやってきた


「こーうめっ」

「ナツネちゃんどうしたの?」

「どーしたのじゃなくって!!!」


「突撃じゃ!」


ナツネちゃんは私の腕を引っつかみ、彼の席まで引っ張った

「いーぬなっきくーん!」


やばいやばい

ナツネちゃんの援護は心強いんだけれどもこの展開は不味い

漫画とか小説でよくあるヤツだけど大抵上手くいかないやつだ

やばいやばい


「………何?」

彼は怪訝そうな表情を示しながら言葉を返す


ᐟ( ˆᵒˆ )ᐠ オワタ


「さっきの自己紹介で本好きって言ってたじゃん」


「私達も本好きでさ~」

「どんなジャンル好きなの?」


↑ここ大事

さぁ、吉と出るか凶と出るか……


「…結構何でも読むよ」

「雑食だから」


✧\\ ٩( 'ω' )و //✧

吉来ました〜!!!!


まぁ?江戸川乱歩って言われてもある程度なら対応出来たけどね??


「本当〜?私達も結構雑食でさ〜」

ナツネちゃんがニコニコしながら、バレない様に私の背中をつつく。


喋れということかっっっ!!

無理や

出来る訳ないやろがいっっ( ; ; )


うっっ………

謎のアレルギー反応がっ……


「………どんなの読むの」

ありがとう!!!!!!

私なんかに話を振ってくれて!!!!!!

感謝感激!


さぁ来た!

私のターン!!!!

ドロー!!!!!!

「HUNTER × HUNTERとかかなっ………」


…………

…………

…………


こーれ出すカード間違えましたね。

失敗!!!!!!

サヨナラ!私の青春!!!!!!


いや!?HUNTER × HUNTERは悪くない!!!

世代が悪いんや!!!!!

確かに2013年生まれが好きな漫画としてはちょっとずre………


「本当?!?!」

おっ!?!?!

HUNTER × HUNTERの奇跡!!!!

でもなぁ………


「誰推しとかある!?」

佐藤くんごめんね君じゃないんよ………


「旅団とか……好きかな……」

「分かる!!いいよねっ!!!!」


腕をブンブン振りながら答え返してくれる

佐藤くん君は悪くない……

きっと君は心優しいオタクなんだろう……

オタクである私には分かる

君は悪くないんや………

誰も悪くないッッッッ…


「え〜?犬鳴くんはどう〜??」

ナツネちゃんナイスパスd(˙꒳​˙* )

本当にありがとう

今日帰りにアニメイト寄ってグッズプレゼントしよう


「佐藤が読んでて俺もちょっと齧ったかな」

「僕が布教したからね」

佐藤くんは少し苦笑いしながら頭をかく。


「そしたら読んだ事ないの私だけかな?」


ん?

あれ?

「どんなところ面白い?」


……………もしや

ナツネちゃん!!!!!!

私の為に嘘を!?

話を続ける為に!?

なんてっっっっ事をっっっっ

ありがとう!!!!!!!!!!!


佐藤くんが食いついた感じで話す

「ほんっっっっつと面白いから読んだ方いいよ!!!」


「キャラが皆魅力的でね!!!」

ぐっと手を握りしめながら少し早口で

熱意がありすぎて機関車の様に煙が出てこないか心配になるほど

そして興奮してるからか語彙力に幅が無いように思う


「だよねっっつ杉!!」

「だから俺は齧っただけで………」

佐藤くんとは対照的に彼は落ち着いた雰囲気で話す


「……猫目…さんは俺と違ってしっかり読んでるみたいだし」


「猫目さんに聞きなよ」




2連


2連も

私の名前を呼んでもらえた


………猫目でよかった


佐藤くんは続けて私に話かける

「猫目さんも読んだ方がいいって思うよね!!!?」


「…っうん!!」


興奮のあまり何時もより声がワントーン高くなる


猫目で本当によかった(2回目)

本当によかった



また教室の扉が悲鳴を上げて開く


先生ナイスタイミング

喜びの余韻に浸ることが出来る


「じゃ、またね!」

佐藤くんがニコニコしながら手を軽く振る

「またね〜」


ナツネちゃんと共に私も少し手を振る


そして次の授業が始まった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


🎶

てーんとぅーんてーんとぅーんてーんとぅーんとぅーんとぅーんてーんとぅーん

🎶


校内にちょっと変わった授業終了のチャイムが鳴る

同時に今日の全ての授業の終了も表していた


ホームルームも終わり後は帰るだけになった

私は後ろを振り返りナツネちゃんに声をかける


「ナツネちゃん」

「ん〜?なに〜?」


荷物をしまう手元から私に目線が移る

「よかったら……この後アニメイト行かない?」

「おっ、いいねいいね!」


「行こ行こっ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ナツネちゃん」

私は真っ直ぐナツネちゃんの方を向き、名前を呼ぶ

「今日…本当にありがとう」


ナツネちゃんは素っ頓狂な表情をしたかと思うと、直ぐに何時ものにっこりとした笑顔に変わり、その笑顔で私に言葉を返した


「いいって事よ!!!!」

そして肩をガシッと組み、にやっとした悪〜い笑みでまた言葉を返す


「何か1つ上等な褒美をくれても良いのだぞっ」

その笑顔に私も笑みで返す

「そのつもりですよナツネ様っ」



私とナツネちゃんの髪がまるで楽しそうに風に揺られていた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

楽しくて遊び回っていたらすっかり夕暮れ間近になってしまった…


でも今日は大進歩したし!

自分へのご褒美でいいよね!


ただ……

私の家までには少し薄暗い高架下をくぐらなければならない

短いトンネルみたいな

ドラマとかアニメで結構よくあるやつだから私は結構気に入ってはいるけど不気味な事に変わりはない



カツ……

カツ……

カツ……



周りには誰も居ない為、高架下に私のローファーの足音だけが綺麗に響く



カツ…コツ

カツ…コツ

カツ…コツ



足音が増えた事に気づき、ふと顔を上げると白いワンピースを身にまとった美しい女性が私とすれ違おうとしていた


高架下が少し暗めだから女性の白いワンピースは夜空に映える星の様に見える



カツ…コツ

カツ…コツ

カツ…コツッ


「えっあっ、すみません!!」

すれ違いざまに女性とぶつかってしまった…

「本当にすみません……あのっお怪我は…」


女性が顔を上げる

とても美しい




………

………

………

………

………

………

………

………

………

………

………




「……じょうぶ?大丈夫?」

寝ていないはずなのにまるで目が覚める感覚で意識が戻ってきた


「……うはっ」

「大丈夫?体調悪いんじゃないのかしら?」

「あっ……いえ!大丈夫です!」


女性に介抱されている体勢から立ち直り、改めて女性にお礼を言う

「すみません…なんか、ありがとうございます」

「そんな、困った時はお互い様ですよ」

爽やかな笑みで言葉を返してくれる

とても優しい人でよかった


そして私は一礼し、その場を去った



そして私は頭を捻り、考える

「……ん〜……」

「さっきのなんだったんだろ〜な」



「体調、悪いのかな?」



つづく

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