第8話 錬金日和
大海が錬金術ギルドに来て最初にやったのは二日酔い回復ポーションを作る事だった。弱めの鎮痛成分に、血中のアセトアルデヒドを分解するための解毒成分を少々っと。あとは体力補給にほんの少しの回復成分もいれておくか……。大海が作業をしていると、手伝いに来てくれたギルド員が話しかけてきた。
「イソムラさん。今日は何を作ってるんですか?」
「二日酔いが辛いからそれを治すポーションをな」
「二日酔いには解毒ポーションが効くというのが知られてますけど、それとはまた別のものですか?」
「別だね。二日酔い専用みたいなポーションだよ。風邪のひき始めくらいになら効果あるかもだけど……」
「作り方を教えてもらっても?」
「構わないぞ。ちょっとストックも作って置きたいしな。とりあえずこれは飲む!」
大海は出来上がったばかりの二日酔いポーションを一気にあおる。ほんの数十秒で胃の不快感も頭痛も消えて、さっぱりとした気分になる。こんなに効く二日酔いポーションを作れるなんて、異世界の錬金術最高かよ。
「おお。すごい。あっという間に顔色が良くなりましたね」
「おまたせ。で作り方だっけ? 見ながらメモして覚えてくれ」
大海はギルド員に手順と使う材料と合成のコツを説明しながら作る。本当に最低限の効果しか持たせていないから、レシピも簡単だし、使う素材もごく一般的なものを少量ずつだけだ。
「こ、これは……。こんなレシピで本当に二日酔いが?」
「ちゃんとポイントを抑えて錬成するならこんなもんだよ」
「このレシピならかなり安く売り出せそうです。販売しても構いませんか?」
「このくらいなら全然構わないよ」
「それではギルドへのレシピ提供という契約になります。ギルドで独占販売することになるので、利益の二〇%がイソムラさんのものになります。独占期間は十年、そのあとはレシピを公開してギルドに所属している錬金術師が販売できるようになります」
二日酔いから逃れたい一心で適当に作った二日酔いポーションだった。それが思ってた以上の収穫だ。どのくらい売れるものなのか分からないけど、色々と開発していけばそれなりの不労所得になるかもしれない。
「そういえば、宿屋の娘のミラが言ってたんだけどさ、バターの供給が安定しないというのは本当なのか?」
「そうですね。足りている時もあるのですが、安定しないので不足することも多いんです。さいきんまた値上がっているみたいですね」
「なるほど、それならバターの代用品とかあれば売れると思う?」
「それは売れるでしょうね」
「そうか、じゃあマーガリンも作りますか」
「マーガリン? なんですそれ」
「代用バターの名前だよ。今から言う材料を用意してもらえるかな?」
大海が用意してもらったのは牛乳。それにココナッツオイル、オリーブオイルと塩と酢だ。香り付け用のバターも用意してある。
「本当にこんなものでバターの代わりになるんですか?」
「まあ見ててって」
大海は塩と酢以外の材料を混ぜていく。材料がいい感じで混ざった所で、ふたつにわけて片方には塩を混ぜたあと、もう片方はそのままの状態でお酢を加えて混ぜる。するとあっという間に乳化が始まって色づいて見覚えのあるマーガリンが完成する。
「おお、確かにバターっぽいですね」
「だけど酢の香りは強めに出る。だから、今回みたいに香りのない酢か、リンゴ酢みたいな問題ない香りのものを使うように。これもギルドで売って」
「わかりました。これも先程の二日酔いポーションと同じ条件になります」
「おお、いいね。不労所得バンザイだ」
「二日酔いポーションにマーガリン。イソムラさんのレシピはどれも凄いです」
化学は結局、混ぜる。熱管理する。ろ過するなど簡単な操作で完結している。だからこそ、混ぜる順番や加熱・冷却するタイミングなどが重要になる。逆に言えばその順番を見つけるのが大変なのであって、手順がわかっていれば、危険性さえ無視すれば誰にでも出来る。これは麻薬の密造などを現地で奴隷のように働かされている人でも作れることでわかるだろう。
大海がクィージーからもらった錬金スキルは、完成品を知っているとその作り方がわかる。だからカーボンの竿や、それに釣り糸なんかも作り方はわかる。それだけではなく、地球にはなかった未知の素材を使った釣具のレシピなんかも頭の中にある。なかなかに素晴らしいスキルをくれたもんだ。クィージーもユムシくらいまで評価を上げておこう。
「あともう一つ作っておきたいものがあるんだけど、金属素材のサンプルとかあれば見せてほしいんだけど……?」
「次は何を……? 素材倉庫はこちらです」
大海は案内されて素材が管理されている部屋とやってきた。大海が作りたいのはバイクだ。そんなに立派なものでなくても問題ない。交通機関が発達していないこの世界で、バイクは理想的な移動手段になるはずだ。ガソリンの入手が出来るかはわからないけど、南米などで一般的な高濃度アルコール燃料なら作ることができる。
「アルミがあるじゃないか!」
「はい。錬成するのが結構手間なので高価になるのがネックなのですが、なんとかしたいとおもっているんです。なにかアイデアはありませんか?」
ギルド員が期待を込めた目で大海をチラチラ見ている。頭の中にいくつか方法はあるけど、やりすぎてこれから先の錬金術師の利益を奪うのも申し訳がない。こっそり自分のバイクを作る分だけのアルミを生成することにしよう。
「じゃあ、また明日くるよ」
よし、時間ができたし夕食までに酒造りの材料を探すとしよう。材料が手に入ったら、また港へいって釣りでもしよう。港エリアもまだ一箇所しかみてないしな。釣り場ポイントの開拓が楽しみだ。
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