038:青ゴブリン、スライムと接触す(後編)

 ◇


 ジンジュです。

 ここは「アインツ市・中央広場」。石造りの街の、平和な昼下がり。


……やったはず。



 ところが、いつの間にか空気が変わってた。

 見渡す限りのスライムたちが、体を上下左右に伸びちぢみさせて踊ってる。


「「「『きゅきゅ、きゅきゅ、きゅきゅきゅ』」」」

「「「『きゅえきゅえきゅえーい、きゅえきゅえきゅえーい』」」」


 …………………

 ……………

 ……



 まるで呪文でもとなえるかのように、一斉に鳴きながら。

 もちろん、はっさくとかブンタンくんたちも混ざってる。



《従者「はっさく」他が「????」を召喚しました》

《召喚対象は他者の配下です。上位者の許可を得るか、上位者を配……許可されました》


……な~んて通知も来た。


なぁにこれぇ……?」



とか、言ってる場合じゃなかった。

 噴水の、女神像シトリーさまの上に、地面と平行な魔法陣が浮かんどる。そこから空に向かって、黒いウニョウニョが出てきた。

 ウニョウニョと細長かったはずのそれは、徐々にモニョモニョ……ボヨボヨ……ブヨブヨと形を変えながら大きなっとる。


 膨張が止まる頃には高さ2m、幅2.5mぐらいの、巨大な焼き饅頭まんじゅうみたいになった。何でか蛍光色の緑けいこうグリーンに光る真っ黒け、やけど。


 あと、触手伸ばして何か持っとる。あれは~……ペット用の食器?


「てけり・り~?」


 んで変な鳴き声やの~、禿げタk…… !?

 何これ、気分悪い……。しゃがんで……も、アカンな……


《抵抗に失敗しました。状態異常【気絶】、回復まで約55秒……》

《従者「とがの」が抵抗に失敗しました。状態異常【気絶】、回復まで約5分……》


 本日2度目の【気絶】。しかもとがのまで !? な、何や?

 何が起きとんねや ?? 範囲攻撃 ???


「……ケガとかないな。おら起きろー」


 えすとの声がして、また肩を揺さぶられる。カウントダウンの数字が、一気に減っていく。


「きゅいきゅい~?」

「きゅきゅ? きゅ」

「きゅうきゅう……?」


 はっさくらの声もする。けどボーゼの声がせぇへん。


「……ぷう?」


 ダイスくんは大丈夫か。けどレティシアさんの「ぴすぴす!」も聞こえん。大丈夫やろか……?


「く゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!! 」

「へあぁ~ッ !? 何なに何 ?? 」


 誰のか分からん悲鳴で、飛び起きた。

 声したほうを見ても、何もない……いや、青白く光るサイコロポリゴン飛んどるわ。

 誰かやられたっぽい。何やらかしたんや……


「てけ! てけり・り~」


 あ、謎の黒い生き物クリーチャーさんが、魔法陣の中に戻りよる。


「「「『きゅきゅ、きゅきゅ~』」」」


 スライムらの、熱烈な見送りを受けながら。てかめっちゃ手ぇ振られとんな。

 ホンマに何者……?


「……おう、お前ら大丈夫か?」

「俺は別状べっちょない。ジンジュは?」

「へあッ !? 」


 せやった、俺【気絶】したんやったな……


「たぶん大丈夫。痛いとか気分悪いとかはない」

「さよか。はーよかった……いやまだやな。兎起こしたり」

「「あっホンマや……」」


 無事を祝うには早かった。まだ【気絶】しとるレティシアさんととがのを起こしたろ。


「大丈夫か~?」



 ◇


 幸い、20秒ほど揺すったったら、2羽とも目ぇ覚ました。


「ぴすぴす !? 」

「ふす……?」

「「「あぁ……よかった……」」」


 拙者せっしゃ特に何もしてないけど、今日もお疲れ~。


「……いやホンマ疲れた。もう出たないわ~、今日は街から」

「「 せ や ろ な 」」


 午前中の、リアルの用事で疲れとったとこにこれや。もうやる気もクソもあれへん。

 とにかく座りたい。静かな所で一休みしたい。てなわけで……


「図書館行かせろください、他に何もなかったら」

「おっけー」


 俺の提案、というよりお願いに、えすとは即賛成した。ありがとうねぇ。

 けどボーゼは一瞬考え込んだな? コイツに本はマズかったか…… !?



「あっスマン、その前に冒険者組合ユニオン寄らせて。明日の予定を、な」

「「りょーかーい」」



 ◇




 少々、時を戻そう。

 図書館の前にまず、冒険者組合シーカーズ・ユニオン・アインツ総支部に寄るとこから。


 ボーゼ、えすと、俺、兎3羽、スライム6匹で歩く。

 今日はいとる(当社比)、ヤッター! ……とか思いながらドア開けてん。ほな鼻を突く、化学的ケミカルにおい。


「きゅお、きゅお」

「きゅい~~……」


 んで、スライムらが入るん嫌がっとる。身をよじったり波打たせたり……


「きゅう……」

「「き゛ゅ゛え゛え゛え゛え゛え゛」」

「きゅ、きゅきゅ !? 」


 吐 い た 。

 ポンカンとデコポン、スライム2匹がゲボ吐いた。


 脇におったブンタンくん――ウチのスライムのリーダー格――が、ふらふらな2匹を支える。とっさに触手伸ばして。

 ほんで、3匹に駆け寄る主人えすと


「だっ、大丈夫かー !? 」

「きゅきゅ、きゅきゅ !! 」


 ……を横目に、ボーゼが一言。


「1回戻るど!」

「了解」


 とりあえず、噴水へ引き返す。

 ブンタンくん含め、他のスライムらも“まだ吐いてないだけ”やから。建物から離れたほうがええ。


「ぴす、ぴす……!」

「ふんふんす!」


 一方で、レティシア・ダイス・とがのの兎3羽は、調子悪そうには見えん。

 薬臭いんを嫌がってか、後ろ足で地団駄じだんだ踏んどるけど。



 ……この感じ、虫けならぬ“スライム除け”か?



 ◇


 広場に出て、噴水まで戻った。噴水池で、スライムらが水飲んどる。


「「きゅえーい」」

「きゅお」


 6匹の中でも弟分・妹分らしいポンカン、デコポン、こなつ。3匹は水にかっとる……というより浮いとる。

 気持ちよさそうで、何より……


「きゅきゅ」

「きゅう……」

「きゅい~」


 残るブンタン、あまなつ、はっさくの3匹。噴水池を縁取ふちどる石の上で、彼らは体を休めとった。ぐで~っ、てとろけとる。

 で、それぞれ触手を伸ばして、噴水池の水を吸い上げとる。


 こっちも大丈夫そやな、よかった~……



 で、ボーゼが一言。


「すまん! スライム除けしとってなんせとったわ」

「あ~、やっぱり」


 ボーゼが一同に謝る。

 ここアインツやと、“スライムの大移動”は夏の風物詩なんやて。毎年1回必ず来る、と。

 で、“森の掃除屋”なスライムらは、街もきれいにしてくれるらしい。街の人、結構歓迎しとる。


 やからって、ホイホイ家に上がり込まれても困るわな。

 やからスライム除け。薬品使つこて、“この先立ち入り禁止!”て教えとくわけや。



 ……なるほど、理屈は分かる。けど組合までそれやるんか。公共施設やろうに。

 難儀なんぎやな~……


「ほな行くコ……?」

「ぴすぴぃす!」

「ふす」


 呼びかけたボーゼに返事するけど、動かへん兎ら。

 スライムらと一緒に、噴水で待っとくつもりらしい。


「ほな、ちゃちゃっと行ってくるわー」

「きゅきゅ!」



 ◇


 はい、てなわけで明日の予定、決めてきました。

 前から気になっとった、“地下墓地の探索・浄化”て依頼に挑戦しま~す。目的の地下墓地は、アインツの北北西にあるそうです。


 16歳、真夏の大冒険。

 きも だめ し で っ せ ェ ~ !!


「クソーッ!!」

ジンジュこいつに喋らすんやなかった……!」


 組合出て早々、えすととボーゼが頭抱えとる。

 う~ん……「今さらやんでももう遅い」とか言うたらええんかな? こんな時。


「ったく、こいつ言わせておけばー」

「そらお前、言わせるからやぞ~? 坊主ぼうず

少年ぼうず聖職者ぼうずを“坊主”呼ばわりするの図」

「……とか言われてまっせ~?」

「彼は“ぼうず”ですか?」

「いいえ、ボーゼで~す」


 ……言い切ってから、3人顔を見合わせて一言。


「「「何言うとんねん俺らは……」」」



 またつまらぬ茶番ものってしまった……



 閑話休題。図書館行こ図書館。


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