元カレの薦め

ろくろわ

私のお薦めの元カレ

 桜咲く四月。

 栞川しおりかわかさねは、晴れて母校の小海おうみ高校の教師になることが出来た。その事に栞川の事を知る人は大いに驚いていた。と言うのも、栞川の学力はお世辞にも良いとは言えなかった。そもそも勉強自体が好きじゃなかったし、友達と流行りを追いかけて、他人の恋話にキャッキャしている普通の女の子だったから。当然、授業内容が頭に入る事も無かったんだけど、そんな栞川を変えたのは、産休に入る担任の代わりに中途採用された、朝比奈あさひなあきら先生の授業を受けてからだった。先生の授業は楽しかったし、そんな授業中によく元カレの話をしていたのも覚えている。

 

 まさかこの後に、栞川自身も先生の元カレの事を好きになったり、その先生に憧れ、栞川自身も高校教師になるなんて一体、誰が予想ができただろうか。

 

 ◇


 朝比奈晃先生に多くの元カレがいたのは、授業を受ければ直ぐにわかった。その恋愛歴は波瀾万丈でドラマチックなことも多く、十六歳だった私は先生の話に虜となった。

「それじゃあ、今日も元カレの話をするね。今回の元カレはマジで俺様系だったの。メッチャ気難しくて、もう気に入らない事があったら直ぐに殺しちゃう系みたいな。もう鶯が鳴かなかったら大変。あっという間に殺しちゃうくらいなの」

 マジで?先生の元カレってかなりやばい。

「だけど、流行に敏感で先取りするみたいな?周りが刀で戦ってる時に、鉄砲とか使っちゃたり、弾が一発づつしか撃てないなら三段撃ちしたら良いみたいな?そんな所は尊敬できるの。ここオダノブのお薦めポイントだから覚えててね」

 なんか格好いいじゃん。オダノブ。その日からだった。私も先生の元カレのオダノブが好きになったのは。そんな感じで私は夢中になって先生の話を聞き、いつしか歴史の成績は上位になっていた。


 ◇


 栞川は教壇の前で大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。目の前には授業を待つ生徒の姿が見える。ぱらりと教科書をとじ、私は話を始める。

「それじゃ、今日は先生の始めの彼氏。元カレの話をするね。最初の元カレは筋肉系男子で私のために、狩りをしてくれたの。凄くない?んで、食べ物の保存とか煮込み料理のために土器なんかも作ってくれたの。しかも模様つき!縄で土器に綺麗につけるもんだから、元カレの作品から時代に名前がつけられたの。縄文時代ってね。これ元カレの偉業だから覚えておいてね」


 あぁ。早く一推しの元カレのオダノブの話がしたいな。

 それまで私は元カレたちの話を生徒に聞かせ続けるのだった。


 了


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元カレの薦め ろくろわ @sakiyomiroku

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