美人の先輩に嘘告したら、スーパー女子たちに囲まれるようになった

まさ

第1話 陰キャぼっち君と銀嶺の花

 俺は今、教室の片隅にある机に座って、周りをぐるりと囲まれている。

 ニヤついた男子3人と女子3人に。


「で、誰に告るんだよお、神谷こうや?」


 軽くウェーブした髪に青いメッシュが入ったイケメン、喜田隆文きだたかふみが言い寄る。

 身長がスラリと高くて、笑うと白い歯がサマになる。


「いや、お、俺は……」


「約束したでしょお? 早く決めなさいよお。あ。もしかして私だったりして?」


 赤く染まったロングヘアがよく似合い、見た目だけは無茶苦茶可愛い小久保真理こくぼまりが、ずいっと顔を近付ける。

 香水の匂いがきつくて、だらしなく着崩したシャツの間から、大きな桃の谷間が見えそうだ。


 約束って言ったって、無理やりにやらされたトランプゲームの賭けだ。

 しかも俺以外は全員、イカサマしまくりで。

 負けた者が誰かに告る、そんな罰ゲーム付きだった。


 いつもこうだ。

 こいつらは俺をいじって、慌てる様子を見たり動画に撮ったりして笑い合う。


 そう、俺はいじられっ子だ。

 高校2年にもなって情けないとは思うけど、このクラスのトップカーストの6人組には逆らえない。


 他の生徒達だって、怖くて見て見ないふりだ。

 昔からこういう連中はいたけど、今度はよくもまあ、6人も集ったものだと思うよ。


「で、誰にするんだよ、色男く~ん?」


 こいつは下条由良しもじょうゆら、柔道部に入っていて、角刈りで体格がいい。

 飾らない性格なので、意外と女子からも人気があったりする。


 喜田、小久保、それに下条、6人組の中でも、特にこいつらが目立っている。


 どうしようか、このままじゃ放してくれそうにない。

 仕方がない、だったら、もうヤケクソだ……


「じゃあ、3年の白戸さんにするよ……」


「「「「「「……は……?」」」」」」


 6人全員がぴっちりと凍り付く。


「お、おま……何馬鹿言ってんだよ? あの、『銀嶺の花』に? お前なんかが!?」


「あのそれ、い、いいのかな……?」


「おいおいおいお前、気は確かか!? 何か悪い物でも食ったか? あの人はお前なんかが近寄っていい人じゃないぞ!」


 慌てるのも無理はないだろう。

 3年生の白戸亜里愛しらとありあさんは一つ上の先輩で、この学校の生徒会長。

 外国人と日本人との間で生まれたハーフらしくて、整った顔立ちの中で緋色の瞳を輝かせる。

 いつも背筋をピンっと伸ばして、銀色の長い髪を揺らして廊下を歩くと、誰もが振り返る。


 綺麗で成績だって優秀、そんな彼女はひそかに『銀嶺の花』と呼ばれている。

 誰も近付けない頂に咲く一輪の花、きっとそんな畏敬の念を込めて。


「お、おい……いくらなんでもそれは、まずいんじゃないのか……」


「とち狂っちゃだめよ? 冷静になりなさいよ。よりにもよって、あの銀嶺の花になんて。考え直した方が身のためよ?」


「お前、自分の身の程を知れよ。陰キャぼっちのくせしやがって!」


「……別にいいだろう? 誰に告白するかは、俺が決めていいんだろ?」


 少しでも困らせてやろうと、ささやかな仕返しでもあった。

 下手をして銀嶺の花に睨まれたりでもすると、いくらこいつらだって、気まずいだろう。


 それに俺なんか、誰に告白しようが、結果は同じなんだ。

 銀嶺の花なら告白なんて散々受けているだろうから、そんな中の一つに過ぎないはず。

 俺が玉砕して、記憶の片隅にも残ることなく、それで終わりだ。

 嘘の告白をしてしまうのは、心が痛むけど。


「じゃあ、今から行くよ」


「な、何? マジかよ?」


「あなた本気なの!? とうとう壊れちゃった? やり過ぎたのなら謝るから、考え直したら!?」


 壊れたとは思っていないけど、こうなったらもう、本当にヤケだ。

 嫌なことはさっさと終らせてしまいたい。


「ま、まあでも……これはこれで笑えるかもな。陰キャぼっち君のカミカゼアタック、なんてな。でもさあ、もしうまくいったら、俺にも紹介してくれよな、白戸さんを」


 何言ってんだよ喜田、そんな起こりえないことを。

 だったら自分が告白してみればいいじゃないか。


 早速3年生の教室に向かう俺を、いじめっ子グループの6人が尾行する。

 撮影用のスマホを構えて。


「す、すみません、白戸さんはいませんか!?」


 3年生の教室に向かって、精一杯の勇気と一緒に声を上げると、女の子が一人立ち上がった。

 ……間違いない、白戸さんだ。

 緋色の大きな瞳が、俺の情けない姿を捉える。


「白戸です。何かしら?」


「えっと、その……ちょっと、は、話があるんです。ついて来てもらえませんか?」


 圧倒されるほど綺麗だし格好いい、やっぱり。

 腹を決めたつもりだったけど、やっぱり本人を目の前にすると、緊張感がハンパない。


「……ええ。分かったわ」


 恐れ多くも、先輩である銀嶺の花、しかも生徒会長を、裏庭へ呼び出した。

 まさかついて来てくれるなんて……その事実だけで、胸が警報級に高鳴っている。


 そこには、少し離れた木陰に身を隠す6人組以外には、誰もいない。


 すうっと深呼吸をしてから、


「す、好きです。俺とつき合って下さい!」


 思ったよりも、あっさりと口にできた。

 破れかぶれだし、本気でもなかったからだろうかな。


「……ふ~ん。あなた、名前はなんていうのかな?」


 涼しげな瞳の中に、オドオドした俺の姿が描写される。


「こ、神谷霧斗こうやきりと、2年生です」


 お、怒られるかな、と思ったんだけど……何故だろ? 

 なんだか、楽しそうにほほ笑んでるみたいな。


「神谷君か。ねえ、私のどこが好きなの?」


「あ、ぜ、全部です! 美人だしスタイルはいいし、それに頭もいいし。生徒会長もやっていて。いつも全校生徒の前で喋っていて、恰好いいです!  その上、モデルの仕事までしているなんて、すご過ぎます!」


 咄嗟に言葉を並べたけど、これは全部本当のことだし、みんなが思っていることだ。

 白戸さんは学校の外ではモデルの仕事もしていて、たまにファッション雑誌の表紙で見かける。


「その銀色の髪だって、すごく綺麗です。おとぎの国のお姫様みたいで」


 つい本音も口にしてしまうと、彼女は笑顔をもっと綻ばせた。


「ありがとう。この髪はね、私も気に入っているの。お母さんがくれたものなのよ」


「そ、そうですか。きっとお母さんも、お綺麗な方なんでしょうね……」


「そうね、ありがとう。お母さんのことをそんなふうに言ってくれて、嬉しいわ。えっと……」


 あれ、何か余計なこと言ったかな?

 白戸さんが腕組みをして、考え込んでいる。


「……そっか……どうしようかな……」


 でもとにかく、言うことは言ったぞ。

 これであっさりとフラれれば、ミッションクリアだ。

 さっさと家に帰って、風呂に入って寝て、嫌なことは忘れよう。


「じゃあ神谷君は、私のことを守ったりしてくれるのかな?」


「え? ああ、それは、はい……」


「そっか…………うん、分かった。じゃあそうしようか」


 ……え? 今、なんて言いました?


「じゃあ今日からよろしくね、神谷君」


「え? ええ? あの……それって……?」


 意味が分からない、どういうことだ?


「何を驚いているの? 告白してきたのはそっちでしょ?」


「あの……それって……OKってこと、ですか?」


「ええ、そうよ」


 何……言ってんだろ、この人……

 もしかしてこれは白昼夢? それとも冗談? 俺、ここでもからかわれてる?


「あの、すみません……本気じゃないですよね……?」


「何を言っているの? あなたは本気なんでしょ? なら私だって本気よ」


「で、でも俺達、今日初めて話したばっかりで……」


「そうね。じゃあこれからいっぱい、お話をしないとね。告白してくれてありがとう、神谷君」


 えっと……何がなんだか分からない。

 頭の中が真っ白で、腰がバラバラに砕けそうだ。

 少なくとも、木陰で呆け顔をさらしている、6人組以上にはさ。




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(ご挨拶です)

数ある作品の中で本作におこし頂き、誠にありがとうございます。

まだまだ始まったばかりですが、少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。

よろしければ、年の瀬と新年のお供に加えて頂ければ幸いです。

どうぞよろしくお願い申し上げます。


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