004:青ゴブリン、冒険者組合へ(前編)

 ◇


「んん~……! 特に何もしてないけど、今日もお疲れ~……いや早い早い」


 ベッドの上に転がったまま、伸びをして一言……で済んでないな。何してんだ。


「(午後)2時回ったとこか……30分ちょいとは思えん濃ゆさやったな~」


 3倍? の時間加速、おそるべし。

 じゃあ、ちょっと水分補給……



 ◇


 結局、1分ちょいで戻れた。あざーっす。

 光が消えたら、今度こそ噴水前。


帰ってくるぜ~アイルビーバーック!! 」

帰ってきたぜアイムバーック!! やろそこは」

「お帰りー」


 ボーゼ、えすとに、ぶるダイさんもいる。


「ジンジュさん、ご協力ありがとうございました! お礼にこの中から、1品選んで持ってってください」


 そう言って、ぶるダイさんはまたタッチパネルを見せてきた。


―――――

  ▶️“回復薬ポーション:3本セット(ランダム)”

   “銅貨:10マニ相当”

   “SPスキル・ポイント:2pt”

―――――


「……オススメあります?」

「すんません、立場上言えませんから……お2人に」


 はい。じゃあ……


「「SP:2」」

「即答ぉ !? 」

「いや、現状一番欲しいからな」

「そーそー、SPは作るとか稼ぐとか出来んし」


 “レベルが上がるか、ボスを倒すか”の2択以外では、ほぼ貰えないものらしい。


「ほなSPでお願いします」

「分かりました。ほなこれで……楽しんでってくださいね!」

「ありがとうございました~ !! 」


 ぶるダイさんは次のお仕事へ。噴水の向こう側、人混みの中に消えていった。



「ほな、俺らはどないしよ~?」

「えーと、チュートリアルの『入口ポータル』は開いたんやったな? なら次は冒険者シーカー登録か。あっちや」


 ボーゼに言われた方を向いたら……


「冒険者登録の方~、こちらで~す! 列の最後尾についてくださ~い !! 」


 ……そりゃまあ、何十組も並んでるよな。“最後尾”って書いた看板を持った兄ちゃんが、めちゃくちゃ声を張ってる。


「う~わ、だっるぅ~……何時間待ちや、これェ~?」

「……まぁ、その間に色々整理したらええ、ってことで」


 こういう時も前向きなのが、えすとのいい所だ。俺も見習わなきゃ。


 ……文句言ってても仕方ない、並ぼう。



 ◇


 登録待ちの長~い列で、友達とどのスキル取るか相談してる。結果、こうなった。


―――――

ジンジュ Lv.1

 種族:ミニゴブリン (幼鬼/下位鬼族) 男

 属性タイプ:土

 職業ジョブ:―

 所持金:1,480マニ

 SPスキル・ポイント:2

 HPヒット・ポイント:100%

 MPマナ・ポイント:100%

 状態:正常


 スキル:6

 〈鈍器 Lv.1〉〈防御 Lv.1〉〈受け流し Lv.1〉〈火魔法 Lv.1〉

 〈生活魔法 Lv.1〉〈鑑定 Lv.1〉

 ※「初期スキル」タブから、あと3個選べます

(控え:2)

 〈危機察知 Lv.1〉〈体力強化 Lv.1〉

(種族:2)

 〈投石 Lv.1〉〈幼鬼〉


 称号:1

 〈副神シトリーの祝福〉

  幸運のステータス値が微増する。

  また、知力と精神の取得経験値が微増する。

―――――


 ボーゼが言うには、“初心者は盾持ちがオススメ”だそうで。

 盾持ち必須スキル〈受け流し〉と、〈火魔法〉を追加……したら、魔法のおまけで〈生活魔法〉がついてきた。

 あと、(控え)でも動くやつはそっちへ……って感じ。これで一旦様子見だってさ。



 ◇


 列に並びだして、そろそろ30分くらい経つ。

 俺ら3人、目的の建物に入れた。


「やっと中入れたなー……」

「な~、長かった~……」

「まぁ俺らん時の倍以上、人おるしな」


 ここは“冒険者組合シーカーズ・ユニオン アインツ総支部”。

 お隣の教会ほど高くはないけど、広い建物だ。


 で、総支部ってことは、よそに本部がある。

 ここのは南の海の向こう、“新大陸”にあるそうで……。


「なお、異人プレイヤー未踏みとうの地」

「へぇ~。 ……人類に海は早すぎたんや」

「「黙れ人外レベル1……」」


 はい。

 ……で、違和感覚えとったことを1つ。


「入る前と比べて、人の出入り少ないな~?」

「そら“サーバー分割”の加減やな。多分ここ、外とちゃう鯖や。で、今なんか鯖1匹で追っつかんやろうから、他の鯖にも振り分けとんちゃう?」


 ボーゼのありがた~い回答おことば……

 なお、サーバーの単位は考えないものとする。


 そして神はおっしゃった、「ボケにはボケを重ねよ。さすれば笑いが生まれん。」と……


「てことは……“建物入ったら前の人消えたで !? ” とか、“出ようとしたら、いきなり目の前に人が出てきた~ !! ” みたいな怪談が……?」

「いきいきすな、趣味悪い……まぁ、よぉある話やな。他ゲーも含めて」


 あるあるやったか~。


「なるほど……ほなあの人は?」


 えすとに言われて、後ろを振り返ると……


 入口で出たり消えたりしとる人がおる。この建物の中から外へ向かって出てきて、中へ向かうと消える。

 よその鯖入っとった人かな?


「嘘やろ~? 境目で遊んどぉヤツおる……」

「現在進行形で草」


 あ、目が合った。どうも、こんちは~。

 はい、ひょっ○りはん! …からのオッ○ッピー!  ……ネタが古い。古いしクセ強い。

 あと兄ちゃん、その辺にしな~? でないと……


「……なに割り込んでんだテメェ !? 」

「あうち!」


 変な勘違いされて、後ろのねぇさんに蹴飛ばされました。

 あ~あ~、言わんこっちゃない。


「あれッ !? 消えた……!」


 そうなる向きだったけど、姐さん見てなかったのか……。



 ◇


 建物の中は木目調。海外映画に出てきそうな、古~い酒場風、ってとこ?

 ……あんまり見たことないから、知らんけどな。


 俺みたいに冒険者登録しに来た人と、ボーゼ・えすとみたいな付き添いが、まだ前に10組ぐらい並んでる。

 さらにその前で10組が、カウンター席に着いて面談中。


 まだまだ先は長そうだね……。



 んで、こんなに人がいたら当然、えすとみたいに声デカい異人もいる。

 対する受付の人も元気いっぱい。だからこうなる。


「……すいません、マッド科学者サイエンティストになる方法をお聞きしたいんですが」

「でしたら、こちらでの登録が終わり次第、商工組合ユニオンへ」

「俺、剣士に転職できますか?」

「すみません、まだ無理です」

「ダメか~。ありがとうございます……」


 ……盗み聞きなんかしたくない。けどさ、聞こえるのは仕方ないよなぁ~?

 ま~、せめて聞こえないフリするのがマナー……だと思うけど、全部は無理。気になることが多すぎる。


「よそ行かなアカン、とかあるんやな~?」

「まあそらな……逆にここで神官とか鍛冶師になれるほうが変やと思わん?」


 ボーゼに聞き返された。


「そらせやな。“それ冒険か~?” て言うたら、ちょっと違うやろし」

「そゆこっちゃ。まあでも、材料集めとか移動とかあるから。結局、冒険者登録もしとけ、て話やけど」

「……筋通っとぉからええけど、二度手間やんな~?」


 重ねて聞いたら、2人とも渋い顔をしている。


「せやな。正直たまに面倒めんどくさい……」

「そーそー。どっちにも報告せなアカン時あるし」

「なるほど……生の声あざ~っす」



 冒険者シーカーぎょうも楽じゃない、らしい。

 頑張ろ…………



――――――――――――――――――――

(後編)に続く ▶️▶️▶️


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