第3話

III. 声と風

遠く、声。響く。「平和だ。待て。」声は風に乗り、壁に当たり、消える。男の首が傾く。唇が開く。「触れたい」と呟く。呟きは空気にとどまる。消えない。

男が立ち上がる。足が地面を押す。ゆっくり。壁に近づく。手が伸びる。指先が震える。壁は冷たい。光が指を照らす。照らす。だが何もない。

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