似ていて同じ

@yujiyok

第1話

新宿駅の西口からほんの少し歩いた所にあるカフェで、彼女と待ち合わせをしていた。

ガラス越しに見える歩道には多くの人が歩いている。

携帯をチェックすると、少し遅れるというメッセージが届いていた。

「あの、すみません」

何も考えずコーヒーを飲んでいると声を掛けられた。

振り向くと知らない女が立っている。

「はい?」

「わ、やっぱり」

「え?」

「あ、ごめんなさい、あの、私、静岡から来たんですけど、コンサートを観に」

「はぁ」

「地元の同級生と、ものすごくそっくりだったので、思わず声を掛けてしまいました」

「はぁ、そうなんですね…」

どう反応すればいいか分からない。

「びっくりするくらいよく似てるんです。写真があったら見せるんですけど」

「はぁ」

「あ、そうだ、写真撮らせてもらっても良いですか?それを地元の友達に見せて、彼の写真を撮ってあなたに送るみたいな」

「えっと、まぁ、悪用しなければ…」

「大丈夫です!私も絶対写真送りますから。きっとびっくりしますよ!」

その子は一人ではしゃいでいた。

「じゃ、撮りますよー、はい、チーズ。もう一枚…」

どんな顔をしていいか分からないので、微妙な表情だったと思う。

「ありがとうございます。でもなんか不思議。顔はそっくりなのに声とか体格とかはちょっと違う。地元の友達はもっと高い声だし、もっと細いの。あ、年っていくつですか?」

やはり微妙な表情のまま答えた。

「私たちより2コ上ですね。なんかすみません、突然変なこと…」

これから買い物をして帰るということで、お互い連絡先を交換してその子は店を出た。

新手のナンパかとも思ったが、悪い人には見えなかった。

とりあえず彼女を待つ。誤解されても嫌なので、彼女には黙っていることにした。

知らない女の子と連絡先を交換したとは言いづらい。

それから十分程して彼女がやって来た。月に一度か二度しか会えないが、とりあえず上手くやっている。



それにしても驚いた。

横顔がそっくりだった。たまに同級生数人で集まって飲みに行くのだが、その中の一人と本当に見間違えた。

彼も東京に来ていて偶然会ったのかと思って近付くと、体も大きいし服装の雰囲気も違うから、そっくりさんだと分かった。

でも真正面から顔が見たくて、つい声を掛けてしまったのだ。

やっぱり似ていた。双子かと思った。年を聞いたら2個上だったので兄弟かもしれない。生き別れの。さすがにないか。

この世には自分に似た人が三人いると言うが、本当なのだろう。

とにかく写真を見せたくて仕方ない。反応を見たいので直接。

次の飲み会は再来週。みんなの反応も楽しみだ。



今日は恒例の飲み会だ。参加者は女三人男三人の計六人。順番に幹事役になって店を決める。

今日は僕が決めたので早めに家を出る。

ある程度大きめの居酒屋が定番で、たいてい似たような店か、数回に一回は同じ店になったりもする。気を遣わないし店決めも楽なのだ。

店に着き、案内された部屋に行くと、すでに一人来ていた。

「早いね」

「まぁね」妙ににこにこしている。

「みんなはギリギリかな」

「あんたの彼女は遅れるんでしょ」

「うん。あ、東京に行ってたんだっけ、一人でコンサートとかすごいね」

「普通普通。それよりさ、面白いことがあって」

「何?」

「みんなが来てからね」

他愛もない会話をしていると、仲間が集まりだした。

予約した時間の五分後には五人集まった。

「先に始めようか」

彼女が一人遅れているが、先に飲み物を注文した。とりあえず乾杯。

「最近どう、何かあった?」

お決まりの近況報告だが、たいした変化はない。どこかへ遊びに行ったとか、同級生の誰々がどうなったとか、実りのない話が続く。

「そういえば、さっき面白いことがあったって言ってたじゃん。何?」

僕が思い出して話を振る。

「まだ揃ってないけど、いっか」

携帯を取り出して操作する。

「じゃーん、見てこれ」

それは男の写真だった。

「そっくりさんに出会ったの」

「えー、本人じゃないの?」

「うそみたい、ほんとそっくり」「ウケるんだけど」「二人で並んで欲しいわ」

みんな口々に写真と僕を見比べる。

「まぁ、確かに似てるけど、間違えるほどではないでしょ」

僕はその写真を見て言う。

「ちょっと体が違うからね。でも顔だけ見たら間違えるって」

手渡しされ、戻ってきた携帯を持って言う。

「でさ、私、あんたの写真も撮って送るって約束しちゃったの。だからちょっと撮らせて」

その時、彼女が遅れてやって来た。

「ごめんごめん、遅くなっちゃった」

「あ、丁度良い、ほら二人並んで」

「え?何?」

彼女が僕の隣に座ると、二人の写真を何枚か撮られた。

「何?急に」

「あ、飲み物は?ビールでいい?」

「うん、お腹すいちゃったー」

「残ってるのどんどん食べな、食べたいのあったら頼むよ」

「えーっと、だし巻き玉子」

「あーなくなっちゃったか。もう一個頼もう」

「あと、焼きそば!」

「ほんと好きだよねー」

彼女以外は割と飲んでいるので、そのままだらだらと下らない話が続いた。



東京にいる彼と会うのは月に一度か二度だ。

少し遠くにある実家に住んでいるので中距離恋愛だろうか。

付き合って三年になる。彼がプロポーズでもしてくれたら、私は彼と暮らすだろう。旅行にも行ってるし、お互いの好みも分かっているので、きっと上手くいくと思う。

待ち合わせのカフェに五分前くらいに着いた。

店の中を探すと、奥の方に彼はいた。私は笑顔でそこに向かう。

「お待たせ」

「おぅ、疲れてない?」

「大丈夫」いつものやり取りだ。

「ね、見せたいものがあるんだ」

彼が携帯を取り出す。

「何なに?」

「見てこれ」

それは写真だった。

「ん?これ、いつのだっけ?」

「ね、間違えるよね。これ、僕じゃなくて、そっくりさん」

「え?どういうこと?」

「自分でもびっくり。て言うかさらに驚くのが、隣にいる女の子、君にそっくりだよね!」

「えぇ?」

「奇跡だよね、そっくりさんの彼女もそっくりさんだなんて」

「ほんと、嘘みたい…。二人ともそっくりさん、で、そっくりさん同士が付き合ってるってこと?」

こんなことがあるだろうか。本人と見間違えるほど似ている二人が恋人同士。

「でもこれ、一体どこで…」

「二人の友達がたまたま僕を見付けて、教えてくれたんだ」

「へぇ、面白い。この二人と会ったら鏡みたいだね」

偶然はあるものなのだ。

「面白いね、話が合うかは分からないけど」

「私たちに似てるなら、きっと良い人たちだよ」

「そうだね」

「ね、今日はどうする?久しぶりに映画でも観に行く?」

私が見付からなくて良かった。

私は、写真の彼女と同じピアスをはずしながら思った。

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