第6話 ダンジョン配信 2回目

 久しぶりのダンジョン探索だった。 それも初めてのダンジョン配信とあって、疲労が残っている。


 目が覚めるとベッドの上で柔軟をして体をほぐす。


 何気なく、スマホを見ると・・・・・・


「やっぱり、連絡があったのか・・・・・・着信数がシャレになってないぞ」


 着信履歴。 そのほとんどが、たけし社長からだった。


 残されてるメッセージには一言だけ───


『すぐに事務所に来い』


 俺は、着替えて『たけプロ』の事務所が入ってるビルに向かった。


『たけプロ』


 大きなビルだ。しかし、流石に自社ビルではない。


 ここで「将来、俺が儲けた金でビルを建ててやるぜ!」って言えれば良いんだけどなぁ。 


 ダメだなぁ。 獅堂ライガではない黒瀬大河である俺は、覇気ってものがない。


 やる気はあるんだけどなぁ・・・・・・


 そうして、ビルの一室にある『たけプロ』事務所に入ると社長が仁王立ちで待っていた。


「ようこそ、大河くん。なんでワタクシが怒っているのかわかるわね?」


「うぁ・・・・・・帰りたい」


 たけプロ社長たけし・・・・・・正式な名前はGo・D・たけし


 その名前に反して、たけし社長は女性だった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・



「まずはこれ」とたけし社長はスマホの画面を見せてきた。


 事務所が管理している俺のチャンネルが表示されている。


「まずは、これ・・・・・・チャンネル登録者数30万人おめでとうございます」


「え? 寝てる間にそんな数に!? 桁を1つ間違えてないか?」


「何で貴方が把握してないのよ。起きて最初に把握するでしょ、普通は!」


 俺が寝る前に確認した時は3万人で喜んでいたんだよな。


「さて、それじゃワタクシが怒ってる理由はわかるわよね?」


「あっ、はい・・・・・・なんの相談もなしに、3Dとか、ARとか」


「違うでしょ? こんな危険な黙って配信をした事にワタクシは怒っているのよ?」


「───っ!」


「あなたが頑張っていることも、焦っていることも知ってました。でも、ワタクシはあなたに才能を見いだしているからタレントとして契約しているのよ。だからね・・・・・・」


「───でも、俺。 ダンジョン配信は続けますよ?」


「ダメよ。ワタクシは社長としてタレントの安全を守る義務ってのがあるのよ」


 それから俺と社長は、互いに無言になった。


 少しずるい真似なのかもしれない。なぜなら、社長は底なしに優しいからだ。


「わかりました」と社長が折れてくれた。 申し訳ないが、ここは俺も譲れない所だ。 


「今後、ダンジョン配信をする時は事前に事務所に連絡をしなさい」

 

「社長、ありがとうございます! それから────」


「なによ?」


「今日もダンジョン配信を行います!」


 さすがに社長から呆れられた。 でも、これはチャンスなのだ。


 たった1つのライブ配信で登録者数が数十万人伸びる事がある。 


 VTuberドリームと言われる現象。 これで、もう1つ大きく勝負に出ておく必要がある。


 偶然じゃない。実力で勝ち取った数字だと証明するため・・・・・・


 こういう面白いコンテンツを1回だけじゃなくて、定期的に配信できると証明しなきればならない!


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


「・・・・・・というわけで、昨日に引き続きダンジョン配信だぜ!(もぐもぐ)」


『説明乙!』


『社長の説教助かる』


『序盤から飯食ってて草』


 俺は配信を始める。 すでにダンジョンの中を雑談しながら移動中。


 もぐもぐと食しているのはサンドイッチだ。 もちろん、普通のサンドイッチじゃない。


「ちなみにこれはベーコンサンドイッチだ。 ベーコンは、昨日の黒オークのバラ肉で作った」 


『なおさら美味そうに食えw』


『淡々と食べてて草生えるw』


『あれ、調べてみたらオークの肉って高級食材じゃねぇか!』


『ネット通販でポチろうとして、危なかったわ』


 うん、俺もネット上で取引されてる値段を確認した。


 高級な牛肉ステーキで10万円(200グラム2万5000円)だった。


 ちなみにオーク肉はその上の価格。 さらにミノタウロスに肉になると3倍4倍・・・・・・


 滅多に市場に出回らないから高額なわけで高級ステーキの3倍美味いわけじゃないんだよな。残念ながら・・・・・・いや待てよ!


『またライガが悪顔して、ぶつぶつ言ってるよ』


『悪役顔なのは通常運転』


『ダンジョン産の食材を高級食材とトレードしようと企んでる・・・・・・』


『誰か、マイクが入ってる事を教えてやれよ』


おっといけない。 皮算用中だったぜ。


「おっと、ベーコンサンドの味だったな(もぐもぐ)。ちょっと、待ってくれよな(もぐぼぐ)」


『ダンジョン産と高級食材で物々交換を企んでいた話の続きを希望』


『もう誰も味を気にしてない定期』


 ん? 妙だな。 みんな何の話を・・・・・・まぁいいか。


「そうだな。子供の頃ってパンや米に糖分が多くて、甘い食べ物ってよくわからなかったよな? 野菜の甘味って何・・・・・・みたいな感じで」


『みんな静かに、ライガが何か言ってる』


『急に語り出すじゃん』


『でも、わからなくはない』


「でもさぁ、不思議なんだよな(もぐもぐ)大人になるにつれて、味の理解度が上がるのか、表現する語彙力があがるのか、甘味を感じ始めるんだよな(もぐもぐ)」


 もちろん、主役はベーコンだ。 しかし、高いパンと新鮮な野菜を使っているのがよかったのだろう。


 ふっくらと柔らかいパン。 これが僅かな甘味を出してくれる。 


 それに、瑞々しい野菜。 レタス、トマト、ピーマン、オニオン・・・・・・それにピクルスにオリーブも忘れちゃいけない。


 ベーコンは塩多め。カリッカリに焼いてある。


 わかる? カリッカリなのよ。カリッカリ!


 それで塩分が加わって食欲の増加が凄い!!!


 たぶん、実物を食べるとわかるだろう。 なぜ、俺がベーコンサンドを手放さず、配信しながら食べ続けているのかを!


 止まらないのだ! この中毒性、おそろべき!


「あれ・・・・・・もうないぞ?」 


 もう食べきってしまった。 俺の食事が終わってしまった。


『食べ終わるまで、無言でモンスターを蹴散らしていくの面白い』


『もしかして、モンスターを無意識に倒していたのか?』


『そんなに美味いのか! そのサンドイッチ!』


 いやいや、そんなわけないじゃん? 俺ってそんなに食い意地はっているように見えるか?


 そんな事を思いながら振り向いた。


「うげ! まさか、本当に!」


 俺の背後には、倒れて消滅していくモンスターたちが並んでいた。


 犯人はこの中にいる! そして、ダンジョンの階層にいるのは俺1人!


 はい、犯人でした。 そんなこともありながら、目的の階層に到着した。


「ここが目的の階層だぜ!」


 ドローンカメラに周囲を撮影させた。するとコメント欄では、期待通りの反応が返ってきた。


『はぁ!? 何これ???』


『これは・・・・・・空? そんな太陽まであるぞ!』


『ここは、地球!?』


『いや、ダンジョンだから間違いじゃねぇけど!』


 他の階層では石造りの壁と床・・・・・・明らかに人工物だが、ダンジョンが出現した25年前からこうだった。


 しかし、ここは時空が歪んでいるのか? 太陽もあり、空も広がっていた。


 歪庭ソララシェル


 そう呼ばれるダンジョン階層だ。

 

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