第16話 3回目・4回目、、、
また、ここからなのか。
俺は再び、怒鳴る部長を前にしていた。
「君が彼女を呼ばないのなら、私が迎えにいく! どこの学校なのかも分かっているからね!」
で、また出ていくんですよね。止めても無駄なんですもんね。
そう思っていると、案の定、部長は窓を壊して出ていった。
どうしたら良いのかを考える間も、前回の反省をする間すら与えられず、今までと同じように時はひたすら進んでいく。
とりあえず、俺は部長を追いかけた。
だふん、今こうして中学校に向かっているが、舞ちゃんが拐われるまでに着くことはできない。今まで、部長が中学校を出ていく姿すら目撃できていない。
では、最初から倉庫に向かって走ればいいのでは?
「良いこと思いついた!」
そこまで思考が至り、嬉しくなって俺はガッツポーズした。
このまま倉庫に向かおう。それなら間に合う。
新しい発想が降りてきたことに、俺は歓喜した。
「やぁ、大二郎」
途中、やはり淫獣は話しかけてきた。
ルートを変えても、こいつは来るらしい。
「なんだ? 俺は忙しい。視覚の共有とかはいらないぞ」
「あ、なんだ。知ってたんだ。じゃあいいや」
さほど淫獣に驚きはなかった。
特に残念がる様子もなく、しようと思った提案を簡単に引き下げる。
「ところで大二郎。どうやって舞を助けるつもりだい?」
「今それを考えてんだ」
考えながら走ってるんだから、気を散らせないで欲しい。
そんな俺の気持ちに反して、淫獣は続ける。
「大二郎が向かおうとしてる所だけど、警察も向かってるようだ。このままいくと、鉢合わせになると思うけど」
「じゃあ、どうしろと? 行かない選択はないからな」
今まで教えてくれなかったくせに、ルートが変わると教えてくれるのか。
確かに、警察がくるのは俺が倉庫について、部長を倒してからすぐだ。時間にして数分程度。こいつの言う通り、このまま部長と戦ってから舞ちゃんを助けるとなると、また警察と鉢合わせすることになる。部長を瞬殺できればいいが、残念にもそこまで俺は強くない。
かと言って、俺が倉庫に向かわずして、舞ちゃんの無事はない。何より、俺は舞ちゃんを守ると約束している。今度こそ、それは果たさないといけない。
警察が来るのは、早いようでいて、あまりに遅すぎる。
「そもそも、部長は何がしたいんだろう?」
「何ってそれは……」
言うのは憚られるが、部長は残り少ない寿命に絶望して、自分のやりたい事を我慢しないようになった。
……我慢? 何を?
思えば、部長は自分の欲望をかなえたいだけで、舞ちゃん単体に固執してるわけではないんじゃないか?
「思い当たる節があるようだね。その目的を潰すか、変えるかしたら、事は解決するんじゃないかな」
目的を潰す。という方向性では、部長との全面対決を避けられない。
しかし、目的を変えさせるというのは、アリかもしれない。
部長を瞬殺できない以上、戦いを避けるという発想に転換すべきだ。
「何か思いついたようだね」
俺の顔を見て、淫獣は何かを察したらしい。
「部長は変態だが、変態はプレイの相手は女なら誰でもいいのではないか、と思った。なら、標的を舞ちゃんから逸らせばいい」
「なるほど。どうやって?」
俺はニヤリと笑い、答えは言わなかった。変わりに、そのまま行動に移した。
俺は通りかかった女子高生を捕まえ、抱きかかえた。
「きゃっ! なに!」
変態……! と叫びかけた口を抑え、俺は倉庫に向かった。
自分の身に何が起きたのか理解できず、パニックで女子高生はもがいた。もごもご手の中で叫んでいる。
説明している暇はない。すまないが、分かってくれ。
内心で謝罪しつつ、果たして目的地についた。
そして、俺は迷わずに部長めがけて走り、
「田中君! 誰だその子は!」
「いや――ッ!!」
その女子高生を、部長に放り投げた。
部長は女なら何でもいいんだろう。なら、代わりを渡せば、舞ちゃんからロックオンが外れると踏んだ。
幸い、倉庫に直行したおかげで、舞ちゃんはまだ無事だった。服の乱れがないことが、それを証明している。
「舞ちゃん、こっちだ!」
俺はそのままの勢いで舞ちゃんを抱きかかえ、その場を去ろうとした……が、舞ちゃんは踏みとどまり、それを拒絶した。
「待ってください! 駄目です!!」
「舞ちゃん! 今はそれどころじゃ――」
「あの子は誰ですか! あのまま放っておけません!」
「いやいや、あの子は大丈夫だから!!」
舞ちゃんには知る由もないが、もうじき警察がくる。だから、あの女子高生の身には何も起きない。事は未遂に終わるから、あの子は無事なんだ。それよりも、早くこの場から離れよう。そうしないと、間違えて俺が捕まってしまう。
と、詳しく説明したいところだったが、今はとにかく時間がない。俺は必死に、大丈夫だから、と繰り返した。
頼む。分かってくれよ、舞ちゃん。
「田中さん、私の代わりにあの子を……どうしてそんなこと……」
舞ちゃんは泣きそうになっていた。
どうしてって、全部は君を助けるためじゃないか。誰も傷つかないハッピーエンドを迎えるために、こうしたんだ。
「田中さん、そんな人だったなんて」
なんで、分かってくれないんだ、舞ちゃん。
俺はこんなにも君を……
「――残念です」
●
「またかよーっ! もーっ!!」
部長室で、部長室が怒鳴るよりも先に怒鳴った。
予想外の反応に部長が困惑する。
それもそうだろう。部長にとって、この状況は初めてなのだから。
「あ――ッ!!」
それが威嚇だったのか、どうにもならない事への悲嘆だったのか。とにかく、俺は叫んだ。
叫んで、部長よりも先に窓を突き破って、会社を出た。
「田中君! どこへいく!」
もう5回目だ。
何故ループするのか、何となく理解した。おそらく、誰も傷つけてはいけないのだ。残念、というそれぞれの言葉には、各々がその結末を悲観している点にある。だとしたら、もう残された手段はこれしかない。
俺は、部長が誘拐するよりも先に、舞ちゃんをどこかへ避難させるしかないと考えた。そうすれば、この後に起きること全てを回避できる、はずだ。
俺が、事が起きる前に舞ちゃんを守るんだ!
……と、思ったが、うまくは行かなかった。
「なんだお前!」
クラスへ入ると、担任の教師は俺のことを変質者を見る目で叫んだ。
無理もないが、俺はこの後にくる変質者から生徒達を守りにきた救世主だぞ。何も知らず、見た目だけで判断しやがって。
若干の苛立ちを覚えながらも、しかし時間がなかったので、俺は舞ちゃんに直行した。
「た、田中さん……!」
「舞ちゃん大変だ! 部長が君を狙っている! 今すぐここから離れよう!」
「あ、え? 部長? 誰のことです? どうしたんですか、田中さん」
あわあわしている舞ちゃんを見て、内心、このままでは駄目だと覚った。俺がリードしてあげなければと思った。
だから、座っている舞ちゃんの手を取って、俺は白馬の王子様みたく、この天使を教室から引っ張り出した。
周囲の罵声など、どうでもいい。
「ちょっと、田中さん! 駄目です! 私、授業中なのに!」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだ!」
今は分からなくても、後で全部分かることだから。俺のしたことが正しいことだって、必ず気づくはずだ。
しかし、舞ちゃんは「待ってください!」とその場に踏ん張る。
「え……?」
しかも手を振り払われて、俺は唖然とした。
俺は舞ちゃんを守りたくて、誰も傷つかない方法を考えて、それを実行しているのに。こうすれば、舞ちゃんも部長に傷つけられないで済む。本当は色々な手があるなかで、君に納得してもらうために、あえてこんな面倒な方法を選んでいるのに。
どうして、ここまで君のために頑張る俺に対して、そんな顔をするの、舞ちゃん。
前回も、そうだったじゃないか。
「田中さん。どうして私のいる学校を、クラスを知ってるんですか」
「いや、それは……魔力を探知して……」
「私、魔法少女ってこと周りにバレたくないって、田中さんに話しましたよね」
「あ、ああ」
知っている。だから、人気のないところで一緒に悪魔退治をした。一緒に魔法の練習もした。
「田中さんがこんなことしたら、私……もう学校に行けなくなるじゃないですか! 皆に何て言えばいいんですか!!」
舞ちゃんは、また泣いていた。
俺のせいなのか? 俺が悪いのか?
「もう、いやぁ……」
舞ちゃんはその場にうずくまってしまった。
それを見て、なんだか力が抜けた。
なんで分かってくれないの? この後に部長が来て、君は酷い目にあうのに。俺は、そうならないように、ずっと繰り返しているんだよ?
……ねぇ、舞ちゃん。
そっと、舞ちゃんに手を伸ばした。
「舞ちゃん、ごめん。でも、こうでもしないと……」
「田中さん……。私、すごく残念です」
●
そして、また戻ってきた。
「はいはい。わかった、わかりました」
いい加減に理解しました。ここまで来たら、もうこうするしかありません。
きっと、何もかもが遅かったんだ。
やはり、ここは先手必勝。元凶が目の前にいるうちに、行動される前に、事を防ぐしかない。
それはつまり、ここで部長を倒しきることだ。
「え? 何が分かったの?」
俺の独り言に、部長は眉をしかめる。
「話、聞いてた? あのね、君が呼ばないなら、私が彼女を迎えに行くって言ってるの。だからね――」
「も――ッ! 頭がおかしくなるわ!!」
部長が一生懸命に話している途中、俺は部長に殴りかかった。
もうあんたに付き合っていられない。その怒りが、俺の拳に渾身の力を込めさせた。
「うぶっ」
俺は無我夢中で、変身することも忘れて、生身で殴りかかった。
部長は前のめりになっていたから、顔面クリーンヒットは難しくはなかった。
部長に幾らかのダメージと怯みを与えたのを見て、俺はさらに追い打ちをかけた。
胸元をつかみ、頭突きを食らわして、部長を押し倒す。部長はイスごと後ろに倒れ、後頭部を打った。
「全部、あなたのせい! 最初からこうしてたら良かったんだ! ずっと最初から!!」
意識が朦朧とする部長の顔面を、さらに殴りつける。
魔法の力を借りることなく、殴り方も知らなかった為か、拳に激痛が走った。が、ここで止めては意味がないと思って、俺は追撃を止めなかった。
「ほら! 出ていけないだろ! 何もできないだろ! 部長!!」
変身するまでもなかった。
部長はスーツ姿のまま、抵抗する力を失ったらしく、脱力した。拳がアゴに入ったからか、俺の腕をつかむ握力が緩む。
でも、まだ駄目だ。油断してはいけない。
これでもかってぐらいにやっとかないと。残念、と言われたら全部が台無しにるんだから。
「何とか言ってくださいよー!」
そこに、騒ぎを聞きつけた社員が部長室に流れ込んできた。
あーそうだった。この流れがあったことを忘れていた。
「た、田中さん! 何してるんですか!」
「誰か! 救急車!!」
「やめるんだ田中さん!!」
社員達が俺を部長から引き離そうと、手を伸ばしてくる。
考えるよりも先に、俺は窓側まで距離を置いた。
ここで捕まったら、やり直ししないといけなくなる。そんな気がした。
「皆さん、すみません。私はまだ捕まる訳にはいきません」
そう言い残して、俺は変身し、窓を突き破って外に出た。
社内の悲鳴を背で聞きながら、俺はそこから離れた。
「これなら大丈夫だろ! 芽は摘んだぞ!」
特に向かう先は考えていなかったが、とりあえず家に帰ることにした。
これでいい。こうすれば、この後に何も起こらない。誰の声も聞かずに済む。
だいたい、元凶の部長にまで残念とか言われたくないんだよ。
加害者を無傷のまま、事を納めることなど不可能だ。警察が犯人を逮捕する時だって最低限の有形力行使が認められている。俺のこの行動だってやむ得ないものだ。
部長は、痛みをもって反省すべきだ。
話せないくらいに叩きのめしたし、被害者も今のところいない。家に帰ってしまえば、もう誰も俺に「残念」と言えない。ループはしないはずだ。
「終わった……終わったよ……」
家について、安堵のあまり、独り言を呟いた。
「何が、残念……だよ。ったく、こっちの台詞だよ……」
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